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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
58/61

第57話

前回の続きの後編です。

前回のあらすじ

薬師寺家次期当主の奈央は、薬師寺学園に集められた忍の精鋭のうち甲賀者を連れ、体育館へと向かった。



体育館にはリングが組まれており、全員分のボクシンググローブが用意されていた。

全員がボクシンググローブをつけると、奈央が話を始める。

「この訓練はあくまでもスパーリング。よって忍術は厳禁だ。体術で喰鮫を3ラウンド以内に倒せ。でなきゃ、これからお前達に課す任務は絶対に失敗する。この訓練において喰鮫にダウンされたら腕立て伏せ200回だからな。もちろん、勝てないと踏んだら試合せずに腕立て伏せ200回してもいいぞ。最初は誰が行く?」


「俺が行く」

と、弾正。

「弾正か。甲賀一の怪力男だけあって頼もしいじゃないか。みゆき、やれるか?」

と、奈央がみゆきの顔を見る。

みゆきもしっかりとボクシングのグローブをつけ、ヘッドギアをかぶっていた。

「身の丈2mもある屈強な男やグリーンベレーともやりあってきたんだ。この程度じゃ怯まないよ」

2人がリングに立つ。


「はじめ!」

奈央の合図でゴングが鳴る。


早速みゆきが弾正に足払いをかける。

不意をつかれた弾正、あっさりとダウン。


「ダウン!馬鹿者!腕立て伏せ200回。次!」


「あやめ、参ります」

おしとやかな所作のあやめがリングに上がった。


「ファイト!」


あやめがみゆきの左フックをかわしたのもつかの間、強烈なボディーブローを受けてしまい、そのまま連打されノックアウト。


「あやめ、腕立て伏せ200回。次!」


「一馬、参ります」

薬師寺学園アサシンクラスでは学業優秀な一馬がリングに上がる。


「ファイト!」


一馬は最初から激しいラッシュ。

しかしみゆきはこれを一撃たりとも当てさせない。

一瞬の隙をつき、みゆきのカウンターパンチが一馬のみぞおちに炸裂。


「ノックアウト。起きたら腕立て伏せ200回!次!」


「弥市、参ります」

と、弥市が一馬を引きずり下ろしてリングに上がる。


「みゆき、気をつけな。弥市は今までのやつよりも格段に強いぞ」


「わかってる」


「ファイト!」


弥市もみゆきも膠着状態だった。

軽くジャブ、間合いの取り合いと、今まで以上に慎重な戦い方を繰り広げ、ついに第3ラウンド。

弥市が動いた。

みゆきに一撃入れることは成功したが、回し蹴りをモロに喰らいダウン。


「一撃は入れられたがその後が甘い!腕立て伏せ200回!次!」


このあと、誰1人としてみゆきに第2ラウンドに持ち込むこともできなかったばかりか、一撃も入れられなかった。

ヒカリはあっさりカウンターパンチで場外に弾き出され、つぐみはステップワークで撹乱しようとしたものの、あっさりパンチを見切られ、逆に2発もパンチを食らってノックアウト。

ハチに至っては捨て身で行こうとして肩透かしされた挙句に回し蹴りをお見舞いされた。

当然この戦法は奈央の怒りを買い、強烈な蹴りを5発も食らうこととなった。


「馬鹿者!てめえらなんてザマだ!忍者たるもの忍術無しでも殺し屋と渡り合えとあれほど言ってきただろうが!恥を知れ!恥を!」

奈央は普段以上に感情を込めて説教をする。

「お前たちの食らった痛みなど1日もすれば忘れるかも知れないが、この悔しさは任務が成功するまで絶対に忘れるな!わかったか!今日の修行はここまで!リングと道具を片付けたら解散!」

奈央が甲賀者に指示を出すと、みゆきとともに駐車場に向かい、そこから薬師寺家別宅のお抱え運転手の童顔の女(第22話参照)が運転する車に乗り名古屋へと向かった。


その車中にて。

「結構本気だったじゃん。みゆき」

「行きの車中で本気でやれって言ったのはナオだよね?精鋭がこんなんで大丈夫なの?」

と、みゆきが不安そうにきく。

「教官とこの間うちに来た忍者の貴雄さんが2ヶ月間目一杯あいつらをしごいてくれるからどうにかなるよ」

「楽観主義にしか聞こえない。やっぱり私が1人でいく。それに、最低でも2ヶ月は防戦ってことなんでしょ。いつまでも守ってばかりじゃ組織の壊滅は難しいわ」

「よせ。ここはあいつらを信じろ。どのみちお前は面が割れてるんだ。お前1人で全員を相手にする気か?祐介を2度とひとりぼっちにするな」

奈央のその言葉に、みゆきは黙った。


そして…

「わかった。ナオがそこまでいうなら待つよ」

と、みゆきは小さな声で言った。

「まあ、なるようにしかならないよ。もし、2ヶ月であいつらがモノにならなかったら、その時は私が1人で黒靴の会の全員を殺しに行く」

「私も行く。ナオだけを死なせるわけにはいかない。それに、ナオが1人でヒプリ王国に行ったら「お嬢を死なせるわけには行かねえ。カチコミじゃけえ」って小橋川が部下連れて暴れ回っちゃうでしょ」

「そうかもしれねえな」


かくして、2人を乗せた車は名古屋へと向かっていった。


みゆきが甲賀者をしばいていたその頃。

新宿区内某所の場末の喫茶店では、ミシェルと祐介が密会していた。


「ミシェル、大学はいいのか?」

「今日はもう終わったのよ」

「そう。ところで、こんな場末の喫茶店で何の用です?わざわざ呼びつけて」

「武蔵協和クレジットの特別債権回収部特命係の係長さんだからこそですよ」

というと、ミシェルは大きな封筒を出した。


「ここで中身は開かないでください」

「訳ありってことか。情報提供?それとも調査依頼?」

「調査依頼です。手付金として封筒の中に20万円入ってます。誰か1人でもそちらのデータベースにあったら、1人につき60万円。なかったら手付金は返さなくて結構です」

「訳あり依頼ということだからこれ以上は聞かんが、このこと、社長には話したのか?」

「話しております」

「わかった。先に出るぞ。あんまり長居すると、外回りでサボってるように見られちまうからな」

そういうと、祐介はテーブルに500円玉を置き、喫茶店から出た。

少し遅れて、ミシェルが勘定を済ませて喫茶店を出た。


「さて、私も動きますか」

「私もいますよ」

「じい。行こうじゃないか。とりあえずは営業だ」




つづく

今回は前後編の後編です。

理由としては、書いてるうちに4500文字を超えたためです。


次回もお楽しみに。

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