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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
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第43話

東邦病院特別室


「うっ…ここは…」

「ユウスケ!よかった!」

「みゆき、どうして。ハッ、そうだミシェルは!」

「無事ですよ。あの女の子は外で待たせておりましたが、先程小橋川さんが連れて行きました」

医師が声をかける。

この医師は橋口宏樹(はしぐち ひろき)。ドクこと弥永尚子(やなが なおこ)の師匠に当たる医師である。この医師もまた、薬師寺家の構成員。

「橋口さん。お久しぶりです」

「今年の健康診断以来ですね。しかし、びっくりしましたよ。あなたが血まみれで女の子を抱えて急患入口でクラクションを鳴らし続けてるんですから。何かあったんですか?」

「お嬢の絡みの極秘任務です。何も聞かないでください」

「わかりました。病状ですが、軽い頭部の出血でした。とりあえず脳波には異常はありませんでしたが、念のため今日いっぱいは安静にしてください。ではこれで」

特別室から橋口医師が出ると、入れ替わるように乙坂がやってきた。

「早速だがいろいろと聞きたいことがある」

刑事(ポリ)に話すことはねえよ。帰んな」

祐介は乙坂を追い返そうとした。

「放っておけるわけないだろ。駐車場に実弾で撃たれた跡がたっぷりとついた防弾改造車のセンチュリーが置いてあったらびっくりするだろうが。それにあんたは一般人じゃないか。こんな仕事なんか怪我負ってまでやることじゃないよ。あんた、薬師寺家にどんな恩があるってんだ」

「そうよ。ユウスケは私の婚約者。話してもいいだろ」

2人が祐介に詰め寄る。


祐介は少し間を置いてから話し出した。

「俺の両親が死んだのは交通事故だって聞いてるだろ?あれは嘘だ。本当は薬師寺ファミリーが絡む抗争事件で死んだんだ。俺の家は薬師寺ファミリーとは少なからぬ繋がりがある。草って言葉を聞いたことあるか?」


草とは忍者の別名である。忍者は普段はさまざまな職業の者になりすまして生活を営んでおり、有事の際には出撃を命じられるのである。


「まさか、あんたの両親やあんた自身がその草だったってこと?」

乙坂が祐介に聞く。

「察しがいいな。警察キャリアってのは。で、俺は社長や当代、次期当主の密命であらゆるところに潜り込んでいた。小学校の頃から薬師寺ファミリーに使われてんだ。いわば使用者と労働者の関係だ」

「ユウスケも大変ね。じゃあベイカー街遊撃隊みたいなこともやってたわけ?」


ベイカー街遊撃隊とは、シャーロック・ホームズシリーズの中で登場した貧民街の浮浪児たちのことである。警官やホームズが入り込めない場所へも潜り込み、警官やホームズでは聞き出せないような有益な情報を持ち帰る部隊として真価を発揮した。


「そうだよ。小学校や中学校は流石に大人じゃ入れないからね。俺もいいシノギにはなったよ」

「その話、詳しく聞かせてよ」

と、乙坂。

「意地汚ねえマッポが今更何言ってやがる。埼玉の警察汚職はてめえらがまとめて始末しただろ。俺がやったのは教職員の不正の証拠まとめだよ。学校内に盗聴器をいくつも仕込んで、証拠写真を撮るのにどれだけ苦労したか」

「あんた驚異的な嘘つきだの二枚舌だの言われたことあるでしょ」

と、乙坂は呆れながらいう。

「嘘つきとは心外だねえ。職務上言えないことが山のようにあるだけだよ。あんたら警察と同じように」


その後、祐介と乙坂の不毛な言い争いは10分にわたって続いた。


「じゃあ、元気でね。また来るから」


そう言い残すと、みゆきと乙坂は部屋を出て駐車場へと向かう。

「山本さん、変な気を起こすなよ」

「オトサカ、止めるな。今から私はハニーを殺そうとした輩をみんなぶっ殺しに行く。お前はただ指をくわえて待ってろ」

「ふざけんな。私は警察庁の警官であり、始祖六家の諸田家に使える身だ。たとえ、よその家の構成員でも1人で行かせるわけには行かないのよ」

「だったら、どうしろって言うの。ナオに聞いたら「手出しするな」としか言わないし、小橋川さんにそのことを伝えても「しばらく待て」としか言わない。私、悔しいよ。ハニーをあんな目に遭わせた連中になんの仕返しもできないなんて…」

みゆきは肩を落としつつ語った。

「あんた、雨谷くんの前で泣いたこと無いでしょ」

図星を突かれて、みゆきは黙りこくった。

「図星ね。いいわ。私の車に乗りなさい。そこなら泣いても私以外の誰にも聞かれないから」

そう言うと、乙坂は自分の車の後部座席にみゆきを乗せた。

「送ってくわよ。雨谷くんの家でよかったかしら」

「ええ」

「言っとくけど、いくらあんたが強くても、敵が誰かも分からないのに攻めるのは死にに行くようなものだからね。もし、あんたがやりたいなら、私も連れて行きなさい」

「オトサカ」

「命さえあればどうとでもなります。警察庁情報調査局でも可能な限り力を貸してあげるわ。始祖六家は持ちつ持たれつの関係だから」

「ありがとう」

「だが、殺しの手伝いはしないわよ。あくまでもみんな生捕りにするんだからね」

「外交問題が絡んでるから?」

「あんまり派手にやると局長がうるさいのよ。省庁間のしがらみとかいろいろあるから」

「私にはわからないわ。アメリカにいた頃からヒットマンとしての生き方しかしてこなかったから」

「正直、キャリアのしがらみってのは大変だからね。私も大卒後にそういうキャリアの道に入ってしまったから」

「キャリアが人殺しだなんて、私には信じられない」

「上流階級の連中は人には言えないことの一つや二つ抱えてますから。世の中には犯罪を金で揉み消したり、幼児性愛に、悪魔崇拝などキチ○イの所業に手を染める愚か者もいますから」

「それ、バチカンとか?」

「あなたのいたアメリカでも日本でも、どこの国でもあったことだから今更聞かないで」

「わかったわ」


それから数十分後、2人は雨谷の自宅に着いた。

「ここでよかった?」

「ええ」

「じゃあ、私は帰るけど、くれぐれも勝手に動いちゃダメよ」

「今日のところはあんたに免じて、しばらく動かないでおくわ」

そう言うと、みゆきは車から降りた。



その頃

「取り逃しただと?」

「申し訳ありません。何しろ、相手は3台も影武者車両を用意し、東邦病院には敵の戦闘員が大量にいました」

「それでノコノコと部下全員見殺しにして逃げ帰ったのか。この馬鹿者」

「申し訳ありません」

男が部下を説教してると、女が入ってきた。

「そのあたりにしておけ」

「万波さん」

「あなたも人のことを言える立場ではありませんよ。ことと次第によらなくとも、あなたは薬師寺家に狙われる。おそらく、実行部隊はこれで面が割れたし、指紋やDNAも採取されたでしょう。反攻作戦に出られたら面倒です。急いでこのアジトを捨てましょう。私はこれで」

万波は去っていった。

「わかったな。次はないぞ。もし次失敗したら、俺たちは能無しとみなされて命まで取られることになるからな。言っとくが変な気は起こすな。俺の指示を待て」


彼らはまだ知らない。

ある男を本気で怒らせたこと、そしてその婚約者も我慢の限界を超えたことも。




つづく

次回更新まで、お楽しみに。

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