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第12話

さて、困った…。


「うわぁーーーん!!! ウルレシア様ごめんなさいーー!!」


いや、もう、漫画と違うとかそういうレベルじゃなくて、さ。


「わ、私なんかが、傍にいたから!」


とりあえず、誰か助けて…。




高等学校に入学してから既に半年。

なんだか、すでに無駄骨のような気もしてなくもないのだけれども、不自然じゃない程度にステラとイース様が接触できるように取り計らっている。

たまに二人で話しているときもあるしどうだろう。…大抵私の名前が聞こえてくるんだけど、気のせいだと信じてる。


ちなみにステラの幼馴染も紹介してもらった。男爵家の子息なんだよね、実は。

ちょっと彼の顔が引きつってたのは多分気のせいじゃないと思う。

コーディックに負けることなく頑張ってイース様の親友になってほしい。


でだ、そろそろ次のイベントが起きてほしいのだけど、どうなっているだろう。

起きるべきイベントは学園物の定番。クラスメイトからの嫌がらせである。

庶民のステラがイース様と親しいことを妬んだ下流貴族がステラを使われていない倉庫に閉じ込めるのだ。

漫画程ではないけれども、ステラが庶民であることを考えたら十分妬まれる仲の良さではあると思う。


というか、本来ならカナリヤ様と親しくなるきっかけのイベント、水をぶっかけられる事件があったはずなんだけどね。

たとえ起きても未遂で終わらせれるように、と警戒していたのに全然起きなくて、無駄に精神削られたよ。

もう仲良くなってるから起きなくていいんだけどね。

でも漫画通りに進めるならイベントが一つ起きなかったことがどう影響するか…。


ううん、今更だよね。

漫画通りに進んでいることのほうが少ない。


もしかしたら、婚約者がカナリヤ様ではなく私なように、ヒロインもステラじゃなくて、別の誰かなのかもしれないと思って調べてみたけれども、該当しそうな人はいなかった。

というか、ステラに「殿下の浮気調査ですか? 手伝います!」と言われたのでやめた。

もちろん誤解は解きましたとも。


だから、半分漫画通りのイベントなんて起きないと思っていた。

まさか混合技で来るとは。



放課後、いつものように二人で門に向かって歩いていると、不意に呼び止められた。

もうこの時点で嫌な予感がビシバシしてたんだけどね。

上級生の侯爵令嬢がいたので、従うしかなかった。


連れていかれたのが普段使われていない倉庫で、ああ、これはあのイベントだ、とすぐに気づいた。


お約束なセリフで詰ってくるので聞き流していたんだけど、そのせいで反応が遅れた。


ステラが水をかぶるのは防いだんだけどね。私がもろにくらってしまった。うまくいかないね。

二つのイベントが同時に起きるなんて予想外にもほどがある。

私に水をかけた後、彼女たちは倉庫の鍵を閉めて去っていった。



「さて、と。」


以前に比べれば、学校の倉庫だし、実行犯はたかが貴族令嬢。これ以上のことは起こらないだろう。

さらに言うなら、ザックさんが門の前で待機しているわけだから、私が姿を見せなければすぐに気づく。だからおとなしくついてきたんだしね。

コーディックはたまに一人で帰るからわからないけどカナリヤ様はすぐに察してくれるだろう。

ただ、イース様は今日いないんだよね。

公務で休みなのだ。

だから今日実行したんだろうけど。


本来なら閉じ込められたステラをイース様が助けて、恋に落とすイベントのはずなのになぁ。

それまでに想いは募ってたけど、決定打になるってことね。

でも、今の状態でイース様が助けに来ても意味ないし。

だって時期が早すぎる上に私までいる。


これをどう修正したものか、とため息をついたその時、ステラが大泣きし始め、冒頭に至る、というわけだ。



「ステラさんが悪いわけではありませんから、ね?」


ちなみに、自分の服を脱いで私に着せようとしたときは全力で止めた。


「だ、だって! ウルレシア様は殿下の婚約者で! 私は貴族でもなくて!」

「そんなこと、イース様やカナリヤ様だって気にしてませんから。」

「私がそばにいたから! ウルレシア様も悪く言われたんです!」

「そんなことありません。あんな人たちが言うことを気にしちゃダメです。」


待って、これはイース様とするべきやり取りじゃない?

いや、こんな子供みたいな泣き方ではなかったはずだけど。

どこだっけ、そんなシーンあったはず。

いや、それよりも、どうやって泣き止ませればいいの!?


「とりあえず、泣き止みましょう? 大丈夫、すぐに助けが来ますから。」


全身濡れてるから顔拭くものもないんだよ。絞れるだけ絞ったけど、さすがに寒い。

これは計算してなかったからなぁ。


「ね? 私はステラさんといるの楽しいですよ? それだけではだめですか?」


これは本当だ。

貴族のしがらみがなくて、まっすぐに好意を伝えてくるから、傍にいると気が安らぐ。


…あれ、私が落されてない? 

い、いや、きっとイース様も同じものを感じているに違いないよ、うん!


「だめじゃない、です。」


よし、落ち着いてきた。


「ステラさんは私と仲良くするの、嫌ですか?」


ステラは袖で涙をぬぐって、思いっきり首を振った。


「嫌だなんてあるわけないです!」


ステラがそう言って、お互い笑いあった時、ようやく扉が開いた。


「ステラ!!」


なんと! そっちが来たの!?

泣き声が聞こえたのかな。


「セジェルド!」


ステラの幼馴染である彼は、私に目もくれずにステラを抱きしめた。

…あれ、もしやこっちとフラグがたってる?


「お前、勝手に…って、シア!?」


これは困った! 幼馴染がリードしちゃった!?

ステラもまんざらではない感じ!?


「おま、なんて格好してんだ、この馬鹿!」

「わわ!」


いつの間にかあらわれていたコーディックに上着を投げつけられた。

これでも絞って、見れる程度にはしたんだよー。貴族としてあるまじき格好なのは確かだけどさ。

でもいま大事なのはそこじゃないんだよ!

イース様の幸せがかかってるんだよ!

この国の未来がかかってるんだよ!


「くしゅ!」

「ウルレシア様! 早く着替えないと!」


ステラがセジェルドの腕から抜け出してそういった。セジェルドは今私の存在に気づいたでしょ。驚きすぎ。

むー…二人が想いあってるなら引き裂くとかはさすがに出来ない。

そもそもステラが恋愛的な意味でセジェルドを想ってしまっていたら、イース様を好きになることはないかもしれない。

想定外だ。

私という不確定要素がないのだから、そっちサイドは漫画通りの設定だと疑ってなかった。

それとも、学校に来てから何かあった?

私に懐いた影響がここにもあった?


既に望み薄だとは気づいていたけど、これは一度確認しないとだめかも。




って、思ったのになぁ。


「あんな濡れた状態でいたからだ、馬鹿。」

「仕方ないでしょ…。」


思いっきり風邪をひいて熱を出してしまった。


「ちなみに犯人にはカナリヤ様が警告してたからな。今度お礼言っとけよ。」


ほんと、頭が上がりません。


「あと、イースにも報告したからな。熱のことも。」


うぐ!

せっかく過保護っぷりがおさまってきてたのに!


「じゃあ、おとなしく寝とけよ。」


コーディックはそう言い残して部屋を出ていった。

侍女も何かあったらお呼びくださいと言って下がっていき、部屋に一人になった。


心細く感じるのは、熱のせいだろう。

私はそのままゆっくりと意識を手放した。



夢を見た。

漫画の通りに進んで、イース様との婚約を破棄する夢を。

望んでいるはずのその展開。

イース様は愛する人を見つけてどんな困難にも立ち向かえる強さを手に入れる。

アーノルン王国は様々な危機を乗り越えられる。

誰も不幸になったりしない。みんなが幸せで平和な未来が待っている。


なのに寂しいのは、熱のせいだろうか。

行かないでほしい。

置いていかないでほしい。

一人にしないでほしい。


「イース様…。」


離れていくその後ろ姿に手を伸ばす。

届かないはずのその手がそっと握られ、私は夢から抜け出した。



「ウルレシア?」


視界がぼんやりする。

ありえない声が聞こえた気がしたのだけど、まだ夢を見ているのだろうか。

だけど、手が握られているその感触は夢とは思えなかった。


「いーす、さま?」

「ああ。」


…ちょっと、待って。熱で思考がまとまらない。


「無理はしなくていい。まだ熱がある。」


いや、そういう問題じゃないです。

今、私は熱を出して、寝込んでいて、ここは私の寝室なわけで、イース様が目の前にいて…。


「どっ…! どうして、こ、こに。」


叫びそうになったのを気合で抑える。


いくら婚約者でも、普通本人の許可なく寝室に入ってくる!? 入れたの誰!?

いや、両親は領地に帰っていていないはずだから一人しかいないけど!


「コーディックに入れてもらった。」


コーディックーーー!!

私に恨みでもあるのか、お前は!

…あったね! くそぅ!


「俺はいつも肝心な時にいないな…。二度目は起こさせないって約束、守れなかった。」


あー…そういえばそんなこと。でもこの事件はもはや予定調和というか、お約束というか。

いや、私があうのは予定外だっけ?

駄目だ、うまくものが考えられない。


「無理せず、寝ていい。顔だけ見たら帰るつもりだったから。」


聞きたいこと、言いたいこと、考えたいこと、どれもいっぱいある。

だけど、それらすべてを放棄した私はその言葉に従い、ゆっくりと瞼を下ろした。


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