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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
49/61

第48話

武蔵協和銀行広島ビル内3階

武蔵協和クレジット広島支店応接室

祐介は広田社長と連絡を取っていた。


「何?富岡海運が保険金詐欺をやってただと!?」

広田社長は当然驚く。

「ええ。先程、ルナとユズが富岡海運の倉持を捕まえて尋問にかけました。4年前の海賊襲撃事件によるタンカー沈没の際に沈没したタンカーと一緒に原油も沈んだってのは知ってますよね?実はあの原油がひっそりと売り捌かれていて、証拠隠滅のために海賊もろともタンカーを沈め、沈んだタンカーと原油の保険金をまんまと騙し取ったんですよ」

「つまりその秘密を知った連中が富岡海運を恐喝してたってことか」

「そういうことです。そしてその連中はミシェル暗殺のために密入国の手引きまでさせたんでしょう」

「そうか。それはそうと、出張は今日で終わりだったな。真っ直ぐ帰ってこい」

「わかりました。失礼します」

そういうと、社長は通話を終えた。


その後、祐介は武蔵協和クレジットの債権回収部部長とも連絡を取った。定型的で短い連絡ではあるが、ユズとルナは暇そうにしていた。


「お前、やっぱり帰るのか」

と、ユズ。

「仕方ないだろ。何日も離れるわけにもいかんし、あんまり留守にしてると、みゆきが心配する」

と、祐介。

「そんなタマかよ。おめえの婚約者は」

と、ルナ。

「まあまあそう言うな。あの人の心すら失った殺し屋が徐々に人間くさくなっていってるんだ。素直に褒めてやろうよ」

と、祐介が言う。

「ノロケは聞きたくないんだ。これ以上ノロケを聞かせるなら帰れ」

と、ユズ。

「言われなくても夕方の新幹線で帰るよ」


17時40分

広島駅新幹線ホーム

「すまねえな。社長の命令なんだわ」

「その割には随分と土産物を持ってるじゃねえかこの野郎」

ルナが悪態をつく。

「職場の連中に頼まれてる分とうちの分だ。またどこかでお会いしましょう」

と、祐介は別れの挨拶をした。

「ああ。それまでちゃんと生きていろよ」

ユズは祐介に声をかけた。


東京行きの新幹線を見送り、ユズとルナはホームをあとにする。なお、ドクはこの1本前の新幹線で東京に戻っている。


「あのバカには教えなかったけど、今、広島で殺しのダッチ・オークションが秘密裏に行われてるって話だ」

「うちの直参がやってるやつか。まあ、本家も黙認してるやつだからな。外道仕置が起きたら、粛清部隊が広島にやってくる。そうなったらあいつらは集団自決するしかない。敵対すりゃ死ぬだけだ」

「仕置人が仕置されるってか」

「そんな冗談じゃ…おっと電話だ。はいこちらルナ」



一方、東京行きのぞみ50号の車内にて。

「隣、空いてます?」

女が祐介に声をかけた。

「ああ、連れはいないよ。ん?」

祐介は声をかけた女がななみだということに気づいた。

「お前今までどこに行ってた?」

「九州各地で流しで歌ってた」

「そうか。ずいぶんと荒稼ぎしたんだろうな」

「おかげさまで。で、君は?スーツなんか着こんじゃって」

「出張で広島に行ってた。これでも私はクレジット会社の債権回収担当だからね」

そういうと、祐介はななみに名刺を渡す。

「武蔵協和クレジット特別債権回収係係長。へえ、君が係長なんだ」

「来月からは債権回収部特命係に名称が変わるが、やることは変わらないよ。そのあとは名刺を配った相手にこの新しい名刺を配らなきゃならないから、挨拶回りだ」

「みゆきは元気?」

「ああ。元気してるよ。この4月から大学に入ったんだ。みゆきに会ったら入学祝いを渡せよ」

「わかったわ。流しの間にだいぶ稼いできたから、しばらく流しをやらなくても平気よ」

「本当か?そりゃいいや」

「でも、また歌いに行くわ」

「遠慮すんな。たまには休め」

「もちろん、休んでからよ」

「そうか」

そういうと、祐介は手元のタブレットPCを開き、仕事を始めた。


東京まで約4時間。

その間、ななみはのんびりとお茶を飲んだり夕飯を食べたりと車内でくつろぎ、祐介は夕食もそこそこに仕事に取り掛かっていた。


その頃

早稲田大学中央図書館2階


おことわり

以下のミシェルとみゆきの会話は英語を使ってますが、読者の理解を助けるため日本語で表記しております。


「ねえ、こんなところで大丈夫なの?」

ミシェルがみゆきに問いかける。

「かえって怪しまれないわ。どこからどう見ても課題に追われる学生だから」

みゆきがそういうと、ミシェルは納得した。

「さて、今日の夜、私のフィアンセが広島から帰ってくるわ。その時、中間報告をしましょう」

「フィアンセ…ああ、雨谷さんか。それで、大丈夫なの?雨谷さんは」

「私が見込んだ男だもん、大丈夫よ」

「いや、そうじゃなくて。広島で襲われたんでしょ、雨谷さんは」

「薬師寺家の直参の連中がいたから問題ない。あと、情報早いわね」

「日本で活動するにあたって、私の仲間を数人動かしてるから」

「それがあんたが言ってた会社の社員ってわけね」

ミシェルは小さいながらも会社を経営している。

いわく、法人のほうがいろいろ動きやすいとのこと。

「ザッツライト」

「社長業も大変でしょうに」

「いえいえ。私は結婚相手を探すただの若手実業家です」

ミシェルは謙遜しながらいう。

「いつ謙遜を覚えたの?」

「日本でビジネスをやるには、謙遜も必要だから」

「もし、この仕事が終わったら、あんたはどうすんの?」

「どうして?」

「薬師寺家は依頼が終わればそこまでの関係だ。お家騒動が終わったら祖国に帰ればいい」

「それは、できない」

そのミシェルの言葉にただならぬものを感じたみゆきは「わかった。もう聞かない。さて、課題をやっつけましょう」と言い、課題に取り掛かった。



21:40

東京駅八重洲南口

そこではハイヤーから降りたみゆきが待っていた。

「ユウスケ、おかえり」

「ただいま。まさか、ハイヤーで迎えに来るとはな」

「ミシェルがあんたに会いたいからね。それと、ナナミ。なんの連絡もよこさないでどこ行ってたのよ」

「九州各地で歌ってた。あと、六角の爺様が「いろいろ大変なことに巻き込まれてるらしいじゃねえか。わしにできることがあったらなんでも言ってくれ」ってさ」

「へえ。そうかい」

みゆきがそういうと、祐介を助手席に座らせ、ななみとみゆきでミシェルを挟ませるように女3人が後部座席に座った。

「この運転手さんは、元々はヒプリ王国でミシェル様の執事をしていた方よ」

「いえいえ。私は摂政に怒られてクビを言い渡されただけの、ただの運転が大好きなしがない老人ですよ。ミシェルお嬢様には運転手として雇っていただきました」

「それで、運転手さんはまだ東京に来て日が浅いと思いますが、普段は何をなされていますか?」

「お嬢様の会社で事務仕事ですが、何もない時は会社の車で道を覚えるために運転をしております」

「それに、私の会社は出来てから日が浅いから、まだ全然仕事がないのよ」

ミシェルが横から口を挟む。

「そうですか。私はななみを連れて一旦家に帰りたいんですが、どちらに向かってるんですか?」

「ユウスケの家」

と、みゆきが口を挟む。

「そりゃ助かる。シート倒して寝ていいか?新幹線の中でずっと仕事やってたから、もう眠くて眠くて。あと、明日、薬師寺さんがうちに来る。失礼のないようにな」

そういうと、祐介は目を閉じた。


車は夜の東京の通りを駆け抜けていった。




つづく

次回もお楽しみに。

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