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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第3章
31/61

第30話

武蔵グループ本社ビル

地下3階会議室

「では、今回の工場爆破作戦、指揮官は私が務めます。まずはこのスライドをご覧ください」

そういうと、小橋川はスライドに航空写真と工場の写真を載せる。


「爆破作戦の目標は、熊谷市にある廃工場です。払い下げの際にトラブルがあって、工場が閉鎖されたままになって半年ほど放置されていたのを、敵が作り変えたのでしょう。探すのには苦労しましたが、この敷地の払い下げに難癖つけた相手は死にました。買った相手の名義人の住所と氏名はでたらめでした。しかし、この工場は犯人につながる施設です。遠慮なく破壊殲滅してください」

「質問いいですか?」

「どうぞ」

「爆破するにしてもかなり広い敷地ですよね。どうするつもりですか?」

「まずはピンポイント空爆です。決行日には不発弾処理という名目で近隣住民を避難させます。ただし、ある程度のコラテラルダメージは覚悟してください。民家が壊れたら修理代は補填することになりますからね。派手に壊しすぎないでください」


その後は、かなりスムーズに話が進んだ。

なにしろ、警察の元締めたる諸田家や警察庁情報調査局には話を通してある。

今回は儲け度外視の事態である。

普通なら、このような戦いは行われない。

しかし、今回は薬師寺家の屋台骨に関わる事案であったため、損得勘定抜きでやらざるを得なかった。

買収した工場と工場用地は更地ないしは大型の公共施設にする予定で改めて転売することとしていた。

そのため、穏便に終わらなければ、どうなるものかわからないという状況であった。

最悪、コラテラルダメージで宅地一つ消失しかねない。

工場を魔術テロリストに横流しした売主や役員は口封じのためにオートマタに殺されていた。

この案件は彼らの家族の恨み晴らしの意味合いもある。




決行当日

工場敷地にはまるで雨霰(あめあられ)のように大量の火球が降り注いだ。


「ボス!大変です!オートマタの製造工場が爆破され、製造ラインが壊滅しました!」

「どういうことだ!説明しろ!」

「そ、それが…うわぁぁぁぁあ!!」

ボスと通話していた下っ端が倒され、小橋川が携帯電話を奪いとる。

「もしもし!どうした!?」

「あなたがボスですか。よくも薬師寺家の連中や私のかわいい後輩をいたぶってくれましたね。あの工場は今しがた壊滅させて更地にしました。あなたのことは必ず殺しますから、その場で待ってなさい」

そういうと、小橋川はボスとの通話を終える。


「クソォ!どうしてうまくいかねえんだ!あのオートマタがあれば、あんな連中、すぐに片付けられるというのに!」

「お困りのようですね」

ボスの秘書、ミキが声をかける。

「お困りだよ!」

「こうなるともう殺されるしかなさそうですね。ここは私にお任せ下さい。私はヴァンパイアですから、闇に紛れて逃げる事は容易ですよ」

「わかった。地下駐車場に車を置いてある。それに乗って2人で逃げよう」

そういうと、ホテルの地下駐車場から2人は逃げ出した。

車は黒のピックアップトラック。


その頃、薬師寺家の作戦本部

そこに祐介が連絡を入れる。

「手配の男ですが、やっと正体がつかめました。

天田孝太郎(あまだ こうたろう)、銀星会双葉組系の悪徳サラ金会社、ロイホーム金融の元社員です。7年前に軽い傷害事件を起こして指紋が残ってたらしく、乙坂さんが警察庁のデータベースから探し出してくれました」

「ご苦労。今すぐ乙坂と共にそいつのヤサに向かえ」

と、奈央がいう。

祐介は急いで乙坂が運転する覆面パトカーに乗る。

警察庁情報調査局には15台の覆面パトカーと2機のヘリコプターが用意されている。

15台の覆面パトカーのうち、12台は特別仕様となっており、最高速度360km/hを叩き出せるほか、前車のタイヤを強制的にロックしパンクさせるバンパーを搭載している車両もある。もちろん警察庁保有のパトカーは防弾車である。

この乙坂が運転する覆面パトカーは最高速度360km/hを叩き出せるほか、特殊ペイント弾発射装置や赤外線カメラも用意してある。


その5分後

「奈央、今連絡が入った。30分前に手配のピックアップトラックが東名川崎のあたりを通過し、西方向へ行った」

「30分前ですか。時速80kmとして厚木から秦野中井の間ですね。全員に連絡を入れます」

「よし」

そういうと、敏夫は無線に手を伸ばした。

「祐介くん。今乙坂と一緒か?」

「はい。そうです」

「パトカーに乗ってるな?」

「覆面パトカーですが、それがどうかしましたか?」

「すぐに東名に入って静岡方面に向かえ。秦野中井近辺に例のヴァンパイアだ」

「了解」



それと同時刻、奈央と赤坂、酒井の3人は薬師寺家保有のヘリコプターに乗る。

「乙坂さん。緊急走行願います。静岡方面まで、なんとかできますか?」

「了解。しっかり捕まってな」

ルーフの下から回転灯がせり出し、緊急走行モードに切り替える。

サイレンを鳴らしてグングンと加速する。


「祐介、現在地は?」

「厚木まで5km地点です」

「トラックの速度は約80キロ。何分くらいで追いつける?」

「距離にもよりますが、最高速度なら10分以内で追いつけます」

「絶対見逃すなよ」

「了解」

祐介がそういうと、乙坂はアクセルを力強く踏み、速度を上げていく。

赤色灯を照らし、サイレンまで鳴らして高速走行する警察庁保有の覆面パトカーを前に道を譲らない一般車などあるわけない。

グングン速度を上げて、最高速度に到達する。

スピード狂の気のある乙坂は黙ったままだった。


「薬師寺さん、アプローチ地点ですが、そのような車両はいません」

「いない?現在地は」

「鮎沢パーキングを過ぎたところです」

「祐介、足柄サービスエリアが近いな。サービスエリアを調べてくれ」

「了解」


こうして、給油がてら足柄サービスエリアで手配の車を探す。

祐介が給油所から駐車場に歩いていく。

すると、手配の車を発見した。ナンバーも一致している。

「薬師寺さん、発見しました」

「私が行くまで見張ってろ」

すると、2人が車から降り、人気のないトイレの裏へ行ったかと思うと、突然飛び立った。


「薬師寺さん、奴ら空を飛びました。男がヴァンパイアに抱えられてるようです」

「どっちへ行った?」

「静岡方面です」

「絶対に逃すな」

「了解」

そういうと、祐介は慌てて給油所のパトカーに戻る。

「乙坂さん。奴ら静岡方面に逃げました。給油終わってますか?」

「終わってるよ。早くシートベルト閉めな。飛ばすぞ」

乙坂はアクセルを全開に踏みながら、急いで本線に合流する。


御殿場インターを過ぎたあたりで、祐介の無線機に連絡が入る。

「祐介、今相手の逆探知に成功した。新東名高速道路、長泉沼津インターの手前8キロのあたりだ」

「わかりました。乙坂さん、新東名です」

「了解。それから祐介くん、相手が空を飛んだのなら、ダッシュボードの中に赤外線カメラがあるから、それで空を撮影してて」

「なるほど。夜間の空で人間の体温があれば位置を特定できるってわけか」


『緊急走行中です。左に寄って進路を譲ってください』

乙坂は定期的にパトカーから呼びかける。


それから5分後。

「祐介、今上空に到着した。敵は確認済み。素早く捕縛するために追跡を続行せよ」

「わかりました。乙坂さん。あのヘリを絶対に追い越さないように」


しかし、やはりというか当然というか、ヴァンパイアとの空中戦は容易ではない。

ヘリコプターからの攻撃は夜間帯なので窓を開けて身を乗り出しながら撃つしかないが、現実的ではない。

攻撃用ヘリコプターなので撃つこともできるが、生け捕りにしなければならない。撃ち落とせば即死もありうる。


「酒井、攻撃できるか?」

「探知魔法を使ってる間は無理です」

「わかった。今のところ赤外線カメラに写って無いから位置を特定してミサイル弾を撃つことは難しいわね。ならこいつの出番ね」

そういうと、奈央は暗視ゴーグルとペイント弾用のライフルを持つ。

「こいつは大城戸家特製の暗視ゴーグルとペイント弾用ライフルよ。夜光塗料ペイント弾が当たれば、狙いやすくなるわ」


「ヴァンパイアの飛行速度は今のところ時速100キロは超えてないはず。それに日が昇れば奴らは闇に隠れないといけない。今は夜1時だから、あと4時間ってとこね」


一方のヴァンパイア。

「あんたを抱えて飛ぶのは意外と大変」

「なんとか頼む。撃ち落とされずに逃げ切ってくれ」

「道に迷わなければ。それと、日が昇ったら飛べなくなるから、時間は気にしててね」


数分後。

「赤外線カメラに体温反応確認。例の2人だと思います」

「位置は?」

「西に約3キロです」

「なるべくなら、射程範囲の600mくらいまでつめて頂戴」

奈央の考えとしては、静岡県内で降伏に持ち込みたいところであった。

愛知県内に入ってしまうと、高速道路の分岐が増えてしまい、高速道路から追いつめにくくなってしまうからである。


さらに数分後。

「おい、後ろのヘリ、俺たちを狙ってる」

「本当?なら天田くん、後ろを見ててね。私は飛ぶのに集中するから」

「撃ち落とせないのか?」

「飛びながら魔法攻撃したらあんたが落ちるわよ」

その瞬間、ペイント弾が当たる。

「おい、何か当たったぞ」


すると…

「そこまでだ。お前たちはすでに捕捉した。もう逃げられないぞ。大人しく近くのパーキングエリアに降りて投降しろ」

ヘリのスピーカーから奈央が呼びかける。

「うるせえ!誰が投降なんかするか!」

天田が叫ぶ。


「風よ雲よ。かのものに銀の矢を降り注がせたまえ」

宏美が魔術詠唱をする。そして、ヴァンパイアに無数の魔法攻撃が降り注ぐ。

「「うわぁぁぁぁあ、助けてええええ!!!」」

ヴァンパイアのミキと天田が断末魔のような叫び声をあげる。

幸い、全弾を回避した。


魔法には詠唱が必要というのが定説とされている。しかし、高位の魔法使いは基本的に詠唱を必要としない。使用魔術の大半がオリジナルとなるからである。

だが、精度を上げるためにあえて詠唱をする場合もある。


「今のはただの威嚇だからね。投降しなきゃ皆殺しにするから」

その警告からわずか数秒後、ミキが白いハンカチを振って降伏の意思を示した。

「残念ながら、もう逃げられないわ。今まで楽しかったわ」

「こうなりゃ、玉砕だ。敵機に突っ込ませてくれ」

「バカ言ってんじゃないの。生きてりゃなんとかなるんだから。それに、もうあんたを投げるだけの体力も魔力もないわ。さっきの魔法攻撃をかすったときに、持ってかれたみたい。近くのサービスエリアに着陸するから、高度を落とすわよ」


結局、新東名浜松サービスエリアに降り立った天田もヴァンパイアのミキも降参。

天田は乙坂により逮捕され、ミキは駆けつけた水野に引き渡された。


その日の昼。

奈央と祐介は薬師寺邸別宅の縁側で話し合っていた。

「馬鹿馬鹿しい戦いだったなぁ」

「ところで、薬師寺さん。あいつはどうなるんですか?」

「警察庁情報調査局で尋問にかけることになってる。あのオートマタはあいつ1人でできることじゃない。オートマタについては、諸田家も興味津々だからね。今回の尋問にはあのサイコメトラーがあたるらしい」

「サイコメトラーですか。諸田家もずいぶんとすごいのを抱えたなぁ」

「わたしにはにわかに信じがたいけどね。でも、超能力研究ってのを大城戸家と諸田家がやろうとしてるってのは聞いたことあるな」

「確か、あのサイコメトラーはまだ大学生でしたよね?」

「ああ。そうだよ。彼女の父は警察官僚で、今は宮城県警本部長だ。そんな彼女を諸田家が見逃すわけはない。幾度となく、彼女も事件の捜査に協力してたって話だ」

「ずいぶんとひどい話ですね」

「案外彼女も乗り気だったって話だよ。彼女、警察官僚志望だから。高校の入試をトップ合格して、3年の頃の全国模試でもトップ。その後東京大学法学部に主席合格したけど、エクスターミネートでたくさんの東大法学部教授やOBが死んだってことは、たぶん知ってるだろうね」

「そうですか。それはそうと、そろそろメシにしませんか?今日は俺奢りますよ」

「祐介、珍しいじゃん。なんかあった?」

「懸賞でクオカードが当たったんですよ」

「まだ懸賞続けてたのか?お前、大学の頃も結構やってたじゃん」

「これはある意味クセみたいなものですから。じゃ、行きましょうか」

そういうと、祐介は奈央を連れて、ファミレスに向かった。




つづく


次回更新は未定です。

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