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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
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第47話

襲撃事件のあと、ホテルに戻った祐介は水野と電話をしていた。

「あら、祐介くんから電話だなんて珍しいわ。どういう風の吹き回し?」

「今、広島出張中ですけど、広島の流川も確か水野さんのナワバリでしょう?今日の夜、宮島口の駅前でチンピラの襲撃を受けました」

「それで、大丈夫だったの?」

「ええ。相手もまさか薬師寺家の戦闘員を敵に回すだなんて夢にも思わなかったでしょうね」

「そう。よかった。で、話は?」

「元締めの原嶋さんと話がしたいのですが、連絡先がわからなくて」

「それで教えてほしいってわけね。わかったわ。君が泊まってるホテルの名前を言えば、そこのフロントに原嶋を向かわせるから」

祐介は泊まり先のホテルの名前を水野さんに教えた。


「わかったわ。30分以内に着くと思うから。今度イタリア料理の美味しい店行かない?お姉さんサービスしてあげるから」

「ファミレスで十分です」

「んもう、つれないんだから。でもお姉さん君のそういうところは好きよ。じゃあね」

そういうと水野は電話を切った。


「ケッ、誰にでもそういうリップサービスをするんだから。あの両刀使いめ」


5分後、部屋の電話が鳴る。


「はい」

「雨谷様、フロントで原嶋様がお待ちです」


フロントに降りると、原嶋が待っていた。

ロビーで連絡先を交換したところで、祐介が原嶋に話を切り出す。

「今薬師寺家の連中が何やってるか知ってますよね?」

「確かヒプリ王国のプリンセス絡みでいろいろ揉めてるって聞いたわ」

「そのプリンセス絡みで今日襲撃事件がありました。襲われたのは俺とサザンクロスの3代目の村上夏帆さんです」

「サザンクロスの3代目って、あの女海賊かい」

「知ってるんですか?」

「あそこの男衆はうちのお得意様だし、先代がやってるレストランも味がいいって評判だからね」

「なるほど。で、襲撃事件に話を戻しますが、この事件の背後で絡んでるのはおそらく富岡海運。どうもきな臭いんです」

「それで、私たちにどうしろと?」

「富岡海運に絡む事案についてと、このチンピラについて調べてください」

そういうと、祐介は画像データを見せる。

「こいつ知ってる。三宅琢也よ」

「何者ですか?」

「解散した市村組の元構成員。解散後は安芸高田市で農家をやってたらしいけど、すぐに広島に舞い戻ったわ」

「前科は?」

「過去に2度覚醒剤の密造と密売の容疑で広島県警の捜査線上に上がってたけど、証拠不十分で釈放されてる」

「エクスターミネートを免れた理由は?」

「解散した市村組の組長がエクスターミネートの逃亡生活に疲れて、人生に悲観した多くの組員を連れて船で沖に出て集団自決しちゃったの」

補陀落渡海(ふだらくとかい)か。そんなことしたって浄土に行けるわけがないのに。残りの人生を贖罪の日々に使うことを捨てた馬鹿者が行くのは地獄だ」

「手厳しいのね」

「で、あいつは行かなかったんですか」

「エクスターミネートの対象は基本的に前科者だからね。それに市村組はエクスターミネートの4年も前に偽装とはいえ解散してるから」

「今回のヤマ、動機は金だろうな。今や元暴力団員は生活保護を申請しただけで詐欺未遂で逮捕されるからね」

「知ってるわ。確か広島が1番厳しいのよね」

「だから、あちこちのチンピラが金欲しさに依頼を受けてるのか。馬鹿な連中だ」

「なぜ?」

と、原嶋が疑問を抱く。

「いいですか?敵さんは失敗や標的との取引を見越して方々に依頼を出す。そして仮に成功してもその依頼を受けたやつを金を手渡しで渡すふりして抹殺して約束の金を払わないのが関の山です」

祐介が得意げにいう。

「信用に関わるんじゃないの?」

「普通なら。ところが敵さんはプリンセスの暗殺さえしちまえばいいってんで、後顧の憂いなど考えてない。おそらく敵の本隊はヒプリ王国の傀儡政権だろうが、このままなら始祖六家が一国と対峙しかねませんよ」

「穏便に済むかしら」

「始祖六家が関わってる案件。無事では済まないでしょうね。俺はみゆきにあらかた任せる。社長が下手に介入しない限り」

「じゃあ、今日はこのあたりで引き上げるけど、何かわかったら連絡するから。じゃあね」

そういうと、原嶋は夜の街へと消えていった。


祐介は部屋に戻る。

メールチェックをしてこの日は就寝。


一方その頃。

「ドクに言われて拷問にかけてるけど、なかなか口を割らないね」

「ええ。広島の人って強情なのかしら。それとも弱すぎるだけ?」

「知らんよ。今はこの野郎を吐かせるだけだ」

3回目のウォーターボーディングが行われる。

ウォーターボーディングとは、水責め拷問のことで、尋問される側が水責めの内容を予め知らない場合は、簡単に溺死する錯覚に陥り、死の恐怖で短期間に自白を強要できるとされている。

さらに、殴打などの肉体的拷問に比べて、外傷が一切残らないなどの利点が存在する。


「どうだ、喋る気になったか?」

「わかった。喋るよ。俺たちはただ、外国人から即金で1人50万円もらって頼まれただけだ。他のことは何にも知らねえ、本当だ!」


ユズとルナは回収部隊に男の身柄を引き渡す。


「また振り出しかね。このこと、祐介(バカ)には黙っとく?」

「聞かれなかったら黙っておこう」


翌日の夕方。

夏帆からのメールを確認した祐介は、宮島口のいつもの店に向かった。


店には夏帆とユズとルナの3人がいた。

ドクは遅れてくるとのこと。

「調査結果はどうだい?」

「これが資料よ」

そういうと、夏帆は祐介に資料を渡す。

「中間報告かい?」

「ええ。やはり富岡海運、恐喝されてたわね。発端は4年前のタンカー沈没事件」

「ああ。確か原油を満載したタンカーが海賊に襲われて爆発炎上して沈没したやつだろ?生存者は富岡海運の6名。それ以外の海賊5人と乗組員は全員死亡。おい、まさか…」

「そう。そのまさかよ。あんたが追ってた倉持も乗組員の1人」

「これで倉持の動機に繋がった。倉持は武蔵協和クレジットに加え、銀行の他にも街金にまで手をつけてて、総額2000万円以上借金してた」

「借金の理由は?」

「わからん。ただ、まともな理由では無さそうだ」

「どういうこと?」

「バクチってわけでは無さそうだが、おそらく人には言えない何かだろう。女癖の悪さで離婚したこともあるらしいが、そっちの話は、原嶋さんに調べてもらってる」

「そういうことね」

女3人は納得した。

「で、恐喝の主は?」

「それは今調べてる。富岡海運はいろいろ闇の深い会社だからね。ボスに頼んで地元の連中を何人か呼んだ方がいいわね」

「危ない橋を渡ってるんだから当然だろう。で、タンカー沈没事件を立案したのは?」

「私の見立てだと、先代の社長とその腹心の副社長の大林、それから常務の内田が怪しいわね」

と、夏帆が得意げに言う。

「お前の見立てなら間違いない。で、そちらのお二方は何か掴みましたか?まさか、広島まで来て美味いものばかり食いに来たわけじゃなかろう」

と、祐介はルナとユズのほうを見る。

「こっちは襲撃犯のルートから調べようとしたけど、襲撃犯はただの使い捨てね。話にならない。でも、富岡海運のドラ息子の方をあたれば何か出そうね」

「やっぱりお前らもあのドラ息子が怪しいと思ったか。前々から()()()噂はあった。あの企業、最近取引額を増やしたんだが、武蔵協和銀行との取引も付き合い程度。だから銀行ルートで探りを入れてみるよ」

「武蔵協和クレジットの特別債権回収係係長の地位が役に立ってるな」

と、ユズ。

「社長、こうなることをわかってたな。こりゃ、長くなりそうだが、俺は明日の夕方、一旦東京に帰らなきゃならねえんだ。後のことは、任せても構わないか」

と、祐介。

「あんたの頼みならダメだけど、社長とお嬢の頼みだから、引き受けるよ」

と、ルナ。

「ありがたい。助かる」

と、祐介。

すると、店にドクが入ってきた。


「話は終わった?」

「ええ。明日の夕方の新幹線で祐介が帰るから、後のことは頼むってさ」

「仕方ないね。私も医療学会が終わったら帰らなきゃならんから、後のことは現地の奴らに引き継ぎするか、ルナとユズに任せるっきゃないっしょ」

「そうね。大変になりそうだわ」

「祐介、後のことは社長宛でもいいね」


と、夏帆がいう。

「ああ。社長には連絡してある。もっとも、あの秘書がちゃんと伝えていればの話だが」

と、祐介が含みを持たせていう。


こうして、夜は更けていく。




つづく

次回もお楽しみに。

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