第46話
ドラァグクイーン部隊による勝田への尋問が難航する中、ついにミシェルとみゆきの入学式を迎えてしまった。むろん、みゆきはミシェルの友達のフリをしたボディーガードとして。
みゆきとミシェルは同じ授業を取ることで不自然に思われない様に立ち振る舞うこととなった。
「これが日本のキャンパスライフか」
と、ミシェル。
「何もかも新鮮ね」
と、みゆき。
「ええ。そうだわ」
「学内なら敵さんも流石に大っぴらには動けないだろうけど、慎重にね。プリンセス」
「わかったわ」
一方その頃。
祐介は社長の秘書からの電話を受けていた。
「広島出張ですか」
「この事件で勝田の背後に海運会社がいるってのがわかりました。富岡海運って会社で、2年前に社長が亡くなって、今はその息子が社長の座にいる会社です」
「富岡海運…」
「知ってるのですか?」
「ちょっと待ってください。確か特別債権回収係のクレジットファイルに富岡海運に勤務してた人物がいたはずです」
そういうと、祐介は電話を保留した。
数分後。
「お待たせしました。債務者名、倉持春樹、46歳。住所は広島市。勤め先は富岡海運で、債権は回収済みです」
「特別債権回収係にそのクレジットファイルが回ってきたってのはどういうわけ?」
「倉持が富岡海運の横浜支社に異動になったからです。彼がなかなか借金を返さないんで、しびれを切らしたクレジットの広島支店の人が回したんでしょう」
「それで、回収済みになった理由は?」
「ファイルの内容によると、遅れてる分を一括で振り込んできたんです。返していただける分には助かるんですが、何か裏を感じるんです」
「わかりました。こちらのほうでも調査いたします」
「よろしくお願いします」
「それでは失礼します」
そういうと、秘書は通話を終えた。
翌日
広島に向かう新幹線の車内にて。
「ここにいたのか、雨谷」
「誰かと思えば、ユズとルナじゃねえか。あれ?ドクはどうした?」
「ドクのお師匠様と学会のお伴で先に広島に行ってるよ」
と、ユズが言う。
「そういえば開業医じゃねえもんな、あいつ。で、これも社長の差し金と」
「その通り。やっぱり察しが良い」
と、ルナ。
「今回の依頼は社長の商売だ。で、薬師寺さんはそれに巻き込まれて負傷。この俺もだ」
「お前が負傷するのは別にどうでもいいんだが、お嬢が負傷しただなんて珍しいな」
「爆発に巻き込まれたんだ。もっとも、軽いけがで済んだがね」
「で、お嬢はどうした?」
と、ルナ。
「退院して早々、小橋川さんとどこかへ行きましたよ」
約4時間後。
広島に到着。
祐介らは、武蔵協和クレジットの広島支店のあいさつに出向くため、紙屋町のほうへと向かった。
「で、お前はどこを探るんだ」
「俺の知り合いに、ショー営業型の海賊をやってるやつがいる。そいつにあたるさ」
「海賊?」
「船会社といえば、海。海をよく知るのは海賊ってわけだ。このあと挨拶が終わったら宮島競艇場に行く。さっき電話したら、今日は営業で競艇場に行ってるって聞いてな。君らは、適当に時間潰してもいいし、先に競艇場に行っててもいいから」
2時間半後。
祐介は宮島競艇場の海賊の元締めと会っていた。
彼女の名は村上夏帆。表向きはショー営業型海賊として船会社のイベントに現れたり、ヒーローショーの悪役やスタントなどを生業としているが、裏の顔も当然ある。
夏帆もまた、広田社長ともゆかりのある人物である。
「雨谷、元気してたか」
「村上さん。お久しぶりです」
「おう。相変わらず憎めねえツラしやがって。あとでオヤジの店に来い。うんとサービスしたるよ」
本格派海鮮レストラン「OHKA」
店名の由来は先代が妻の旧姓の大家と娘の名前のアナグラムからつけたものである。
その先代、今は陸に上がって料理人である。
「話は聞いてるよ。薬師寺のところのお嬢のためなんだろ?」
「ああ。それから、富岡海運って知ってるだろ」
「確か4年前にタンカーが海賊に襲われて沈められた会社だろ?それがどうした?」
「そこの会社の倉持ってやつが、どうも怪しい。調べてもらえないか?」
「高くつくよ」
「担保はうちの社長。経費は社長が払うことになってる」
「まあ、いいよ。で、何日以内がいいかい?」
「大急ぎで頼む。今日を入れて3日しか広島にいられないから。もし間に合わなかったらここの住所と、社長のところに送りつけてくれ」
と、祐介は名刺を渡す。
「へえ。メガバンクの傘下のクレジット会社の特別債権回収係か。お前らしいな。わかった。そろそろメシにしようや。オヤジも待ってるから」
そういうと、夏帆、ユズ、ルナ、祐介の4人は思い思いに料理を注文した。
1時間半後。
店の外にて。
「いい店知ってるじゃないか」
と、ユズ。
「最高だったよ」
と、ルナ。
「そう言ってくれるとありがたい。また来てくれよな?」
と、夏帆がいう。
「そう。じゃああたし達はホテルに戻るよ」
と、ユズ。
「俺は酔い覚ましをしてからだ。2人は先に戻っててくれないかな?」
と、祐介はユズとルナをホテルに戻した。
「人払いさせてまで2人きりになるあたり、あの2人には黙ってておいてほしい話があるんだね」
「単刀直入にいう。ある国のプリンセスが日本に来てるのは知ってるだろ?そのプリンセスの抹殺依頼が世界中に出回ってるんだ。俺が思うに、個人であそこまでできるとは思わん。いったいその組織はどこの誰なんだ?」
祐介は語気を若干強めながらいう。
「あたいらに聞いてどうするんだよ」
と、夏帆がいう。
「そのプリンセス、どうも只者じゃない。いろいろと探りは入れたが、情報が少なくて困ってるんだ」
「お家騒動ってわけじゃないのか?」
「単なるお家騒動だったら俺のような部外者にまでアサシンが来ることも…」
その瞬間、祐介が話を止めた。
「おい、雨谷、どうした」
「村上さん、走れ!」
その瞬間、銃撃を受ける。
「どうなってるんだ!」
夏帆が怒りながら聞く。
「ルナとユズを先にホテルに行かせたのはまずかった。奴らは薬師寺家の戦闘員、それも直参の幹部が一目置くほどの戦闘能力を有してるんだ」
「電話で呼べばいいだろ」
「今やってるよ、出やしねえ」
そういうと、祐介は宮島口駅に急ぐ。
しかし、駅前にはすでに敵の追手がいた。
「どうやら囲まれたようだ」
と、祐介。
「どうする。相手は8人、こちらは2人。勝てる要素は?」
と、夏帆。
「増援が間に合うこと」
「人を当てにするな。少しは戦え」
「俺の戦闘能力知ってて言ってるのか」
「何ごちゃごちゃ喋ってんじゃワレェ!」
敵のリーダー格の人物が祐介に声をかける。
「君たちの目的はなんだ!」
「知ってどうするんだ!」
「どうせあのおてんば娘の絡みだろう。お前らの目的が成功しても、俺の想定通りなら、多分お前らは約束の金を1円も受け取れずに殺されるぞ!」
「デタラメぬかすんじゃねえこの野郎!」
「少しは調べてみろ!依頼主はおそらく外国人だろう」
その刹那、戦闘員7人が次々と倒れる。
「まったく、世話が焼けるんだから」
そこには、ルナ、ユズ、ドクの3人がいた。
「な、なんだてめえらは」
と、リーダー格の男がいう。
「通りすがりの外科医です」
と、ドク。
「船長、大丈夫ですか!」
と、夏帆のもとに2人の男が駆け寄る。
この2人は夏帆の部下である。
「大丈夫だよ。心配ない」
ルナとユズは逃げようとしたリーダー格の男を縛りつける。
「もう大丈夫。お前は先に宿に戻れ。私はこいつを尋問にかける」
というと、ドクはリーダー格の男をワゴン車に押し込め、夜の街へと消え去った。
「じゃあ村上さん、俺はホテルに戻るよ。後のことは薬師寺家の戦闘員たちが片付けてくれるさ」
「わかった。じゃあな」
そういうと、祐介は宮島口駅から広島方面へと向かった。
つづく
次回もお楽しみにね。




