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第18話

「とりあえず、どっちも落ち着け。」


どこから誤解を解くべきか、必死に考えていた私はコーディックのその言葉に我に返った。

落ち着いてたつもりだったんだけど。


「なんつーか、仕組まれてんじゃないかってくらいにいろいろはまってるけどな。問題は別にそこじゃねえだろ。」


ダムシェル様キース説を否定する以外に問題にするところある?


「え、だって、誤解されたらダムシェル様だって困るだろうし。」


ちゃんと否定しないとまずいだろう。


「そっちの心配はとりあえずほっとけ。そうやって論点をはっきりさせないまま話すからすれ違うんだろうが。」


論点って、ダムシェル様が私の想い人のキースかどうかってことじゃないの? いや、そもそもキースは想い人じゃないんだけど。


「ダムシェル様が過去にキースという名前でシアと会っていたとして、それがどうした?」


どうしたって、それはイース様にダムシェル様が好きだと思われたくないなって、思って…。

あれ、でもイース様は何を心配してくれてるんだろう。


「たとえそうだとしても、シアは会っても思い出せない程度の想いしかないんだろうが。一人で勝手に敵を強大にさせてんじゃねえよ、イース。」

「コーディック…。」

「お前の不安はどこだ? 何をそんなに心配してる?」


コーディックにまっすぐ見据えられて、イース様は口ごもった。


「…ステラに言い寄っている姿を見て、ウルレシアがまた傷つくんじゃないかと思って。」


なるほど、確かにイース様の勘違いがすべて真実だとしたら私はショック受けてただろうね。

まあ、まったくの誤解なので全然平気ですけどね。


「建前はいいから。むしろそれが理由なら気づかせないのが一番だろうが。」


たしかに!

知らなきゃ傷つきようもないもんね!


「どうせ、キースと再会したらシアが自分から離れるとでも思ったんだろ。」

「え…。」


そ、それってそれって、うぬぼれてもいいってことですか!?

離れてほしくないと思うくらいには好かれてるってことでいいですか!?


バッとイース様のほうを見ると、少し顔を赤らめていて、思いっきり目をそらされた。


やばい、うれしすぎる。

今ならダムシェル様の仕組まれたがごとき設定に感謝できる気がする!

そのおかげでイース様がそう思ってくれたのなら勘違いされた甲斐があるよ!


「…キースがいるなら、俺の婚約者でいる理由がなくなると思ったんだよ。」


今にして思えば、私が婚約者してるのはイース様のためなのでキースは全然関係ないんですけどね。

でも、そう思って不安になってくれたとか、それだけで幸せなんですけど!


「…で?」


コーディックがこちらを見てそう問いかけてきた。

何を問われているのかわからないんですけど?


「ったく、なんで俺が全部代弁しないといけないんだよ。ダムシェル様がキースかもしれないわけだ。お前曰く違うらしいけどな。」


うんうん。


「まあ、ここはそうだと仮定して、だ。そうだとしたら、お前はどうする? イースの婚約者やめて、キースのところに行くのか? イースはそこが聞きたいんだよ。まったく、これくらい自分で言えよな…。」


もちろん、行かない。

だって、私が好きなのはイース様だけだ。


…そっか、イース様は私がどうするのかを聞きたかったのか。

勘違いが発生したなら解かないと! って考えしかなかった。

コーディックは気付いたのに私は気付けなかったのは悔しいけど、今はそれどころじゃないよね。

ちゃんと、言葉にして伝えないと。


「行きません、絶対に。仮にキースが目の前に現れて、手を伸ばしてくれたとしてもその手を取ったりしません。だって、私はイース様の婚約者ですから。」


精いっぱいの好意を込めて、宣言する。

さすがにコーディックもいる前で告白はできません! これが限界!


「ウルレシア…。」


イース様は信じられないといった表情でこちらを見た。


「信じるも信じないもお前次第だぞ。で、あとは俺のいないところでやってくれ。ザック! もういいぞ!」


そういえば、やけに家につかないと思ったら…いつの間に寄り道の指示出してたの、コーディック。





「コーディック、ちょっといい?」

「…イースは?」

「え、帰ったけど?」


先にさっさと部屋に戻ったコーディックを追って部屋を訪ねるとちょっと顔をひきつらせて出迎えてくれた。

イース様ならお礼を言って帰ったよ。


「あいつは…! なんでここで決めねえんだよ…。」


何を言いたいのかはわからないことにしとこうかな!


「コーディックにお礼言っておこうと思って。」


コーディックがいなければ、私はただ誤解を解くことしか考えなかったと思う。

そしてきっと誤解も解けないままにすれ違っていた。


「いらねえよ。お前のためじゃねえし。」


うんうん、いい弟をもって幸せだよ。


「最近ちょっと頼りになりすぎじゃない?」

「周りに頼りないやつがいるせいでな。」


かたじけない。


「で? どうせそれだけじゃねえんだろ?」


こういうところが頼りになりすぎというか、鋭すぎるというか。…私が分かりやすいだけ?


「んー…。コーディックはさ、誤解されたままでも、いいと思う?」


ずっと、勘違いは正すべきだと思っていた。そうしないと進めない、とも。

でも今日の話で、別にいいんじゃないかって思ったのだ。

私がキースを好きだったと思われたままでも、ダムシェル様がキースだと思われたままでも。

それ以上に今はイース様が大切だって伝えればそれでいいんじゃないかって、そう思った。

もちろん、正すべきところは正すけど、そこにばかり目を向けるよりも、やるべきことがあるんじゃないかな、なんて思ったり。


「そりゃあ、誤解はないほうがいいに決まってるだろ。いい方ならともかくな。だけど、お前はそれ自体にとらわれすぎなんだよ。」

「うん。」

「イースが勘違いしすぎるのが一番問題だけどな。それを否定するだけじゃなく、その勘違いで、イースが何を思っているのか、考えているのか、そこを見てやれよ。」

「うん。」


なんだか、コーディックのほうがイース様のことを分かってるみたいで悔しい。


「あくまで俺の意見だからな。」

「うん、ありがとう。」


私は本当に周りの人間に恵まれてると思うよ。





「そんな設定、わかるはずないだろ…!」


ダムシェル様はそう言ってテーブルに突っ伏した。


「ですよねー。」



キース云々は置いておいても、ダムシェル様とは話をしないといけないと思った私は、ステラに協力を頼んだ。

それはもう渋られたけれどもなんとか協力してもらえることになった。

二人だけで話せる場所として、ステラの部屋を提供してもらったのだ。

私がステラの家に遊びに来て、そこにダムシェル様が押しかけてきたという体をとっている。

ステラの家は一階が定食屋で、ステラはそこで手伝いをしていることだろう。

対してステラの部屋は三階。話し声が聞こえることはないと思う。


「いきなり漫画と違うからこっちとしては戸惑いの連続だったんだけど!?」


それは本当にかたじけない。

ダムシェル様としては、漫画通りに進めて帰るだけのつもりだったらしい。

転生者的物語はもう十分だそうで。


「前世の妹がこの漫画読んでてさ。僕もあったら読むって感じだったから知ってたわけ。で、ダムシェルって本編完結後に出たスピンオフ作品でメインキャラだっただろ?」

「え、そんなの出てたの!?」


なんと、私の死後に出たようだ。

つまりダムシェル様は私より後に死んだってことで…。

もしや…! と期待したけど、キースのことは知らなかった。読んでないんだってさ、ちぇっ。


「まあともかく、アーノルンでの話は僕にとってはおまけなわけ。だから漫画通りにしたかったのに…。」


最初、婚約者が私なことに驚き、それをごまかすための言い訳にイース様がやけに反応して焦り、私の反応を見て余計なことした、と落ち込んだらしい。

商人としてうろついてたこと、言うつもりなんてなかったのになぜか口走ってたんだよね、とダムシェル様は首を傾げた。


「これが小説とかでよくある世界の修正力ってやつなのかもね。」


…修正されてる?


「全然違う展開だけど?」

「大きく見れば同じなんじゃない? ダムシェルの留学をきっかけにアーノルンの王子は一歩踏み出すんだから。」


世界からイース様に与えられた試練ってこと? わかるようなわからないような。


「君が転生者だろうことはすぐに予想ついたけど全然一人にならないんだもんなぁ。どう動くべきかほんと困ったよ。」


とりあえず漫画通りにステラに近づいたけど、あまりの冷たさにめげそうだったらしい。


「ちなみに、昔君に似た子と会ったってのは嘘。キースって名乗ってこの国をうろついてたのは本当。前世思い出して、いろいろ思うところがあったからさ。でもエンドリック領にはいってないし普通に会ってないと思うよ。」


それはなにより。まあ会ってても大した問題ではないけど、たぶん。


「まあ、これまでのことはいいや。それよりもこれからだ。君がヒロインってことでいいんだろ? さっさとこの世界の枷から抜け出そうぜ。」

「枷?」

「そ、未来はこうなるべきっていう強迫概念的な。知ってる未来が終われば後は自由に生きられる。こうしないと、とか、展開が違う、とか悩まなくても済む。」


そういう見方もあるのか。

確かに知らなければ素直に受け取れたこと、喜べたこと、いろいろあるかもしれない。

でも知ってたからこそ出来たこともあるわけで。


うーん、確かに枷ともいえるのかも。受け取り方次第だけど。


「漫画通りの展開で問題ないんだろ?」


ちゃんと役割果たしてくれよな。


ダムシェル様はそう言って私の腕をつかんだ。


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