第58話
祐介が喫茶店を出ると、乙坂が祐介をつけていた。
「あのさぁ、乙坂さん、暇なの?」
祐介は若干怒りをにじませながらいう。
「あなたは監視対象ですから」
「マッポが監視対象と接触していいのかよ」
「あなたは特別。むしろ悪巧みを防ぐため」
「よく言うぜ。ポリスがいると俺の商売がしづらいんだがね」
「監視対象は黙ってなさい。どうせケチな借金の取り立てでしょ?」
「だったらそのケチな借金の取り立てにでもついてきたらどうです?」
25分後…
借金の取り立ての相手が弁護士を介入させていたことが発覚したため、祐介は退散したのであった。
「誰が教えたんだか。弁護士介入なんてことを」
「ハハハハ、滑稽だね」
と、乙坂が祐介をあおる。
「フン、公僕ってのはいいね。こんな男を監視するだけで金がもらえるんだから。ちょっと待ってろ?今、法務部を通して文句を言ってやる」
そういうと、祐介は少しも慌てず、法務部に連絡を入れた。
弁護士介入案件は裁判にするしかないので、法務部に事の次第を報告したのであった。
「もしもしお疲れ様です、債権回収特命係の雨谷と申します」
数分後…
「はい。よろしくお願いいたします。失礼いたします」
祐介の電話での腰の低い態度に乙坂は驚いていた。
「あなたは下手に出るときは異常なほど腰が低いんですね」
「これも処世術よ」
「だったら言動と行動を一致させてから言いましょうね」
「本音と建前の使い分けは話を円滑にする。この後も別なところに取り立てだからな。モタモタしている場合じゃない」
2時間後。
借金取りの交渉の際に逆上した男が出刃包丁を振り回したため、やむなく乙坂が身柄を拘束した。
その後、所轄署の警察官に身柄を引き渡し、警察署へと向かうことになった。
祐介が事情聴取から解放されるまでは1時間もかかった。
「乙坂さん、俺の商売は借金取りであって、ポリの点数稼ぎの共犯じゃないんだわ」
「だって仕方ないでしょ。警察官が職務で現認した犯罪には通報の義務が生じるんだから」
「どうすんだよ逮捕なんかして。お前らがこいつの借金を弁済してくれるのか?元本利子含めて残金250万円だぞ!?」
「こいつの全財産を没収してあげますよ」
「まあうれしいわ。公僕が債務者の全財産没収して借金の返済に充てるなんて。破産法知ってんのか?」
「心配しないで。ジョークですから」
「とりあえず帰社して、上司に今後のことを相談するから、お前も来てくれ」
「はいはい」
帰社したのち、祐介は債権回収部の上司に今日のことを報告した。
警察官たる乙坂が来ていたおかげでスムーズに事は運んだが、上司は祐介に小言を垂れていた。
「まったく、とんでもねえ目にあった」
「まあまあ。こんな日もありますよ」
「みゆきは薬師寺さんとどっかいっちまうし、大将は地方にいるから飲みにも行けなくて、いやんなっちゃう」
「宅飲みも悪くないですよ」
「そりゃお前は彼氏もいないボッチだからだろ」
「わたしは仕事が恋人。一人カラオケも楽しいものですよ」
「いいかげんにしろ。もう帰れ。二度と来るな。10秒以内に帰らないなら今すぐそこのスーパーで塩買ってきててめえに撒いてやる」
祐介が怒りながらいうと、乙坂は素早く退散した。
一方その頃
東京・神楽坂の高級料亭にて。
薬師寺家、霧生家、諸田家の当主が集まっていた。
なお、この日は貸し切り。
会談の見張りは奈央と小橋川。それ以外は料亭の外で待機させられていた。
「娘が2か月後に反攻作戦をやろうとしているのは、私もつい最近聞いたばかりだが、お二人さんの意見を聞きたい」
敏夫が霧生の未亡人と諸田を見て言う。
「私は、構わないと思うけど、相手の組織に面が割れてるから援護ができないわね。諸田さんはどう?」
と、霧生の未亡人は諸田を見ながらいう。
「警察庁長官という立場としては反対だし、当然その動きを内務省中央情報調査局が察知しないはずはないだろう。奴らは風魔一族を使っているという。風魔の動きはどうなんです?薬師寺さん」
諸田は意地悪く敏夫のほうを向く。
「また東国風魔と西国風魔が主導権争いをしてるらしい。とはいえ内務省中央情報調査局から金を貰ってる連中は主導権争いはどうでもいいらしい。奴らに邪魔をされたら面倒だ」
「ということは、薬師寺家のオフィシャルとしては何もしないってことね」
と、霧生の未亡人がいう。
「まあ、仕方ないだろう。どこで誰が聞き耳立ててるかはわからん。だが、一つ言えることは、専守防衛は長期戦になる。その間にヒプリ王国が悪人の手に渡ったら、俺たちのメンツに関わる。その時には、政治家や官僚が何人死ぬことになるかね?諸田さん」
敏夫は諸田の顔をじろっと見ながらいう。
「わかった。政治の仕事は俺だ。警察族議員を動かしてかき回すだけかき回すよ。中山内務大臣のほうには俺から言っておく」
「助かるよ。なら、この話は終わりだ。今日は飲み明かそう。奈央、女将さんを呼んでこい」
敏夫が襖越しにいう。
「はい」
と、奈央が返事して女将さんのところに行く。
奈央の顔は少し明るくなっていた。
小橋川は一瞬だけだがその表情を見て、胸を撫で下ろしていた。
つづく
次回もお楽しみに。
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