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第14話

目指せヒロインを決意してからおよそ一か月。

特に何も変わらない日々が続いている。


一応イース様に勉強を見てもらってはいる。

正確には三人に、だけど。

我が家で勉強会を週に一回ほどしているのだ。

イース様とカナリヤ様はともかく、コーディックが頭いいのがムカつく限りである。

助かっている部分も多いんだけどね。


ちなみにうっかりその話をステラにしたせいで大変だった。

一緒にやりたいとごねたけど、ステラは家の手伝いもあって忙しい身なのだ。

結果、週に何度か昼休みが勉強でつぶれることになった。

何だろう、この勉強漬けの日々。いや、私が望んだんだけど。


あ、さらに言うならステラ、私が熱出してる間にセジェルドと付き合い始めてました。

予感はしてたけど、実際に言われるとちょっとショックだった。

この半年、なんて無駄なことをしていたんだろう、と。

いや、もちろん祝福するよ?

ただ、やっぱりもう漫画とは違うんだなぁってね。しみじみ思うよね。


うん、頑張らないと。


そもそも、キースの誤解を解かないと始まらないんだけどね。

せめて今も探しているっていうこの一点だけでも解かないと…!

でも、自分から話題に出せないんだよね。うう、私の意気地なし。

だって、自分から言い出したらただの言い訳っぽくない?

信じてもらえる気がしない。




「ウルレシアさん、ぜひ、殿下にお気持ちを伝えましょう?」


イース様が用事でいない日、カナリヤ様にそう言われた。

コーディックがカナリヤ様に私の話をちくったのだ。

そりゃあ、カナリヤ様に協力してもらえたら百人力だけど勝手に人の気持ちを暴露しないでほしい。

イース様といい、コーディックといいプライバシーというものを知らないのか。…知らないね。


「でも、その、やっぱり、振られると思うので。」


それに、なんというか今更あらためて告白とか、恥ずかしすぎて。


「そんなことありえませんわ。」


コーディックもそう言ってたけど、本当にそうなのかな。

二人にそう見えるってことは…期待してもいいのかな。


「ですが、イース様は私がキースを今でも好きだと思ってますし、告白したとして、信じてもらえる自信がありません…。それに、やっぱりイース様は私と距離をとってますから。」


好かれている自信がない。同情からくる優しさじゃないかという気持ちが強い。あるいは妹的な。


「大丈夫ですわ。わたくしが保証いたします。殿下がもっとしっかりしていればよかったのですが…。勇気を出して思っていることを殿下にお伝えしましょう?」

「ま、前向きに検討します。」


無理です。最近二人きりにされたら意識しすぎてうまく話せないんですよ!

イース様も気づいてくれたらいいのになぁ。他力本願過ぎるけど。

基本的に鋭いくせに、こういう方面では発揮されないのはお約束なんだろうね。





そんなある日、事態は急変した。

話があると王城に呼ばれた私とコーディック。

いつものように四人だけになった後、イース様が口を開いた。


「およそ一週間後、隣国ソルディスの第二王子、ダムシェル様が留学してくることになった。」

「え!?」


大声を出してしまった私に、三人の視線が集中する。


「す、すみません、続けてください。」


腑に落ちない表情をしながらも、イース様は続けた。


「ただ、それだけなら何の問題もないんだが…。二人も知っているだろうが、今、この国はチュルノ王国と微妙な関係が続いている。その関係を改善したいと、陛下がソルディスに協力を願っているんだ。」


チュルノ王国も隣国の一つだ。ソルディスの隣国でもある。

味方になってほしいとかではなく、和解の仲介のはずだ。漫画通りなら。


「恩を売るに値するかを見定めに来るとみて、間違いないと思う。」


そして漫画ではヒロインを気に入り、いろいろ面倒が起きる。


「学校では俺が対応することになる。立場上、ウルレシアを紹介しないわけにはいかないができる限り巻き込みたくないと思っている。」


ですよねー。

巻き込まれたくは、ない。だけど、


「だけど、私はイース様の婚約者です。」


ここで逃げたら、私は婚約者失格だ。ヒロインになる資格もない。


「部外者にされるのは、いやです。」


漫画通りは無理でも、手助けくらいはしたい。

困っていたら、力になりたい。


「ま、これはシアが正しいだろ。今更除け者にすんなよな。」

「ええ、お一人で抱え込まないでくださいませ。」

「…悪い。」


イース様は一瞬だけ目を閉じ、次に開けた時には、王子としての顔になっていた。


「政治的な問題は俺たちが関与するところではない。陛下にお任せする。俺たちがすべきは、学校内で不都合がないように取り計らうこと、機嫌を損ねるようなことを起こさせないこと、だ。」


あくまで学校に通うのはおまけなのだ。


「学校までの送迎は王家の馬車で行われる。俺が同乗する予定だ。学校内でも、基本的に俺とカナリヤで対応する。二人では爵位が低すぎるからな。」


つまりその間はイース様と一緒に登下校できないのか。ちょっと寂しい。

気持ちを自覚する前はちょっと鬱陶しいとか思ってたくせに現金だなぁ、私。


「ただ、二人だけでは手が回らないことも出ると思う。対外的にはただの留学だから、他の者には頼めないことも出てくると思う。」


考えてみたら、それを私はともかくコーディックに話していいのだろうか…。

超極秘事項ですよね。


後でカナリヤ様に聞いたら、「お二人に甘えているのでしょう。信用しきってるんですわ、きっと無意識に。」と言っていた。

うれしいけど、大部分はコーディックだよね、ライバルはお前か。


「その時は、頼む。」


そんなの返事は一つしかない。


「はい、お任せください。」

「無茶ぶりだけは勘弁な。」


イース様に頼られるのは初めてかもしれない。

ようやく一歩前進できた、そんな気がする。



だけど、展開が早すぎる。

漫画よりも半年も早い。漫画通りの世界じゃないことはわかっているけど。

対応を間違えれば、ソルディスとチュルノの両方を相手取った戦争をすることになる。

漫画でもその可能性は示唆されていた。

むしろ、その口実を探しに来るようなものなのだ。

でも、ヒロインを気に入り、その想い人であるイース様を試して、結果二人を認めて国を説得してくれるようになるのだ。


どうなるか、予想がつかない。

もっと猶予があると思っていた。

私では、きっとまだ無理だ。

ダムシェル様はだれを気に入るだろう。

漫画通りステラを? それともカナリヤ様を? あるいはまったく別の人を? 私という可能性も、ゼロではないけど…。

それとも、誰も気に入られることなく戦争になってしまうだろうか。

いや、まだわからない。そもそも、漫画ではそういう方法で回避したというだけで、それ以外の理由で回避されるかもしれない。


「ウルレシア? 大丈夫か?」


不安が顔に出ていたのだろう。イース様だけでなくほかの二人も心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫です。ちゃんと、できます。」


私は私の出来ることをする。それしかない。


「なんか、気がかりなことでもあるのか? さっきもやけに驚いてたろ?」


あれは失敗だった。

今その話が出てくるなんて思ってもなかったから驚きすぎた。


「驚きましたわ。」

「す、すみません。ただ驚いただけなんです。」


完全に素で反応しちゃったもんね。


「何かあるなら今のうちにいっとけよ?」


と言われても、言えるようなことはないしなぁ。

前世の知識をぶっちゃける?

…またかわいそうな子を見る目で見られるだけだよ。


「大丈夫。」

「ならいいけどな。…イース?」


いつの間にかイース様が何やら考え込んでいた。


「イース様?」


何か問題があったのだろうか。

なぜかじっとこちらを見てくる。


「少し、調べ物をしてくる。」

「あ、はい。」


なんなんだろう?


「どうしたんでしょうか。」

「何か、気にかかることができたのでしょうけど…。」

「なんか、やな予感がするんだよなぁ。」


そう言って、二人はため息をついた。


二人は予想がついてるっぽい?

私の愛、足りてないんだろうか…さっぱりわからない。


「シア関連になるとなーんか暴走するんだよな、思考が。」

「そうなの?」


それはあれだろうか、キース関連の。

確かにあれは暴走しているともいえる。

私は好きだから冷静に考えられないとかだったらうれしいのになぁ。…ないよね。


「もしかしたら。」


カナリヤ様が頬に手を当て、困ったように言った。


「ダムシェル様がキースさんだと思ったのかもしれません。」

「「……はい?」」


なぜに。

どこをどうしたらそうなると言うんだろう?

私が過剰に驚いたから? それだけでそんなこと連想できないよねぇ? 名前かすってもないし。


「ダムシェル・キース・ソルディス。これが正式なお名前なのですわ。ミドルネームを名乗ることは滅多にございませんけど。」


マジですか…。

そんなこと知らないよ!

アーノルン王国はミドルネーム持ってる人ほぼいないしさ!


「そ、そうだとしても私が他国の王子と知り合いなわけないじゃないですか!」


いや、まだそう誤解していると決まったわけじゃないけどね!?

もしそうだとしたら、確かに思考が暴走してるよ!? イース様そんなキャラじゃないでしょう!?


「ええ、ですから、もしかしたら、ですけれども…。」

「多分暴走してるな…。」


コーディックはそう言って部屋を出ていった。

多分イース様を追ってくれたんだと思う。誤解解くのは任せた!


「恋は盲目、だと思いません?」


カナリヤ様がスススッと寄ってきて、そう言った。

う、うーん。


「ウルレシアさんの気持ちも理解しているつもりですわ。やはり、キースさんの件で恋に臆病になってしまっているのでしょうから。」


すみません、理解できてないです。そこ関係ありません。

だけど、ある意味あってる。


「一歩、進む勇気をだしましょう?」


うん。

ヒロインを目指すと言いながら、イース様に幸せになってほしいと言いながら、私はずっと逃げ続けている。

振られるのが怖くて、今の関係が崩れるのが怖くて。

まったく覚悟なんてできてなかったんだよね、結局。


勇気、出さなきゃ。



……でもやっぱり怖いなぁ…。


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