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第13話

「で? そろそろ教えてくれてもいいんじゃねえの?」


熱を出して一週間。

ようやく熱も完全に下がり、明日には学校に行ける。

休んでいた分を取り戻さなければと部屋で勉強をしていると、コーディックがいきなりやってきて、そう言った。


「何を?」


何か聞かれていただろうか。心当たりがない。


「お前が何をしたいのかを、だ。」


その真剣なまなざしに、息をのんだ。


「ちゃんと話せ。お前は、イースと結婚したくないのか?」


ああ、そう見えたのか。


「そういうわけじゃ、ないんだけど。」


ずっと、イース様はステラに恋すると思っていたから距離をとっていた。

だけど、もう無理なんだろうね…。


「キースってやつのことが忘れられないのか?」


はいストップ!!!

シリアスいったん終了!


「違うから! っていうか何で知ってんの!?」


わかってる! 理由なんて一つしかないよね!


「イースに聞いた。」


ですよね! あの人はどこまで広める気だ!!


「全然、まったく、違うから! イース様の勘違い!」

「だよな。」


ああ、よかった。さすがにコーディックは信じないよね。


「養父上と養母上がお前を恋人と別れさせてイースと婚約させるなんて、ありえねえし。」


うんうん。


「…でも、お前に好きな人がいたってのはマジかなって思ったんだけど?」

「なんで!? 違うし!」


そういうキャラじゃないのは十分知ってるよね!?


「だって、お前変わったじゃん。イースと婚約してから。」


変わった、だろうか。

自分としては何も変わっていないつもりだ。

だけど、前世を思い出した影響は確かに出ているのかもしれない。


「…そうだとしても、好きな人云々にはつながらなくない? 普通にイース様と婚約したから、でしょ?」


婚約をきっかけに変わったところがあっても不思議ではないはずだ。


「ま、普通に考えたらな。でも、イースの話とお前の様子を見た結果そう思ったわけ。で?」


ぐぬぅ…。なまじ近いから説明がしにくい。

本で読んだと言っても、絶対に嘘だとばれる。いや、嘘じゃないんだけどさ。この家にないのはすぐわかる。


「…イース様の勘違い。キースなんて人は実在しないの。」

「…ふーん。」


信じてないし。


「でも、探してるんだろ? キースってやつ。」

「…へ?」


探してないけど?


「侍女に調べさせてたじゃねえか。」


ああああ!!

しゃべった!? いや、ばれた!?


「あれは違う! もしいたら困るなって! その人に迷惑がかかるから!」

「でも、イースはシアが今でも探してるって言ってたぜ?」


いつの間にそうなった!?

死んだ設定じゃなかったの!? いつの間にか生存設定になってた!?

聞いてない! 聞いてないよ!!


「探してない! 探してないから!」


誤解解かないと!

いや、でも、いつから!? もう無理!?


「わかったわかった。じゃあ、イースと距離をとってるのは?」


ちょっと待って、気持ち切り替える。

新たな勘違いについてはあとで考えるとして。


「コーディックは、なんでイース様が私を選んだのか、知ってる?」

「知ってる。だからこそ、余計にわかんねえんじゃねえか。お前にほかに好きなやつがいないなら、むしろイースを落としにかかるべきだろ? なんで離れんだよ。」


ごもっとも。


「だから教えろ。お前は、どうしたいんだ?」



私がどうしたいか。

漫画通りに進めたかったのは、それが最善だと思ったから。

それが一番幸せな未来だと思ったから。

漫画から離れれば何が起こるかわからなかったから。


だけど、もうその道は存在しないんだろう。

もしかしたらと思う気持ちもあるけれども、諦めのほうが強い。


だったら、私はどうしたい?


「…イース様には幸せになってほしい。」


私の不用意な行動で、幸せに至る道を一つつぶしてしまった。

その埋め合わせはしたい。


「私がその障害になりたくないの。」


漫画通りじゃなくていい。

誰かを好きになって、その人と、結婚してほしい。


「お前が幸せにするっていう選択肢がないのは? やっぱ別に好きな奴がいるからか?」


それができるなら、そうしたい、だけど。


「だって、イース様は私のこと好きじゃない、よね?」


イース様はいつだって優しいけれど、それはキースのことがあるからだ。ただの同情から来ているもの。

イース様は一定の距離を詰めようとはしない。いつでも婚約を解消してくれる気があるからだろう。

それはつまり、私はその程度の存在だってことだと思う。


「こ、こいつら…。」


めんどくせぇ…とつぶやいてコーディックは頭を抱えた。


「じゃあ、イースがお前のことを好きなら問題ないんだな?」


問題は、ない。


「…それは、でも。」


もし、漫画と同じことが起きるなら、これから国同士の問題が起きる。

私がヒロインの役で乗り越えられる自信がない。


「コーディックは、私に務まると思う?」


きっと意味は通じてないと思う。でも、それでも、後押しがほしい。


「お前がイースを好きで、イースもお前を好きならそれ以外に必要なもんなんてないだろ。誰だってやれるさ。」


うん、漫画でも二人はそうやって乗り越えた。

それに匹敵するだけの想いが私にあるかはまだわからない。

でも、夢で引きとめるくらいには好きになってしまっている。もう、認めるしかない。


「わかった…。私、イース様に好きになってもらえるように頑張る!」


カナリヤ様ポジじゃなくて、ヒロインポジをやる!

イース様に好きになってもらえたら、だけど!


「いや、そこは、あー…俺が言うことじゃねえか…。でもなぁ、やな予感しかしねぇ…。」


あんまり気合を入れると逆効果だろうか。

イース様は自分に興味がないからという理由で婚約してくれたんだしね。

好意をはっきり伝えると逆に距離を取られるかもしれない。

それにキースのことでの同情で受け入れてもらっても意味ないのだ。


「シア、俺としてはイースは十分お前のこと好きだと思うぞ?」

「それは友達的な好きでしょ? それじゃダメなの!」


国と私を天秤にかけるほど好きになってもらえないとこの先乗り越えれない可能性があるのだ。

今は天秤に乗せるまでもなく国をとるに違いない。なんたって王子ですから!



これでイース様が別の人を好きになったらお笑い草だけどね!

大丈夫、その時はちゃんとカナリヤ様ポジをする! たぶん後で泣くけど!





そう決意をしたものの、私は何をしたらいいんだろう。


「もう熱は完全に下がっているな、よかった。」

「とても心配いたしましたわ。ずいぶんと長引いていましたから。」

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」


いつも通りでいいのかな? でもそれで好きになってはもらえないよね。

うーん…。


「ウルレシア様ーーー!! お会いできてうれしいですー!!」

「心配かけてしまって、ごめんなさい。もう大丈夫ですよ。」

「お見舞いに行きたかったんですけど、セジェルドに止められちゃいました。」


ステラみたいなキャラになる? 無理無理。でもイース様はこういう子が好みなのかな、やっぱり。

成績を上げるべき? …努力はしてみる。

顔…はどうしようもない。


こういう時こそ漫画みたいなイベントが起きてくれればいいのに!

今! 今こそ誘拐事件が起きてほしかった!

この時期はヒロインが悩む時期ですよー…。ある意味悩んでるけどね!

婚約破棄自体は来年になってからだけど、イース様とヒロインの思いが通じ合うのは時期的にはあと一か月といったところだったと思う。

そろそろ記憶も危ういんだよね…。大きい事件は覚えてるけどさ。


「ウルレシア?」

「あ、はい。」


いけないいけない、考え事は一人の時にしないとね。

今日はコーディックがカナリヤ様に用事があるとかで二人きりだ。

チャンスなんだけど、やっぱりどうしたらいいのかわからない。

それに、意識し始めるとこう、ね!


「何かあったのか?」

「えーっと、ちょっと考え事をしてました、すみません。」


あなたに好かれる方法を考えてました、なんて言えるはずがない。


「…そうか。」


ここで内容を聞かれないあたりやっぱりちょっと距離があるよね。

これは私が埋めないとだめだ。ヒロインになりたいなら私がイース様の心に入っていかないといけないんだから。


「…どうやったら成績上がると思います?」


私がそう言ったことにイース様は少し驚いたような顔をした。

そんなに相談したことなかったかな。ちょっと反省。


「ウルレシアは別に成績悪くないだろう?」


そうなんですけどねー。


「でも、イース様には釣り合ってない、です。」


周りが頭良すぎて、自分の成績が切なくなるんですよ。

イース様は一瞬息を飲んだ後、うれしそうに笑った。


「ウルレシアはそのままでも十分だけどな。」


確かに伯爵令嬢には十分かもですけど、一応王太子妃目指すんで!


「でも、あげたいのなら協力する。」


一緒に勉強は恋愛ものの定番でしょう!


「お願いします。」


小さなことからコツコツと! 私頑張る!




…あ、キースを今でも探してるって誤解はどうやって解いたらいいんだろう。

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