農耕獣牽引式のコンバイン
馬車はゆっくりと走り出し、いつもの大通りへ出ると昨日走った道を再び進んでいく。
最後に崖を登った道へ曲らず、そのまま真っ直ぐ進むらしい。
まだ二度目だがすっかり見慣れたつもりの城門をくぐり、アパート群を越え、橋を渡ると馬車は速度を落した。
城壁の内側は所々に街灯があり、星明かりにしては明るかったが、このあたりは真っ暗だ。
その暗く先の見えないなか、道路の脇に明かりの塊が見えてきた。
目をこらすと、何台もの馬車が停っている。
どの馬車も出発の準備を済ませているように見える。
「アレは、みな、ツイて来マス」
我々の馬車が過ぎるのを待たせていたのかと思ったら、キャラバンを組むつもりで待っていたらしい。
野盗対策?
「馬車、壊れル時、助けあいするデス」
道中危険はないけど故障なんかは当然あって、そんな時に部品の融通とか人手を出し合うとかするのに、キャラバンを組むのが作法のようだ。
とくに今日は侯家の馬車が早脚で王都まで行くというので、脚自慢の馬車を仕立てた人達が待ち構えていたのだとか。
あまり無下に扱うと侯家の評判に係るので、少し速度を落して付いてこられる馬車は拾っていくらしい。
あと侯家の貨物を積んだ馬車と追加の警護部隊もあそこで合流してたそうだ。
え? 館を出たときより更に増えてるの?
結構なサイズのキャラバンとなったらしいが、前後の車列は窓から見えない。
車窓から見えるのは、昨日とおなじ広大な農場。
牧場なら見慣れない家畜とか居るのだろうが。
時々黄色い駝鳥に跨った騎士?が駆け抜けていくくらいしか彩りがない。
ヒューさんは優雅に本を読んでいる。
時々本にペンを走らせているが、なにか勉強しているのだろう。
「食事処が紹介されている、書物のようですね」
チラ見していると、ヒューさんの肩で覗き込んでいた妖精さんにメリルちゃんが聞いて教えてくれた。
妖精さん情報によると、道中の観光グルメ情報誌をチェックしているらしい。
まあ、勉強ではあるに違いない。
外の景色は単調だし、少し寝るか?
そんなことを考えながら座ったままストレッチをしていると、メイドさんがお茶を淹れてくれた。
メイドさんの淹れてくれたお茶と、フルーツを混ぜ込んだクッキーを摘む。
「おお、昨日は、ココを、曲りましたな?」
お茶を飲みながらボーっとしていたら、もう侯庁舎の分かれ道まで来ていたらしい。
川を左手に段丘を崖に沿って進む。
侯都のある平野の縁を進んでいるわけだ。
後からわちゃわちゃと声があがるので覗き込むと、窓から陽の光りが差し込んできた。
ヒューさんの後席で妖精さんたちが窓に群がっている。
朝日が登るのに気が付いて、歓声を上ていたらしい。
俺も妖精さんたちの居る席に移動し、窓から朝日を拝む。
麦畑の向こう端、真っ直ぐに伸びた地平線から太陽が上がってくる。
麦の穂が朝日を浴びて、大地が黄金色に輝く。
この大量の麦、どうやって刈り取るんだろう?
「細い、長い棒デ、横一列、切り倒し、します」
俺が後ろでメリルちゃんと話しているのを、座席の上から覗き込んできたヒューさんが教えてくれる。
のだが、何を言ってるのか分からない。
よくある「ウインドカッター」の魔法で麦を刈るのかと思ったら違った。
自転車作るときに木工さんが使っていた謎ナイフが仕込まれた車で刈り取るのだと。
つまり、農耕獣牽引式のコンバインがあるらしい。
それもかなり大型っぽい。
農機具の先端具合に驚きつつヒューさんと会話していると、前方に山が迫ってきた。
すわトンネルかと思いきや、両側に切り立った壁。
「山、切って、両側、圧し固め、しました」
ビルの5階くらいの高さだろうか。
土木魔法で切り開いたらしい。
この倍くらい高いとトンネルを掘るのだとか。
所々陰になるので上を見上げると、崖の頂に天然ぽくない木やツタの橋が架かっている。
「山、切る、あと、道、渡す、します」
人が通ることもなさそうなのに?
「山の、生き物、通る、します」
分断で動植物の生態系が壊れないように橋を架けているらしい。
パイプっぽいのもあるけど、それは地下水や川の水道橋だと。
そんなに面倒なことしないで、トンネルしちゃえば良いのに。
ああ、土木工事のコストより、照明の維持管理の方が、コストがかかるんですか。なるほど。
「*****」
「*****」
「*****」
切り通しを進んでいると、ヒューさんにメイドさんが声をかけてくる。
「崖、越える。朝ご飯、食べる、します、そうです」
さて、今日の朝ご飯はどんなところで食べるんだろう。
ほどほどの長さのトンネルを幾つか越え、馬車が停った。
山に挟まれた入江の港町を望む高台。
促されるまま馬車を降り、崖沿いに建った平屋建の建物へ。
入ってすぐは、地物の魚介をメインとした物産売場?
奥にはテーブルの並ぶ食堂。
海沿いの眺望が売りなドライブインといった風情。
侯女ちゃんとメイドちゃんに付いていくと、食堂のさらに奥へと案内され、外階段を少し降りた、崖から張り出した展望テラスに案内された。
広く間隔を取って、4人がけのテーブル席が幾つも並んでいる。
テーブルも椅子も、屋内のよりかなり上等だ。
このフロアーはVIP席なのだろう。
なかでも眺望の良さそうな一番海側の席に、侯女ちゃんとメイドちゃん。俺とヒューさんが案内される。
ここのテラスにはちゃんと手摺りがある。
海向きの崖にしては風がないなと思い手摺りに手を向けると、やはり不可視の壁がある。
席を離れ、手摺りを持ちながら海から昇る朝日を拝んでいると、カチャカチャと音がする。
振り返るとイケメンのボーイが朝食を配膳している所だった。
ありがちの雰囲気イケメンではないので、馬車で一緒に来た侯爵家の使用人かもしれない。
慌てて席に戻る。
配膳されたプレートに載っているのは焼き魚?




