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第4話

「ウルレシア、服をつかむな。そんなに心配しなくてもある程度手はまわしてある。」


子供のように服をつかんでしまっていた私に、イースリュード様は呆れたようにそう言った。


「それは上流貴族の方々の話じゃないですか。女の嫉妬は怖いんですよ!」


手は離すものの、そう主張する。

思いっきり本音で話してる、とか言っちゃだめです。大事なことは言わなくては!


「ぜ、絶対に一人にしないでくださいね。ちょっとここで待ってろとかなしですよ。」

「わかってる。ほら行くぞ。」


そういって手を差し出される。


パーティの主役である私たちが行かなければなにも始まらないのだ。

大丈夫、大丈夫。本当にお披露目するだけなんだから。この日のために必死に猛特訓したんだから。

もはや地位的なことで言われるのはどうしようもないけど、それ以外は私にかかってるのだから。


…よし!


背筋を伸ばし、笑顔で、指先の動きにまで気を配って、


「はい、イースリュード様。」


そういって、手をのせた。




「イースリュード様、このたびはご婚約おめでとうございます。」

「殿下が見初めた方なだけあって、かわいらしいご令嬢で。」

「エンドリック家のご令嬢だとか。殿下も思い切ったことをなされましたな。」


パーティが始まると次から次へと国の重鎮の人たちがあいさつに来る。

私たちの婚約披露パーティなのだから当然だけど。

受け答えはすべてイースリュード様にお任せだ。私は笑顔を保つことに集中である。

予想した通り、視線がちくちく刺さっている。ぐさぐさ、かな?

手をまわしているという言葉通り、上流貴族の人たちはそんなあからさまな嫌味を言ってくる人は少ないし、たまにフォローもしてくれる。

内心ではどう思ってるかはわからないけどね。

ただ、その娘たちの視線が痛い!

なんであんたなんかが選ばれてるのよ、このブス! 伯爵家の人間が調子に乗ってるんじゃないわよ! って感じかな。

我慢するしかないね…。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。殿下。」

「オーレン公爵。」

「殿下、このたびはご婚約おめでとうございます。」

「カナリヤ、ありがとう。」


親子そろっていらっしゃった!


「ウルレシア嬢には先日偶然お会いしてご挨拶させていただいたのですが、ぜひ娘とも仲良くしていただきたいと思いましてな。」

「カナリヤ・オーレンと申します。こうして直接お話しするのは初めてですわね。ぜひ、仲良くしてくださいませ。」


ど、どうしたらいいの!?

了承しちゃっていいのかな…。漫画通りの人なら問題ないと思うんだけど。

ちらりとイースリュード様のほうを見ると、軽く頷いてくれた。


「それは、ウルレシアもとても心強いでしょう。」


仲良くした方がいいのね。OK。


「ウルレシア・エンドリックと申します。願ってもないお言葉です。どうかよろしくお願いします。」


そういうと、カナリヤ様はにっこりと笑って、とんでもないことを言ってくれた。


「明日、お時間ございますか? ぜひ、一緒にお茶をしましょう。」


断ってもいいですか!?

心の準備がしたいです!

漫画ではイースリュード様との婚約は義務的な感じだったし、ヒロインに対しても優しくて、すごくできた人だったけど、今もそうとは限らないしさ!


「カナリヤ、それには俺が参加しても?」


ぜひ! どんな人かわからない状態で二人っきりは勘弁! イースリュード様とは散々なってるけどね!


「あらあら。そんなに心配しなくても大丈夫ですのに。構いませんわ、三人でお茶をいたしましょう?」


助かってないけど、助かった…。

大丈夫だとは思うんだけど、父親があれだけ敵意向けてきたら、ねぇ。


「ウルレシア、構わないか?」


もう決定してるよね?


「もちろんです。楽しみにしております。」

「わたくしも楽しみにしておりますわ。それでは、また明日。」


そういって二人は去っていった。

オーレン公爵は始終無言だったけれども、満足そうな顔をしていたから望み通りの展開だったのだろうね。

二人並べればどっちが優れているかなんて一目瞭然だろうって感じかな。

予想だけど。


その後もひたすら挨拶に来る人の相手をしてパーティは終了した。

明日が憂鬱だ…。





「ウルレシア、カナリヤとは仲良くしておけ。」


翌日、カナリヤ様を待つ間、イースリュード様がそう言った。


「あいつの庇護下にいれば同年代の女は大抵手出しができなくなるからな。」


なんたって公爵家令嬢。その発言力は絶大だもの。敵に回るなんてとんでもない。いや、ちょっとその危機なんだけど…。


「仲良く、なれますか? オーレン公爵様にはよく思われていないようなのですが。」

「ああ、大丈夫だ。」


そんな話をしていると、カナリヤ様がいらっしゃった。


「お待たせして、申し訳ありません。」

「いや、二人で話をしていたからな。大丈夫だ。」

「あら、仲がよろしいのですね。」


にっこりと笑うその顔から、棘は感じない。本心なのか、うまく隠しているだけなのか。


「わたくしがお誘いしたのに、すべてお任せしてしまって申し訳ありません。」


あ、ちなみにここはお城の一室。

さすがにオーレン公爵家に乗り込むのは無理。


「ウルレシアも今はここに滞在しているからな。一番手間がかからないだろうと思ってな。」


おかげさまで滞在期間が延びましたとも。

お披露目がすんだら帰れるはずだったのに!


お茶の準備が整うと、侍女の人たちは全員下がっていった。また内緒話?


「ウルレシア様、改めて自己紹介させてくださいませ。カナリヤ・オーレンですわ。カナリヤ、とお呼びください。」

「う、ウルレシア・エンドリックと申します。わ、私に敬称は必要ございません。カナリヤ様。」


公爵令嬢に敬語で様付けされるって、どんな罰ゲーム!?

結婚すれば私の方が上になるかもだけど、今は断然下っ端だからね!?


「殿下の妻となられる方にそのような態度はとれませんわ。」


ならないんだよー!

カナリヤ様はそんなこと知らないだろうけどさ。もしかして、これは嫌がらせの一種!?

私がそう思い立ったとほぼ同時に、イースリュード様が口を開いた。


「カナリヤ、ウルレシアをからかうのもそれくらいにしておけ。」


からかわれてたの!?


「ふふ、ちょっとしたお茶目ですわ。では、ウルレシアさん、とお呼びさせてください。」

「は、はい。」


ちょっとついていけてないよー。

どういう状況?


「ウルレシア、カナリヤにはすべて話してある。だから困ったことがあったら頼りにするといい。」


そうだったの!?

つまり、仮初の婚約ってことも知ってるってこと!?


「父のことは気にしないでください。いろいろ、複雑なのです。ですが、私個人はウルレシアさんの味方ですわ。」


多分、派閥争いとかでいろいろあるんだと思う。


「もしかしたら、同じ殿下の妻として並ぶことがあるかもしれませんし、ないかもしれません。どちらにしても、仲良くいたしましょう。」


うーん、漫画通りなら、ないんだよねぇ。

でも、本当にそれが必要ならそうするって感じ。これが上流貴族ってやつなのかな。


「私、は多分いずれ婚約破棄するかと…。」


でも、漫画ではヒロイン一筋として書かれてたけど、そのあと側室を娶った可能性はあるんだよね。

カナリヤ様だから破棄という形になったけど私だったらヒロインを王妃にして、私を側室にするのでも問題ない?

うーん、どうなんだろう。そのあたりの認識はちょっと私にはわからない。


「あまり過去にとらわれるべきではありませんわ。」


ん?


「殿下を責めないで差し上げてください。ウルレシアさんを守ろうとしたのですわ。」


責める? 何かしたのだろうか?


「死んだ者には会えませんし、死んでしまってはすべて終わりなのです。」


ちょっと待ったーーーー!!!


バッとイースリュード様のほうを見る。


「言っただろう? すべて話した、と。」


広めちゃった!? あの壮大な勘違いのまま、広めてくれちゃいました!?


「ですが殿下、女性の過去を無断で人に話すものではありませんわ。」

「お前を味方につけるには必要だと思ったからだ。ほかには話してない。」

「当たり前です。」


いーやーーー!!

やっぱり物語の登場人物ってこと信じてないじゃん!

わかってたけど!


「あ、あの、違うのです。」

「殿下でも良いですし、ほかの方でも良いと思います。今生きている方に心を向けましょう? きっとキースさんもそう願ってますわ。」


私の小さな抗議は届かなかったようだ。


死人に口なし。都合のいいように解釈するべきだよねー。うんうん。

元恋人は私の幸せを願ってるはずだから新しい恋をしましょうってことね、うん。

って違う!


「あ、あのですね! それはイースリュード様の勘違いなのです! キースというのは物語の主人公の名前で、恋人などではないのです!」


よし、言い切った!

これ以上誤解が広がるのは防いでみせる!


「あら、そうなのですか?」


よし、解ける余地あり!


「ウルレシアはそういうが、国内に流通している本に該当するものはなかった。」


ちょ!? 邪魔しないで!

っていうか権力者怖い!!

全部調べたの!?

一応検証はしてくれてたのね。

っていうか、それなら私の周りにキースって名前の人物がいないことも調べついてないの!?


「ああ、なるほど。」


あ、あ、カナリヤ様…納得しないで! 察しがよくて聡明なのは知ってるから! ここでは発揮しないで!

広がる…広がってしまう!


「前世で読んだものだからこの世界にはないのです!!」


……あ。


「「………。」」


あああああ!!! やっちゃった! やっちゃった!!

言うつもりなかったのに!


「…ウルレシア。」


びくりと肩を震わせてしまう。


「俺が悪かった。だから、落ち着け。大丈夫だから、な?」


いやーー!! これまでにない優しい声で慰めないで! 頭とか撫でないで! 抉ってる! 抉ってるから!


「物語の主人公なのですね。きっと素敵なお話なのでしょうね。」


カナリヤ様もやめて! 話を合わせてあげなきゃとか思わなくていいですからぁ!!


駄目だ、頭おかしい子と思われた!

恥ずかしい! 穴があったら入りたい!

せめてテンパっておかしなことを言っただけだと思って!


「…今のは忘れてください。」


本当に、お願いします。


「ああ、大丈夫だ。わかってる。」


うう、どうせわかってないんだ。


「ウルレシアさん、差支えなければキースさんがどのような方なのか、お話ししていただけません? 主人公ということは、素敵な方なのでしょうね。」


こっちに話を合わせつつ、探りいれてきてるよ!

この人も、伊達に公爵令嬢してないね…。


「俺も知りたいな。」


これ以上恥の上塗りをしろ、と。

いいよいいよ、話すよ。話せることだけね…。


私は投げやりな気持ちで、二人にキースについて話したのだった。


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