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第5話

「俺が、やるよ。」


キースは確固たる決意のこもった眼で仲間にそう告げた。


「だめよ! そんなこと、させるわけにはいかないわ!」

「お前一人で何でも背負い込もうとするんじゃねぇ!」

「キース…。」


仲間はそう懇願するも、キースは聞き入れようとはしなかった。


「誰かがやらなきゃいけないのなら、一番成功する可能性の高い俺がやるべきだ。そうだろう?」


仲間を守るため、世界を守るため、キースがその選択をするであろうことはわかっていた。だけど、


「だめ! 絶対だめ!」


理解と納得は別物なのだ。


「キース、お前はいつも言ってたよな。皆が笑える世界がほしいって。」

「ああ、だからこそ、」

「だったら! わかってるんだよな! お前がいなきゃ笑えないやつがいるってことも!」

「……。」


キースは言葉なくただただこちらを見つめる少女を見る。


「…それでも、やるよ。」

「キース!!」


なおも言いつのろうとした仲間を止めたのは、他でもない少女だった。


「キース。」


少女の目にもまた、強い決意が宿っていた。


「信じてるから。キースなら、帰ってきてくれるって、信じてるから。」

「…ありがとう。」


そんな二人のやり取りを見て、他の仲間も苦しそうにしながらも、決意した。


「くそ! なんでいっつもお前ばっかりに…! いいか、帰ってこなかったら、ぶん殴りに行くからな!」

「そこまでの道は、必ず私たちが切り開くわ。それくらいのことは、させてくれるんでしょう?」

「ああ、頼りにしてる。…必ずこの世界を救おう。みんなで、な。」




という夢を見た。重症だ。

しかも、最新刊の最後のほうの内容…。その後が見たかった!

もう、私の妄想でいいから脳内でシナリオ展開してくれたらよかったのに!

あと一巻分も話が続くってことはこの後想定外のことが起きるんだろうけどね! そこはカットでいいからさ!


絶対、昨日キースの話をしたせいだよ…。

と言っても、たいしたことは話してなんだけどね。キースの人となりについてくらい。

世界観まで話してしまったら、また引かれる…!

というものの、話しているうちにちょっと熱が入ってしまったのはお約束だ。

慌てて止めたけど、まあ無駄だっただろうね…。


続きが読みたいよー…。

またぶり返しちゃったよ。思い出し始めると、ダメだね。いろんなシーンが際限なく思い出される。

まあ、アニメ化してたわけじゃないから、想像なのだけど。


本当に、なんとか知る方法はないのかな。

ないよね。

ここ地球じゃないからなぁ。同じ世界に転生してたら続き読めたのに…。


あ。


「可能性、あるかもしれない。」


思わずつぶやいた後、ハッとして周りを見渡すが、当然部屋の中には誰もいない。

危ない危ない。独り言は厳禁だよ。あの二の舞は…。


それはともかくとして、あの小説の続きを知る方法、一つ思いついた。


同じ世界からの転生者がいれば、知ってるかもしれない!

私より後に死んでいて、あの小説を読んでいる人が、この世界に記憶を持って転生してたら…!


そこまで考えるも、あまりにも限定的な状況すぎてため息が出る。


確率が低すぎる!


ゼロではないかもしれないけど、限りなくゼロに近い。

でも、ゼロじゃない。


…転生者っぽい人がいたら、ちょっと聞いてみよう。怪しまれない程度に。


うん、その程度でいいよね。

もう、あんな目で見られるのはいや…。心の傷だよ。


「よし。」


起きよう。

とりあえず夢の衝撃を落ち着かせた私は、着替えのためにクリミアを呼ぶことにしたのだった。




この時の私は知らなかった。

私の精神状態を心配したイースリュード様が、クリミアに私の様子を報告するように命じていたことを。

何かあった時にすぐ察知できるように、クリミアが部屋の中の様子をずっとうかがっていたことを。

私が寝言でキースの名前を呼んでいたことを。


結果、キースの名前を呼んだあと、何らかの可能性に思い当たり、決意のこもった声を出されていたと報告されたのだ。

ここまで来るともはや悪意を感じる。それを知った時、私はそう思った。

その報告を受けたイースリュード様が、誤解をするのはもはや言うまでもないと思う。

いつの間にか、キースの生存を信じて探し続けている、という設定が新たに私につけられていたのだけど、私がそれを知るのはずっと後になってからなのだった。






ようやく帰ってきました、懐かしの我が家!

やっぱり家は落ち着くね。

イースリュード様はなんだかやけに渋っていたけど、予定より延びていたのだし、とどまる理由もない。

両親のもとに返したくなかったんだろうけど、普通にいい親だからね?

久しぶりに羽を伸ばせる。


「ただいま帰りました。」


と言っても、部屋に戻るまでは出来るだけ所作に気を配らないと。

家でも礼儀作法の勉強とかしたくないよ! もう、十分だから!


「ぶっ!」


だというのに、私の挨拶を見て噴き出した失礼な人物を見て、簡単に崩れてしまった。


「ちょっと! 人が必死にやってるのに笑うとか失礼でしょ!」

「だって、似合わねー!」

「っていうか、なんでここにいるの!?」


そこにいたのは従弟のコーディックだ。他家に嫁いだ叔母の次男。私の結婚相手として最有力候補だった人物でもある。

イースリュード様との婚約で完全になくなったけどね。

お互いに高等学校を卒業してもいい人がいなかったら~なんていうふわっとした話だったので思うところもない。


「お前のせいだっつーの。」

「まあまあ。ウルレシア、とりあえず座りなさい。」


父に促されて、あいているところに腰を下ろす。

母がお帰りなさいと言ってくれて、何となくほっとした。


「ウルレシア、先にそちらの話を聞きたい。お城では粗相なく過ごせたか? 殿下の気に触れるようなことはしていないだろうな?」


それはどちらかというと、そっちなんだけどね…。いや、何もしてないんだけど。


「大丈夫です。殿下はお優しい方ですし、カナリヤ様ともお知り合いになれました。」

「それって、大丈夫なのかよ?」


普通に考えたらカナリヤ様はライバルだもんね。


「うん。詳しくは話せないけど、大丈夫なの。」

「カナリヤ様に味方についてもらえるなら、安心ね。」


母がほっとしたように言った。

そんなそぶりは見せてなかったけど、心配してくれていたらしい。何かあった時、二人ではかばえないもんね。

嬉しさと申し訳なさが沸き上がる。


ごめんなさい…イースリュード様の誤解解けなくて。二人が一生知ることのないように、頑張るよ。


「そうか、ならいい。それで、だ。ウルレシアが嫁ぐのなら、この家の跡継ぎが問題になる。」


ああ、私一人っ子だもんね。

婿を取る予定だったけど、王家に嫁げるならそのほうがいいよねってことで舞踏会に出た結果こうなったわけだけど。


「そこで、コーディックを養子にすることにしたんだ。急ぎすぎかとも思ったが、こういうのは早い方がいいからな。」


あるあるだね。

つまり、コーディックが弟かぁ。もっとかわいい弟がよかったな。べつにいいけど。

でも、この家での私の居場所が…。婚約破棄した後、帰ってこれるかしら…。ただの邪魔ものになりそうで怖い!


「全く、もうちょっと自由に過ごせるはずだったのに、お前のせいでいきなり跡継ぎになっちまったじゃねぇか。」


幼いころからよく一緒に遊んでいたので、遠慮のかけらもない。

父も母も楽しそうに笑っている。


「エンドリック家の跡継ぎとして、もっとちゃんとしなさいよね!」

「殿下の婚約者としてもっとお淑やかにしたらどうだ?」


しまった! 盛大なブーメランだった!


「本性ばれたら、すぐ振られんじゃねぇの?」

「わ、私だってやる時はやるんだから! そんな心配ありませんー!」


振られるけどね!


「でも、振られたらちゃんとここに帰ってこさせてよ!? 直系の娘とか邪魔だとか言わないでよ!?」


ここは言質をとっておかないと。


「…なんか、そうなる心当たりでもあんの?」


おっと、声が本気になってしまった。ちょっとツンデレ入ってるだけで普通に仲いいのだ、私たち。


「んー…。なんていうか、政治的な問題がね。やっぱり、我が家は所詮伯爵家だし。」


本当のことは言えないけど、こういっておけば問題ないと思う。

振られる可能性は考慮しておいてもらわないと!


「それは殿下がどうにかしてくれんじゃねぇの? つーかどうにかできるから、婚約者に選んだんだろ?」

「もしかしたら、だから、そんなにマジにならないでよ。」


これ以上余計なことを言ったら誤解が生まれそうだ。もう勘違いはおなか一杯よ!


「まだ婚約して日が浅いからな。ウルレシアも自信が持てていないんだろう。大丈夫さ。」

「さ、ウルレシアも疲れているでしょう? ゆっくり休みなさいな。」

「はーい。」


もはやお淑やかさなど捨て去った私は、そういって自室に戻った。



自分の部屋がこんなに落ち着く空間だったとは。新発見だ。

だけど、落ち着いてばかりもいられない。

思ったのだけど、もし、我が家に出入りしている人の中にキースって名前の人がいたら大変じゃない?

過去に一回でもいたらアウトな気がする。その人に多大な迷惑が…!

一度調べておくべきだよね。

いなければいいんだけど…。


その行動が勘違いを確固たるものにするなんて思いもせずに、私は一番信用している侍女を呼んだのだった。


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