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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
43/61

第42話

午後6時

武蔵ホテル六本木 地下駐車場

祐介とみゆきは、奈央から一通りの説明を聞く。

そして…

「なるほど、護衛任務か」

「またお前には悪いこと押し付けちまったな」

「気にしないでください。慣れてますから」


「ねえ、ナオ、ユウスケって運転上手いの?」

「まあ、そうだな。薬師寺家のドライビングテクニックを競う大会にも出たことがあってな、私の推薦で出た時には3位入賞したこともあるくらいだ。どこでそんなドライビングテクニックを覚えたんだか」

「私は、ユウスケの運転を見たわけじゃないからね。本当にうまい…あっ」

「どうしたの?みゆき」

「そういえば、ユウスケのアルバムにレース場での記念撮影の写真があったわね。富士スピードウェイって書いてあった」

「へえ。そうなの」



翌日

午前10時55分

「それでは、護送任務を行う。万一の際に備え、3箇所逃げ場を用意してある。撹乱車以外は予定のルートを走るように」

奈央が挨拶を終えると、メンバーは次々と車に乗り込んだ。

ミシェルが乗り込んだ車以外は全て同じ車種だがダミー。

後部座席はスモークガラスなので見えない。

また、この護衛にあたり、全車に防弾改造も施している。


午前11時

ミシェルを乗せた車を含めた7台の車が武蔵ホテル六本木を出発。

行く先は三鷹の薬師寺家が運営するアパートメント。

もっともそこは仮住まいなので数ヶ月後にはまた引っ越す予定ではあるが。


午前11時10分

出発からものの10分で、敵の襲撃を受けた。

あっという間に銃撃される車列。

すかさず銃撃戦が始まる。

タイヤは特殊タイヤを使っているのでパンクこそしないが、流石にG3スナイパーと思しき狙撃銃で何発も撃たれればフロントガラスにヒビが入る。

こうなると強度に問題が出る。装甲トラックを用意しなかったのが裏目に出た形だが今更悔いても仕方ない。


銃撃戦から5分。

「祐介、ミシェルを連れて逃げろ。打ち合わせ通りにだ」

「了解」

そういうと、祐介は運転手がいなくなったミシェルの車を動かして逃走を開始する。

ルーフには防犯灯付きの行燈を出し、偽装タクシーとして走る。

「ミシェルさん、少々手荒ですが、なんとか逃げ切りますよ」

そういうと、祐介は黄色から赤に変わる信号を加速で冒進。

後続の犯人車1台が青信号で加速したトラックの直撃を受け大破。

残る追手は3台。

「祐介、聞こえるか」

無線の主は奈央だった。

「薬師寺さん」

「相手の狙撃銃はやはりG3スナイパーだ。狙撃手は始末して、銃も押収したが、敵はやはり複数だ。こっちは制圧済み。お前さんは」

「今、東邦病院に向かってます。敵は少なくとも3台。先程信号無視で冒進した際に1台撃破。敵が増援を呼んでもいいようになんとかしてください。どうぞ」

そう言っている間にも狙撃は止まない。

「わかった。東邦病院にうちの戦闘員を配備する。くれぐれも言っとくが、やられるなよ」

「わかってます」

そういうと、祐介はアクセルを踏み、車を加速させる。

防弾車だが、限度というものがある。


「ミシェルさん。撃たれていますが、絶対に後ろは振り向かないでください。しっかり捕まっててください。絶対に逃げ切りますから」


反撃の手段もないまま撃たれ続ける偽装ハイヤーは、東邦病院へとひた走る。


「がんばれ、あともう少しで東邦病院だ。そこまで逃げれば大丈夫だ」


〜〜〜〜〜〜

その数時間後…


諸田と中山は料亭で密会をしていた。

表向きはただの親睦を深めるための会食で。


「諸田さん。よく聞いてくれ。どうやら内調が極秘裏にこの事件に首を突っ込んでいる」

内調とは内閣情報調査室のことであり、英名のCabinet Intelligence and Research Officeを略してCIRO(サイロ)ともいう。

「そんなバカなと言いたいところだが、内調ならやりかねんな。中山内務大臣兼内務省中央情報調査局局長殿」

諸田が皮肉を込めていう。

「おや、知らんのか?局長なら昨日付けで決まったよ。明日にでもプレスリリースがあるから。しかし、内調はお宅の警察庁も相当に噛んでるはず。足並みが揃わないようだな」

中山もお返しに皮肉をいう。

皮肉には皮肉で返すのが中山の特徴である。


「内調は霧生家のものです。よそのナワバリにまでズカズカと踏み入るわけには参りません」

「あまり大ごとにはしないでくれ」

「わかっています。霧生家にはあなたが外交問題をも憂慮しているということも踏まえて話は通しておきます」


「時に、あんたがあの依頼を受けたことについては、何か考えがあるってことでいいかな?私は深入りはしないが心配はしているぞ」

「お気持ち、感謝いたします」

「心にもないことを。それからもう一つ。闇仕事で性犯罪者を行方不明にしているのは、ほどほどにしておけ」

「あの件ですか。私には関係ありませんよ」

「なら、やはり水野一派か」

「「女の敵はこの世から消す」がモットーの連中ですからね。行きすぎたフェミニズムはただのテロリズムなんだがね」

「君らのほうから何か言えんのかね」

「無駄ですよ。あの組織は薬師寺家がバックの独立系です。しかも戦闘員の多くは女性だが、人間に似た何かです」

「亜人か」

「それならまだいいですよ。サキュバスが親玉です」

「つまり性犯罪者をエサにしてるということか。隠し通すにも限度というものがある。ほどほどに…おっと電話だ」

そういうと中山は携帯を取る。

「中山だ。貴様は誰だ」

通話画面の相手は公衆電話となっていた。

「噂の、水野さん」

と、水野は皮肉をこめて言った。

「貴様が水野か。噂は聞いているよ」

「これはこれは。内務省中央情報調査局の中枢にいる方ならお見通しということですか」

「過度に行方不明者を増やすな。限度というものがある」

「人聞きの悪いことを言わないで。男はみな、()()()()の末に女と蒸発しただけのこと。私たちは性犯罪者予備軍どもに夢を与えているだけですのよ」

「私の立場を考えてくれ」

「わかりました。しかしながら、私どもが関与しない行方不明も当然に存在することをお忘れなく。あと、横で聞き耳立ててそうな諸田さんに言っておいてね。薬師寺家の連中が例の組織と交戦して6人が怪我。うち2人が重傷ってね」

「貴様、諸田がいるのがわかるのか?」

「まさか。女のカンよ。じゃあね」

そういうと、水野は電話を切ってしまった。


「さあ、面倒なことは抜きにして食べようか。今日は蟹だ」

中山がそういうと、諸田と2人で口を開くことなく、蟹鍋をつつき、蟹を食べ、酒を飲み交わした。


〜〜〜〜〜〜〜

記者メモ

警視庁捜査一課は、第20号事件について、被疑者死亡とし、今後の捜査を打ち切ると発表した。

遊び半分で女性を連れ去り、強姦した挙句に殺人を犯した加害者6名が何者かに連れ去られ、監禁され生きたまま燃やされるという痛ましい事件は、被疑者が遺書を残して自殺したことにより終わったかに見えたが、加害者6名の家族全員合わせて32名が突然死亡したり行方不明になった件が新たに発覚した。明らかな事件は2件だが、被疑者との関連性が薄く、アリバイが立証されたことから、第三者の犯行であることは明白である。残りの死亡事案は粗悪な違法薬物などの中毒死と焼死だが、いずれも事件性はなしと警察は断定している。薬物事犯は死体の横から注射器が出て、死体から粗悪な覚醒剤の成分が検出されたこと、焼死の事案は、電化製品のタコ足配線が原因によるものであり、壁紙の接着剤の成分が燃えることで有毒ガスが発生して意識が混濁し行動不能になったのち死亡したものと検視官が断定している。

ここまでの件がすべて組織的な犯行ならば、始祖六家が絡んでいるだろうが、彼らが証拠など残すまい。


数年前に30代までの男性の行方不明が急増した件と強姦や強制わいせつなどの認知件数と女性の自殺が急減した件について相関を取ろうとした学者がいたが、彼はその後「標本が少なく具体性に欠ける」という発言を残し、全ての発表データなどを撤回した。

もし、私の仮説が事実ならば、性犯罪者やその予備軍が次々とこの世から消された結果、そう言う事件が減ったのではないかとみる。


〜〜〜〜〜〜〜


「やれやれ。こんな安っちいメモ盗ませてどうするんだか」

「仕方ないだろ。厄介ごとはさっさと消すに限る。フレイム。頼むぞ」

「了解した」



こうして、今宵もまた事実の探究、それも始祖六家が絡むものは消されていく。


つづく

次回更新は未定です。

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