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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第3章
37/61

第36話

午後11時

ホテルの一室で、調査の途中経過の報告が行われていた。

「ここ3ヶ月の間で、福岡以外から中洲に流れ込んできた女は28人いますが、いずれも佐賀や熊本など九州出身者ばかりで、九州以外の人は1人もいません。一応、本籍のほうも調べましたが、そちらも九州でした」

と、祐介。

「私のほうも調べてみたが、これといって怪しい女を雇ってる店は1軒もなかった」

と、水野。


「そうですか。さて、ここからは私と雨谷くんとの話だ。悪いが、小橋川と水野さんは一旦この部屋から出てくれるかな?」

と、奈央がいう。

「あら?私たちには聞かせられない話かしら?」

「この話は内密な話だ。少しの間、部屋から出て、地下のバーで酒でも飲んでてくれるか?」

「かしこまりました。水野さん、行きましょう」

そういうと、小橋川と水野は部屋から出て行った。


「で、雨谷。おめえはこの事件にサキュバスが絡んでると言ったけど、それは間違いないんだな」

「ああ。水野さんが言うんだ。間違いない」

「私たち薬師寺家は、サキュバスを使って要人暗殺をやったり、ハニトラもやってきた手前、この事件に関しては少しは責任を感じているんだ。水野さんにとっても辛いだろうな。自分の仲間が自分の預かり知らないところで殺しをやっちまったからな」

「ああ。水野さんも新幹線の中じゃ悲しい顔をしてたからな。途中どこかうわの空というか、なかなか口を開こうとしなかった」

「そうか。ところで、お前はどのくらいサキュバスという種族を知ってるか?」

唐突に聞かれ、祐介はキョトンとする。

「少しくらいですね。繁殖が難しくてなかなか数が増えなかったり、長命種だから人間よりわりと長生きで、魔法が使えたり、空を飛べたり、あとは男女問わず精気を吸えるのがいるってくらいですかね」

「男女問わずってのは水野さんだけだな。私が知りうる限りじゃ。サキュバスが人間の精気を吸って長い年月を生きてるって共通点以外はみんなバラバラなんだ。お前がさっき言った特徴を持つものもいるし、中には人間でサキュバスの因子を持つ弱いサキュバスや、通常の食事ができないサキュバスもいる。なにせ、ホンモノは表の社会で生きられないからね。そんな中でサキュバス自体が滅ぼされないために、水野さんが立ち上がった。で、私ら始祖六家と関わり、花街を支配するようになった。水野さんが自分と対立するヤクザを大量に殺したのも、花街を支配するため」

「なんか、想像を超えてますね」

「この世の中にはな、一般人の想像を超えるようなことなんか、山のようにあるんだよ」


そんなこんなで、この日の調査は終了。


翌日

東京から警察庁情報調査局の乙坂と紫原義隆(しはら よしたか)の2名の刑事がやってきた。

紫原は情報調査局結成時からの数少ない生え抜きメンバーの1人で、職位は警部補。20代の頃には、ICPOやニューヨーク市警のSWATへの派遣歴もあるなど国際派の警察官。そのため英語は堪能。海外派遣歴の多さと、跳ねっ返りの強さゆえか一度も昇進試験を受けなかったが、その点を気に入られ、本庁の窓際部署で退屈していたところを局長直々に引き抜かれたのであった。

ちなみに、SWATとはSpecial Weapons Attack Team(特殊武装攻撃班)の略である。


「警察庁情報調査局の紫原義隆だ。あんたが薬師寺さんのところの次期当主か。人は見かけによらぬものだな」

「どういう意味?」

「予想以上にかわいいって意味だよ。さて、君が雨谷祐介くんか。君のことはいろいろと聞いてるよ。フィアンセは足を洗ったかい?」

「どういう意味ですか?」

「シカゴやニューヨークとかで暴れ回った喰鮫がてめえのところの同居人で婚約者だなんて、初めは耳を疑ったよ。だが、薬師寺家やその協力者たる広田社長が関与してるなら、我々情報調査局は手出しはしないよ」

「でも、乙坂さんは俺らにちょっかいかけた。尾行が下手だから簡単にバレたけど」

「尾行なんかしてなかったでしょ。いい加減にしなさい」

乙坂が眼鏡を直しながら怒る。

「いやあ、恐れ入った。でも、お前、どうしてうちのカリキュラムの尾行では常に上位だった乙坂の尾行に気が付いたんだ?」

「もう、紫原さんまで」

「香水ですよ。あの日いた女はみゆきと山部弁護士だが、あの2人は香水はおろかオーデコロンも使わないから。匂いのきつい香水は控えたほうがいいよ」

「はいはい。って、なんで香水の匂いがわかるの?あの香水はあの日の前の日に売り出したばかりよ」

「その売出し日に取引先の部長へのお詫びで買ったんだよ」

「あんたも大変ね」

「あんたらほどじゃないけど」

「さて、そろそろ本題に入りましょう。おそらく、私たちは事後処理になるでしょう。実行部隊はあなたたちだけ」

と、乙坂がいう。

「てめえらは口だけで何も手伝わないってか」

奈央が不満そうに言う。

「手伝わないとは言ってないわよ。あくまでも不干渉の原則を貫くだけよ。お宮入りにするのを手伝う以外は何もしないから」

警察官(ポリスメン)が言うセリフかい」

と、祐介が口を挟む。

「あんたのようにカタギのツラして自分は一般人だと言っておきながらヤバいことに関わる二枚舌野郎に比べたらマシよ」

と、乙坂。

「それを言われると困るなぁ」

と、祐介が頭をかきながらいう。

「それに、こういう仕事は所轄に任せられんのだよ」

と、紫原が口を挟む。


「そうよ。表に出せないことは警察庁が直々に隠蔽する。一般市民の安寧を守るためにね」

乙坂がそういうと、もはや、祐介も奈央も口を開こうとはしなかった。


その夜、警察庁情報調査局の2人を交え、中洲で調査が行われた。

そして、ある店の調査を終えると…

「あらかた掴めたぜ。これがはぐれサキュバスの犯行じゃなかったってことが」

「ええ。これは店主ともども取り調べだね」


警察庁情報調査局の2人は、薬師寺奈央の立ち会いのもと、水野と原嶋を呼び出し、事実を告げた。

やがて水野は「そうですか。ここからは私の仕事です。黙って待っててくれませんか」と言い、原嶋とともに部屋を出た。


次の日の16時ごろ

中洲の外れにある某雑居ビルの地下1階にて。


「本日、みなさんにお集まりいただきましたのは、この中洲で掟を破る、裏切りの事実があったからです」

原嶋が口を開くと、サキュバスたちは揃って顔を下の方に向けた。

「この裁きは、水野様自らの手で仕置されます」

原嶋がそういうと、水野はスッと立ち上がった。

手には長さ95cmのバットが握られていた。

おもむろに、正座して顔を下に向けるサキュバスの前を水野が通る。

しばらくして、水野の足が止まる。

ルミナスという店でホステスとして働きながら店を監視していた、たまきというサキュバスの前で。

そして、水野はバットを持って構えた。





おことわり

ここから先の描写につきましては、とても表現できるようなものではないほどのおぞましい描写やグロテスクな描写が多々あるため、倫理上の問題によりカットさせていただきました。





数分後、そこには一つの血溜まりと肉塊があった。

「なお、今回の件に関しましては、私の身内にぼったくりキャバレーの内通者がおり、不行き届きがありましたので、このように処分いたしました」

水野は静かに言った。

原嶋が襖を開けると、襖の外には、福岡の花街の管理者の死体が転がっていた。

原嶋は、素早く襖を閉めた。


「さて、今回の件の舞台となりました、ルミナスというぼったくりキャバレー、先程から福岡県警と福岡国税局の手入れを受けていますが、店長や店員は先手を打って全員ここの地下牢に閉じ込めています。今回、サキュバスの皆さんには、特別に彼らをおもちゃにして遊ぶことを認めます。全力で思う存分()()()あげなさい」


その後、ルミナスの店長と男性店員合わせた男ども26人全員は、地下牢でサキュバスどもにあれやこれや好き勝手にされたという。

ルミナスの奴らがどうなったかは、当事者以外は知らない方が良い。




福岡死闘編

次回更新は未定です。


次回更新までのんびりとお待ちください。

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