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第17話

ダムシェル様がやってきてから一週間。

イース様やカナリヤ様とはたまに挨拶する程度にしか会えていない。

いろいろわがままを言われて大変なのだそうだ。


「早く帰ればいいのに。」

「ステラさん、それは思っても口にしちゃだめです…。」


この一週間、ほぼ毎日のように現れるダムシェル様にステラのイライラはマックスのようだ。

毎回何かに誘われては断ってるけど、そろそろ断り切れなくなる気がする。

権力を使われたらどうしようもなくなるしね。


それに、なんとなく転生者のような気もするんだよね。


こちらの状況が全然違うのに、セリフが漫画と同じすぎるところとか、たまに言葉に詰まっているところとか、私をやけに気にしているところとかが。


でも確証はない。

どれも、そういうこともあるかもしれない程度だ。


一番気になるのは最後、私を気にしているところだ。

ステラと話しているときもこちらの動向を気にしている感じがある。

イレギュラーに対する警戒にも見えるし、単純にイース様の婚約者だからかもしれない。


転生者ならいろいろ説明はつくけど、キースに関してはわからないままなんだよねぇ。


気になって、目で追ってしまってはステラに怒られている。

うん、これ以上誤解されたら大変だもんね。気を付けます。




「あれ、ステラ、さっき先生が探してたよ?」


放課後、教室から出るとステラの友人がそう伝えてきた。


「え、なんだろう。すみませんウルレシア様、ちょっと行ってきますね。残念ですけど…先に帰っていてください。」

「はい、また明日。」

「また明日ですー!」


一人で帰るのは久しぶりだ。まあ、馬車までの話だけど。


「やあ、ウルレシア嬢。」


…でた。ちょっと予感はしてたけど。


「ダムシェル様。」

「やっと邪魔なく話せるね。」


おそらくステラを探していた先生はいないか、仕込みか。

そうして告げられた言葉は予想どおりだった。


「知ってるよね?」

「…ええ、ダムシェル様もご存じだったのですね。」


それは、この世界が舞台の漫画の名前。

やっぱりダムシェル様も転生者だったんだ。


「まあね。いろいろ話したいことがあるんだけど、早いなぁ、もうタイムリミットだ。ちょっと周り固めすぎじゃない?」


私的にはそこまで固めたつもりはないんだけど、過保護な人が多いもので。


「ウルレシア!」

「イース様?」


やってきたのはイース様で、それは予想の範囲内だけどそんなに慌てることないのに。


「そんなに心配しなくても、話をしていただけさ。ね、ウルレシア嬢。」

「はい。それにほんの少しですよ。」


内容は、誰にも言えないけど。


「…いえ、一人で帰ったと聞いて、心配になってしまいまして。ダムシェル様といたのでしたら心配ありませんでしたね。」

「ふふ、そういうことにしておこうか。僕は一人で帰るから、イースリュード様は彼女を送ってあげるといい。」


ダムシェル様はそう言って去っていった。

転生者なら、すぐにどうこうなることはないかな。少なくとも話をしてくれる気があるみたいだし。

でもどっちに転ぶかはわからないよね。警戒はしておかないと。


「ウルレシア?」

「あ、その、追わなくていいんですか?」

「…ああ、大丈夫だ。帰ろうか。」


久しぶりにいっしょに帰れるのはうれしい。

ただ、なんだかイース様の様子がおかしい気もする。

なにかあったのだろうか。




久しぶりにコーディックも含め三人で帰る。カナリヤ様がいないのが残念。

だけど若干イース様の顔が暗い。

声をかけようとしたけど、その前にイース様が口を開いた。


「ウルレシアは、ダムシェル様に会った記憶はないんだよな?」


それは以前にってことですよね。もしかしてまだダムシェル様キース説引っ張ってました?


「ないですよ?」


記憶にない時期に会ってたら、それは知らないけどね。

でも、ダムシェル様は転生者だったんだから出会い頭のあの驚きは婚約者が私だったからだろうし、やっぱりあったことないと思うな。

そもそもよその国の王族と出会う機会がないってば。

イース様ですらあの舞踏会が初めての出会いチャンスだったんだから。


「…そうか。」

「まーた何考えてんだ?」


コーディック、よくぞ言った!

イース様はちょっと一人で悩みすぎだよね。言ってくれればいいのに。


「ダムシェル様が…ウルレシアが昔会った女の子に似ている、とそう言っていたんだ。」


なんですと!?

いや、転生者だと判明した今ならわかる! 最初に驚いたことをごまかすための言い訳ですね! よりにもよって!


「に、似ているってだけですよね? 絶対に別人ですよ。」


こっちの事情を知るわけないんだけど、余計なことを…!


「それに前も言ったろ? 出会いようがないって。」


うんうん。もっと言ってやって、コーディック!


「百歩譲ってダムシェル様がお忍びで城下を歩く人だったとしても、ウルレシアはソルディスに行ったことねえし、逆にいくらなんでもダムシェル様だってアーノルンにまでお忍びで来るわけねえだろ?」


国境で引っかかってばれるだろ。とコーディックが説得してくれる。


うんうん。あとね、もはやだれも信じてくれる気ないみたいだけど、キースは架空の人物だからね?


「それなんだが、…ウルレシアがキースと出会ったのがいつなのか、聞いてもいいか?」


え、ええー…。いつと言われても。

これは地味に困る質問。

だって出会ったことないし。

本でとなると前世で、だからね。言えるわけない。あの時のことは今でも心の傷だよ…。


「いつ、と言われましても、あの、イース様? 信じてもらえてないのは承知してますけど、キースというのは物語の主人公のことで、出会うも何もないんですよ?」


ああ、そういえばそういう設定だった、みたいな顔しないで! 私だって今更こういうの恥ずかしいんですよ!

もう最近は面倒になってあたかも存在するかのごとく話しちゃってましたけどね。ええ、そういう設定ですとも、私は。


「そういうことでもいいからその物語を知ったのはいつなんだよ。」


めんどくせえ、こいつ、みたいな目で見られた!

本当のことを言っているだけなのに! 自業自得だけど!


いつ…いつにしたらいいだろう。

生まれる前とか言ったらただのバカだ。精神病院…はここにはないけど、まあ医者を呼ばれるに違いない。

思い出したのは舞踏会の最中だからその時?

まさしくその時だとおかしすぎるから若干幅を持たせておけばいいかな?

えっと、舞踏会があったのは一年…半前くらい。

じゃあ、


「二年前、くらい?」


でしょうか、という言葉は出なかった。

それくらいにイース様の反応が顕著だったからだ。


何かミスった!?


「イース?」


コーディックも驚いた顔でイース様の名前を呼んだ。

二年前だと何かまずかった? 今からでも訂正するべき?


「…ダムシェル様は、二年ほど前、アーノルンを訪れていたらしい。姿を変え、商人に交じって、キースという名で。」

「!!?」


叫ばなかっただけ、ほめてほしい。

激しく失敗した! まさかまさかの設定!

なんでそんな面倒なことしてるの!? 転生者だから!?

なんでよりにもよってそんな設定持ってんの!?


「知りませんから!」


会ってない、会ってないよ!

落ち着いて、イース様! いや、落ち着け私! 動揺したら思うつぼだ! 誰のかは知らないけど!


「お、落ち着きましょう。」


なんという悪意を感じる設定…。

なんですか、漫画通りの試練がないからって新しい試練用意してくれちゃってるんですか。迷惑!


「たとえ、ダムシェル様にそういう過去があっても、ですね、私は無関係です。」


ここは、落ち着いて、冷静に否定しなければ。


「だが、ウルレシアが気付いていないだけかもしれない。…少なくともダムシェル様はウルレシアのことを気にかけている。」


それは転生者だからなんです!

そう言えたら楽なのに!


「イース様の婚約者だからではないでしょうか? どちらかといえば私はステラのおまけのような気もします。」


今すぐダムシェル様のところに行って詰め寄りたいよ、本当に。

王子が商人に交じって旅とかしないでよ!

百歩譲ってしたとしてもこっちに来ないでくれていれば…!

というか、なんでそんな設定イース様に話した…。

いや、わかってるよ。こっちでこんな設定があるなんて夢にも思わないよね…。


「ですから、それは気にしすぎですよ。」


何が何でもこの誤解は解かないと!


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