第55話
薬師寺家別宅
辿り着いたらすぐに宴席。
大勢で食べるメシは、なぜかとても美味しいものである。
宴席が終わると、大将と祐介は縁側で語り合っていた。
「それで、俺に話ってなんだよ。大将」
「単刀直入にいう。数日ほど、お前の婚約者を薬師寺学園に派遣させてほしい」
「話が急だな」
「薬師寺学園の優秀な生徒をボコすためだ。そいつらがステゴロで簡単にやられなくなるまでいさせてくれないか?」
「それはみゆきに聞いてくれ。2日3日で済むならそれでいいかもしれないけど、流石に2週間も休むとなると抵抗があるだろ。それに、お前らのところにもみゆき並みに強いやつはいるだろ。何か策は無いのか?」
「夏休みなら大丈夫だろ?」
「2か月くらい後になりますよ。それに、そこまで相手が何の動きもしてこないとは思えません」
「じゃあこうしよう。最初に薬師寺学園の優秀な生徒をボコしてもらって、2か月後にステゴロやってもらうってのは」
「その通りにことが進めばいいけどね」
「あとは、神のみぞ知る」
と、大将が十字を切る。
「まあ、成功を祈るさ…誰だ!人が酒を飲もうとしてる時に!」
暗がりから1人の男が現れる。
「久しぶりだな、大将、祐介」
この男は蓬莱隼人。孤児として薬師寺学園の前に捨てられていた盲目の男。薬師寺学園の当時の学園長が剣の才能を見抜き剣術を教え込んだところ、誰よりも強かったことから、過去に前例のない盲目の剣士として薬師寺家の戦闘部隊に所属している剣豪である。
剣術だけでなく、拳闘の腕も超がつくほどの一流。
「蓬莱さん、こんな夜更けによく来れましたね」
「なに、俺にとっては昼も夜も同じ。むしろ車が少ない分夜の方が楽なんだ。お前も元気そうじゃないか、祐介」
「お久しぶりです、蓬莱さん」
「で、例の王女の件、どうなってんだい?」
「相手の組織名は特定されたらしいですが、それ以上のことは私もよくわかりません」
「まあ、お前じゃここまでだろう。いずれお嬢からいろいろ聞くことになるだろうね。それに、俺が来た理由は、大将宛の手紙を預かってるからだ。俺の目が見えてりゃ読んでやりたいところだが、俺が読めるのは点字だけだからなぁ」
そういうと、蓬莱は大将に手紙を差し出した。
「俺の仕事はここまでだ。と言いたいところだが、うどんを1杯くれないか?」
「小橋川さんに聞いてきましょうか?」
「その必要はありません」
と、小橋川が現れる。
「これはこれは、優秀なメイドだこと」
「あなたの気配はここにくる数分前から察知できてますよ。うどんをお持ちしました。いつものように関西だしの素うどんでよろしいんですね?」
「ああ。関東だしも悪くはないが、やっぱり関西だしが一番だよ」
「相変わらずうどんがお好きなようで」
「俺の大好物なんだよ。うどんは」
そういうと、蓬莱は派手にうどんをかきこむ。
3分もしないうちにうどんはつゆごと消えた。
「うん。うまかったよ。お嬢によろしく。また来るから」
「待ちなさい」
と、奈央が現れる。
「お嬢」
「相変わらず勝手に去ろうとするんだから。挨拶くらいしたらどう?」
「俺は兇状持ち。長居は無用」
「またやったのか。今度は誰だ」
「横浜でお前らが追ってるマフィアの尖兵を2人、それから落札が行われずに差し戻しになってた依頼をやった」
「あんまり派手にやるなよ。警察を止めるにも限度がある」
「俺は生まれつき目が見えない代わりにその他の感覚が研ぎ澄まされてるんだ。警察に捕まるようなヘマはしねえよ。俺がバジリスクと戦った時よりもヤバい戦いになりそうな気がするけど、この命、お嬢と薬師寺家のために使うと決めてるんだ。今更どうこう言われる筋合いはないよ。うどん代、置いてくぜ。美味かったよ」
そういうと、蓬莱は500円玉を置いていった。
「私の奢りでいいのに」
「そうはいかんよ。大将に手紙を渡すとはいえ勝手に訪れてうどんを1杯ご馳走になってるんだから。またな」
そういうと、蓬莱は夜の闇の中に消えていった。
翌日
横浜市内のある孤児院の院長が真っ二つになっていたのを発見された。
「私は孤児を外国に売り飛ばした悪党です。双葉ふれあいの園 園長 前田陽平」
と書かれた紙を遺体に貼られた上で。
当然のことながら警察庁情報調査局が介入。
理由は外国政府工作機関の介入事案として。当然この事件にも報道管制が敷かれ、一切報道はされなかった。
だが、薬師寺家専用のゴシップ紙には載せられる。
このゴシップ紙は極めて巧妙で、明らかに架空の新聞社の新聞、すなわちドラマや映画用の小道具にしか見えないように偽装されており、素人には作中劇のことにしか見えない。
そんなゴシップ紙を奈央は見ていた。
「小橋川、この新聞を焼き払いなさい」
「かしこまりました」
「それから、この依頼、いくらの値がついてた?」
「3万円です。なので差し戻しになったのでしょう」
「3万円は流石に仕置人を見くびりすぎだ。依頼人は?」
「依頼を出してすぐに亡くなりました」
「やつの夏のボーナスを少し多めに出してやれ。目が見えなくてお手伝いさんが必要なくせに無理しやがって」
「足を洗わせなくていいんですか?」
「必要なら向こうから言ってくる。いざとなったら架空の戸籍も用意してやるさ」
その時、電話が鳴った。
「はい、薬師寺でございます」
小橋川は電話をとった。
「薬師寺学園学園長の望月菊雄でございます。お嬢様はご在宅でしょうか」
「少々お待ちください」
小橋川は、電話を保留にする。
「誰からだ?」
「薬師寺学園学園長でございます」
「代わるぞ」
そういうと、奈央は受話器を取り、保留を解除した。
「お電話代わりました。薬師寺奈央でございます」
「お久しぶりです。お嬢様」
「相変わらずだな。要件は?」
「先日弟から預かったご依頼の件につきましての打ち合わせですが、どうなさいますか?」
「3日後、こちらから連絡する。それまでになんとか選抜を頼む。成績優秀者から最低5人。多くても11人までだ。そこからふるいにかける」
「伊賀や根来、川越からの参加者もいるようですが」
「うちは来るもの拒まずだ。ふるいにかけてやる。見る目は十分だろう。貴様なら」
「かしこまりました。では、3日後のお電話をお待ちしております」
「選抜、頼んだぞ」
「はい。失礼いたします」
その声を聞くとともに、奈央は通話を終える。
「さて、これから大変だぞ」
「心得てます」
つづく
次回もお楽しみに。
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