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第16話

「今日はなんだか皆さん落ち着かないですね。あ、そこ間違えてます。」

「ダムシェル様がいらしたからでしょうね。えっと…。」

「かっこいい方ですもんねぇ。こっちの公式です。」


雑談を交えつつ、ステラは的確に教えてくれる。

その頭の良さがほしい…。いや、もちろん努力の賜物なのは知ってるんだけどね。


「ステラさんはあまり興味なさそうですね。」


昨日はもっと興味ありそうだったのに。


「うーん。ああいう軽薄そうな人って好きじゃないんですよね。なんだかわざとらしい感じもしますし。」


そのあたりの評価はやっぱり漫画と同じになるのね。

自分に興味がないヒロインに興味を持って近づいてくるんだっけ?

なんというか、イース様も同じような理由で私に興味持ったし、イケメンや上に立つ人間は逃げるものを追いたくなるんだろうか…。


それを考えると、ステラに興味を持つ可能性が高いのかな。

興味持った後で、イース様の想い人だって知るんだしね。

あ、ちなみに漫画では、婚約破棄は終わってるけどヒロインとはどっからどう見ても恋人だけどそうじゃない関係の時になる。


「でも、おかげで私がウルレシア様を独占出来てるので、ちょっと感謝です。」


えへへ、と笑うその顔は文句なしに可愛い。

これがヒロインか。

この笑顔は私には難易度が高すぎる。


「お忙しそうですしね。」


いつもなら一緒に登校できなかった日は昼休みにイース様が訪ねてくる。だけど、今日はそれもない。

寂しいけれども、今はまともに顔を見れない気がするので来なくていいです、ハイ。




「それでですね、セジェルドがいつもうるさいんですよ。」

「それだけステラさんのことを心配してるんですよ。」


放課後、いつものように門までは一緒に帰る。

なぜか今日は周りに人がいない。

漫画ではこのタイミングでダムシェル様とヒロインが邂逅するんだけど、さて…。


そんなことを考えていると突風が吹き、反射的に目を閉じた。


「あ!」


ステラのその声に目を開けると、目の前に手があった。


「ウルレシア様、大丈夫ですか!?」

「えーっと?」


手の持ち主はもちろんステラで、その手にはハンカチが握られていた。


「これが急に飛んできたんですよ! ウルレシア様のお顔に当たるところだったんです! 誰ですか、こんなの飛ばしたの! ウルレシア様が怪我したらどうするんですか!」


いや、ハンカチで怪我はしないと思うな…。


「ハンカチですから、そんなに心配しなくても…。」

「もしこれがお顔に当たって、ウルレシア様の視界を奪ったら、転んでしまうかもしれません! あるいはどこかにぶつかってしまうかも! いえ…万が一目にでも入ったら…!」


おーい、帰ってきて~。

後、ハンカチ思いっきり握りつぶしてる。まあ、ハンカチだしいいかもだけどしわになるよー。


「そ、そうですね。でもステラさんのおかげで当たってませんから。ありがとうございます。」

「当然のことをしたまでです!」


…うん、まあいい。

ところで、このハンカチこそがダムシェル様との出会いアイテムのはずなんだけど。


そう思ってハンカチが飛んできたであろう方向を見ると、ダムシェル様がぽかんと口を開けてこちらを見ていた。


気持ちはわかる、気持ちはわかるよ。

きっと一連の流れを全部見てたんですよね。

そりゃ驚きますよね。ごめんなさい、これがデフォなんです、この子。


「ダムシェル様?」

「へ?」


私が声をかけると、ステラもやっと気づいたようでそちらを見た。

しかし、これはどうなるんだろう。

漫画ではヒロインの顔にハンカチがぶつかって、悪態をついているときにダムシェル様が来るんだけど…。


掴んじゃったしなぁ。


しかも、いまだに握りつぶしている。持ってることすら忘れてない?


「あ、えーっと。」


素が出てます、素が出てますよ、ダムシェル様! 気持ちはわかるけど、落ち着いて!

あなたがヒロインたちに素の姿を見せるのはもっと後ですよ!


その心の叫びが届いたのか、ダムシェル様は小さく咳払いをして、気を取り直したように笑顔で近付いてきた。


「すまない、それは僕のなんだ。風のいたずらにあってしまってね。」


うわー、胡散臭い笑顔。いや、素の顔を知ってるからそう思うだけで、知らなければただの爽やかな笑顔なんだろうけど。


「それとも、風の導きかな? こんな素敵な女性との出会いを演出してくれたのだから。」


私はすでに一度会ってますけどね。

漫画そのままのセリフだし、やっぱりステラを気に入るのかな。

当のステラは若干私を隠すように動いてますけどね。滅茶苦茶警戒されてますよ。


「間に合ってます。」


ちょ、ステラさん!? 相手隣国の王子様!

ズバッと言いすぎ! 漫画ではもうちょっとソフトだったのに!


「はは、手厳しいな。そちらはウルレシア嬢かな。またお会いできてうれしいよ。」

「…光栄です。」


ステラさん、ステラさん、そこに立たれたら完全に見えませんから。


「これ、お返しします。」


そう言って返却されたハンカチはぐしゃぐしゃだ。ちょっとくらい伸ばしてから返そう?


「ありがとう。お礼に何かしたいな。この後時間あるかい?」

「すみません、すぐに帰らないといけないので。」

「そうか、それは残念。ああ、名乗ってもいなかったね。僕はダムシェル・ソルディス。ソルディス王国から留学してきたんだ。君は?」

「…ステラと申します。姓はありません。」

「…へぇ。」


やっぱりステラかぁ。うーん、どうなるだろう。


「なら明日はどうかな? 一緒にお茶でもどうだい?」

「…家の用事があるので。」

「お家には僕が言ってあげよう。ウルレシア嬢も一緒にどうかな?」

「行きません。お断りします。」


いきなりスパッと断ったよこの子!

好いてくれてるのは知ってるけど、隣国の王子にケンカ売るのはやめよう?


「では、急いでますので。」


待って待って、さすがに私はあいさつしないとイース様に迷惑がかかる!


私の手を引いて歩き出そうとするステラを押しとどめる。

ステラは知らないだろうけど、超賓客なんだよ、この人。いや、内実知らなくても王子って時点で超賓客か…。


「申し訳ございません、ダムシェル様、弟を待たせておりますので失礼させていただきます。」

「残念だけど、仕方ないね。また会おうね、二人とも。」


ひらひらと手を振って見送ってくれたので、ほっとして歩き出す。

ステラ、そのペースで歩かれると優雅さを保てないから待ってー。


「ウルレシア嬢。」

「はい?」


な、なんでしょう?


ダムシェル様は笑顔を消し、真剣な表情でこちらを見ていた。


「キースという名の男に覚えは?」

「……え?」


え、…え? なんでダムシェル様からそんな質問が来るの!?

いくらイース様でもいきなり話したりしないよね!?

どういうこと!?


「あ、その、ダムシェル様のミドルネームがキースであることは存じております、が?」


べ、別にこれも極秘事項ではないよね!?


「いや、すまない、いきなり変なことを聞いてしまったね。気にしないでほしい。気を付けて帰るんだよ。」


ふっと真剣さを消して笑顔に戻し、ダムシェル様は去っていった。


今の、何?

どこかでキース関連の情報が出てしまっているのだろうか。詳細は私たちしか知らないはずだけど、キースという名前の人を探す際に人は使っている。完全に隠しきれているとは限らない。

もしそうだとしたらいろいろ困る。一度イース様…いや、カナリヤ様に相談してみたほうがいいかも。


「ウルレシア様、絶対あの人に近づいちゃだめです!」


ダムシェル様が完全に去ってから、ステラにそう詰め寄られた。


「あんな胡散臭い笑顔で近付いてくる人間なんて大抵裏があるんですから! ウルレシア様にはイースリュード様がいらっしゃるのにお茶に誘うなんて!」

「えっと、どちらかといえば、ステラさんに興味を持たれていたような。」

「全然タイプじゃないです。」


うん、だろうね。むしろ嫌いなタイプなんでしょ?


「でも、ソルディスの王子なのは厄介ですね…。お遊びなんでしょうけど、こちらとしてはそうそう断れないですし。」


いや、さっきズバッと断ってましたよね?

幸い機嫌を損ねてはいなかったみたいだけど。まあ、漫画でも面白がってたし、大丈夫かな。


「ウルレシア様は絶対断ってくださいね! イースリュード様の婚約者なんですから全然問題ありません!」


さすがに二人っきりになるのはね、断るよ。外聞が悪すぎる。

まあ、たぶんないと思うけどね。

でも、キースの件が気になる。


「せっかくいい日だったのに最後にケチがつきました…。」


王子をケチ呼ばわりとか…ステラ、強いね。


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