第52話
警察庁情報調査局本局
情報調査局の局長代行ら9人が集まっていた。
「ミシェルの事案だが、あまりにも警察をコケにしてる。相手の組織の全容は掴めていないが、中核メンバーの1人が国際指名手配中の凶悪犯のタイガーだということが分かった」
その名前を聞き、皆は息を呑んだ。
タイガーは元傭兵である。中東のあらゆる戦地に赴いていたが、マフィアに加担して民間人殺害を実行した容疑で指名手配されており、警察ですら手を焼く厄介な存在である。
「流石にタイガーが日本に上陸してるとは考えにくいが、協力者は既に上陸してるだろうな」
「ところで、横浜に向かわせた部隊からの連絡がまだのようですが」
その時、情報調査局の電話が鳴った。
「はい情報調査局」
「伊勢佐木町の「シャガール」というクラブをあたったところ、とんでもない人物にあたりました。前川優一、10年前に武器密輸の疑いで逮捕歴のある人間です。その時は証拠不十分で起訴は免れたんですが、その後東南アジアに渡って地下組織を拡大していったんです」
「その前川はどうした?」
「店の者何人かにあたったんですが、行く先はわからないようです。前川には女がいたんですが、接触したかどうかまではわからないです」
「女のヤサは?」
「中目黒のブロンコ荘ってアパートです」
「わかった、すぐに捜査員を向かわせる」
「というわけだ、紫原、乙坂、行ってこい」
「はい」
「はい」
東京都目黒区中目黒
ブロンコ荘302号室前
「ここだな」
そういうと乙坂はインターホンを鳴らす。
「はい」
「書留です」
その声に油断した女はドアを開けてしまう。
そしてドアが開いた瞬間…
「警察だ!」
紫原がそういうと、乙坂とともに強引に部屋に押し入る。
「ちょっとなんなのよあんたたち!人の部屋に勝手に押し入って!」
「前川はどこにいるか言いなさい」
乙坂が前川の女に聞く。
「知らないわよあんなやつ!」
女がそう言った次の瞬間…
「何すんのよ!てめえ!バカ!」
女が悲鳴をあげる。
紫原と乙坂は慣れた手つきで喚く女の足を縛ってから逆さ吊りにする。
「下ろせ馬鹿野郎!こんちくしょう!」
女は喚き散らしながら紫原を罵る。
「前川はどこだ!吐いたら下ろしてやるよ」
紫原が女を問い詰める。
「誰が教えるもんか!警察に訴えてやる!」
「俺たちがポリスマンなの」
その後、部屋では紫原と乙坂がババ抜きに興じていた。
「やっべえwwwババ引いちゃったよwww」
「その割には紫原さんずいぶんと余裕ですね」
「あたぼうよ」
「助けてぇ…死んじゃうぅ…」
前川の女は逆さ吊りにされた状態で助けを乞う。
しかし、紫原と乙坂はまだババ抜きをしていた。
「言うからぁ…」
女が苦しそうにいうと、紫原と乙坂はババ抜きをやめて女の横に近づく。
「言うんだな!」
紫原が念押しをする。
「言うよぉ…」
「さっさと喋ってりゃいいんだよ馬鹿野郎」
数分後。
紫原はパトカーの中で局長代行と連絡をとっていた。
「局長代行、前川のヤサがわかりました。宇田川町の極楽ホテル903号室です。これから踏み込みます」
「よしわかった。すぐに応援を出す。合流するまで踏み込むなよ」
その頃
薬師寺家別宅。
武装メイドの川島が奈央と小橋川に調査報告を行っていた。
奈央は無言で、川島の話を聞いていた。
「川島、やっと裏が取れましたか」
「ええ。これをまとめるのは骨でした」
「まさか、あの自動人形の元締めがミシェルの命を狙っているとはね」
「天田のルートで探ってて、北京、上海、青島、マカオ、香港と巡って調査した甲斐がありました。ヒプリ王国の地下組織「黒靴の会」がその元締めです。ご丁寧に領収書を残してくれたから足がつきました」
「敵の罠かもしれませんが、ミシェルにはこのことを話しましょう。川島、後は任せました」
「御意」
そういうと、川島は資料を置いて去っていった。
「小橋川、その件は私が直接ミシェルに伝える。あの4人を呼び戻せ」
そういうと、奈央は別宅を離れた。
奈央の指示を受け、小橋川は甲賀第一訓練所に電話をした。
「もしもし、小橋川でございます。五月女さんはいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ちください」
20秒後…
「お電話代わりました。五月女でございます。どうされました?」
五月女四郎
彼は甲賀第一訓練所の所長である。
「そちらに酒井宏美ら4人がいらっしゃると思うんですが」
「ええ、いますよ」
「本当ですか。でしたらすぐに東京の別宅に戻るように伝えてください」
「何かあったのですか?」
「お嬢様からの緊急の連絡とだけしか言えません」
その言葉に、五月女は黙った。
そして…
「すぐに伝えて戻らせます。場所だとかは、あっ、ちょっと待ってください」
その瞬間、五月女は酒井に受話器を渡した。
「酒井です。すぐに戻りますので、そちらの連絡先を教えていただけないでしょうか?」
「大丈夫です。あなたがたに渡した業務用の携帯にあらかじめ登録している番号から電話がかかってきますから、連絡を待ってください。もし、高幡不動駅までに連絡がなかった時にはその番号にかけてください。すぐに向かいますので」
「わかりました」
その声を聞き、小橋川は電話を切った。
「さて、いろいろ大変そうですね」
そういうと、小橋川は執務に戻った。
夕方
雨谷の自宅の郵便受けに猿のおもちゃと朱色の紙が投げ込まれていた。
猿の口に結ばれていた朱色の紙には「緊急指令。確認次第速やかに別宅に来られたし。 N 」と書かれていた。
雨谷は無言で紙と猿のおもちゃを回収して薬師寺家の別宅へ向かった。
詳細が書かれていないというのは、すなわち文書には残せないほどの重大な事案である。
「薬師寺さん、重大な手がかりを見つけたな」
雨谷は薬師寺家別宅に向け、車を走らせていった。
つづく
遅筆ゆえなかなか更新頻度を上げられませんが、次回もお楽しみに。
気長にお待ちください。
そして、皆様からの感想をお待ちしております。




