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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第3章
30/61

第29話

広田社長は山部と祐介を引き連れ、あるビルの地下室に入っていった。

社長が部屋の鍵を開ける。

中には1体のゴブリンがいた。


「社長か。後ろの奴らは誰だ」

「うちの社員だよ」

「そうか。なら安心だ」

「社長、これはどう言うことですか?」

と、山部。

「見ての通りゴブリンだ」

「いや、そうではなく。なぜこんな普段誰も来ないような合同書庫の地下にゴブリンがいるのかって話ですよ」

「かいつまんで話すと、ゴブリンが薬師寺家の演習場の近くから出て、演習場を横切ってしまって演習場の警備ドローンに怪我を負わされてしまったんだ。それで怒ったゴブリンが薬師寺家の施設を攻撃した結果、薬師寺家の直参の幹部が怪我を負って入院してしまったんだ」

山部も祐介も無言になる。

よりによってこんな時期になぜ薬師寺家を敵に回してしまうのかということに。

「で、薬師寺家はただでさえオートマタの襲撃でいきりたっているのに、こんなことになってしまったから、ゴブリンをちぎっては投げ、ちぎっては投げみたいな感覚で大量虐殺してしまってる。薬師寺家は「相手が泣いて謝るまで殴るのをやめない」というスタンスで、私や諸田家の交渉にも応じてくれないんだ。死んでしまったら謝ることもできないというのに」

「そうなんだ。私は命からがら逃げてきたところをこの男に助けられたんだ」

と、顔にいくつもの切り傷を負ったゴブリンが話す。

「私たちゴブリンにも平和主義者はいる。だが、多くが好戦派だ。ゆえに私のような連中は元の世界でも迫害されてきた」

「そういうわけだ。だから交渉に…」


その時だった。

2人組が乱入してきた。

その2人はよく見ると薬師寺奈央と小橋川マヤだった。


「なんだお前!」

ゴブリンに2人組が飛びかかる。

「抵抗しないでじっとしてろ!」

警察官の服を着た薬師寺奈央がゴブリンを押さえつける。

「何すんだコラァ!離せコラァ!」

「よし、しっかり押さえろ!」

「なんだこいつら!どぉけこのぉ!」


しばらく揉みくちゃの状態が続いたのち、3人目も乱入してきた。

「なんだお前!」

3人目の女がゴブリンの右足を押さえる。

よく見るとその女は水野さんだった。


「3人に勝てるわけないだろ!」

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞ」


小橋川が無言でゴブリンにのど輪をする。

「ゲホッゲホッ!!」

「死にたくなかったらじっとしてろ!」

「やめろお前どこ触ってんでぃ!どこ触ってんでぃ!」



「これほっといていいんですかね?」

と、祐介がいう。

「雨谷くん、止めるか?」

と、広田社長。

「死にたくはありません」

と、祐介は無視を決め込む。


「こいつら人間じゃねえ!」

ゴブリンが叫ぶ。

「そうだよ」

サキュバスの水野が答える。


「(水野さん、話をこじれさせるのはやめてください)」

祐介が心の中で冷静にツッコミを入れる。


「おいじっとしてろ」

「やめろぉ、離せぇ!」

「よし縛るぞ」

そういうと、奈央はゴブリンを縛りつける。

「もう抵抗しても無駄だぞ」


「はいはい。そこまで。薬師寺さんも小橋川さんもそのくらいにして」

広田社長が見るに見かねて止めに入る。


「広田社長。止めないでください。彼らが泣いて謝るまでは許せないんですよ。直参の幹部やかわいい構成員が怪我を負ったのに何もしないのは流石に可哀想です」

「だからといって異種属の大量虐殺は見過ごせんよ。私の立場というものを考えてくれ。私が何のために異種属を保護したり職を斡旋してやってると思ってるんだ」


「私どもはあくまでも正当防衛です。文句は私どもに殺意を向けたゴブリンに言ってください。今回は楽しんで殺しているわけではありません。あくまでも生け捕りにして独自の裁判にかけることを前提として、抵抗した場合にのみ殺しているだけです」

「確かに現行憲法上ゴブリンに基本的人権があるとはいえないが、殲滅するまでやめないつもりか?」

「私と、親父の前で頭を下げて謝ればいい。しかし、こちらには降伏を拒否する権限がある。日本国憲法の前文に書いてある平和のうちに生存する権利くらい、わかるでしょう」

「だが、過剰防衛までは許されんぞ。ここは私の顔を立てて、一度くらいは和平の席を設けてはくれないか?」


薬師寺はしばらく考えながら…

「わかりました。ここは当主たる親父と相談して…」


「その必要はない」

薬師寺敏夫が入ってきた。

「親父。どうしてここに」

「話は聞かせてもらったよ。ここいらが引き際だろう。互いにこんな馬鹿げた争いをやめるべきだろう。ゴブリンのほうは、貴方が段取りをつけてくだされば幸いです」

「ありがとうございます。なんとかしてみましょう」


それから2日後。

ゴブリンと薬師寺家の和平交渉が成立。

ゴブリン側は無条件降伏を認めた。

こうしてゴブリンと薬師寺家の戦争はゴブリンの無条件降伏で幕引きとなった。


同刻

武蔵グループ本社ビル

地下3階会議室

そこには小橋川と4人の少女がいた。

「で、私たちに何をさせるつもり?」

と、弓子。

「簡単なことです。我々薬師寺家を攻撃する自動人形(オートマタ)を破壊することと、それを操る魔法使いを倒すことです。すでに前金としてあなたがたにはそれぞれ100万円振り込んであります」

「それだけ?」

と、宏美。

「どういうことですか?」

と、小橋川がきく。

「魔法使いを倒すのはわかりましたが、本当の狙いはなんですか?」

「仮にあったとしても教えられませんよ。我々は薬師寺家に敵対したものを倒すだけ。しかもこの仕事は持ち出しです。あなたがたの仕事の報酬のうち、前金は私のポケットマネーですからね」

その言葉を聞いて志穂は驚く。

何しろ1人頭100万円なら、400万円になる。

400万円をポンと出せるほどの裏稼業の数々を想像しただけでも身の毛がよだつような思いである。

「それはわかりましたが、本当に報酬は支払われますよね?前金だけで終わりってわけじゃないですよね?」

「薬師寺家は約束を破りません。詳細は追ってお教えします」



その頃

「ねえ、天田くん。いつ報酬を払ってくれるの?」

「この作戦が成功して、薬師寺家の宝物殿から財宝を手に入れてからだよ」

「オートマタを全国各地に配送するのは手間じゃないの?」

「オートマタには自走機能をつけてある。工場さえ出れば勝手に全国各地に行ってくれて、薬師寺家の人間たちを攻撃できる」

「わかったわ」

そういうと、女は天田のいるホテルの部屋から出て行った。


「(やれやれ。この馬鹿につくのはここいらが潮時かもね)」

女がホテルを出て裏路地に入る。

この辺りは人通りも無く静かである。


「動くな。ヴァンパイア」

黒衣を着た女がヴァンパイアに銃を突きつける。

「あんた…何者?」

「返答次第によってはお前を殺す。さっき会ってた男は誰だ?」

「………」

ヴァンパイアは無言を貫く。

「言っておくが、このハジキの弾は銀弾だ。ヴァンパイアに銀は天敵だろ」

「………」

「答えたくないなら答えなくてもいいさ。そのかわり、うちのボスの尋問は、かなり厳しいぞ」

「断る権利は?」

「無い。ボスがあなたにお会いしたいと言っているから。むろん、丁重に扱うことは約束する。わかったらそこのワゴン車に乗るんだな。言っとくが、逃げたらうちのボスは怖いぞ」

そういうと、女の横に3人の屈強な女がやってきた。

彼女達は手際良くワゴン車にヴァンパイアを押し込める。


「よし、出発だ。ヴァンパイアには目隠しをしてやれ」

「せめてミキって呼んでくれない?」

「これは失礼。お名前を伺っておりませんでしたので」

「ところで、ボスって何者?」

「会えばわかりますよ。ひょっとしたらあなたも一度はお目にかかった人かもしれません」



つづく

次回更新は未定です。

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