第3話
ショッピングから一週間。
その間みゆきは免許試験を満点で合格し、晴れて冒険者の仲間入りとなった。
俺の持っていた車券は当然ハズレ。
当たり前と言えば当たり前なんだが、自信を持って買った車券が外れるのはやはり悔しい。
初のタッグ冒険では、みゆきがギルドの安物武器であっさり30体のモンスターを無傷で撃破したため、早くも人気者になってしまった。
ダンジョンの入り口には休憩所と遊興施設を兼ねた施設がある。
管理ギルドの人間なら福利厚生の一環で入浴料と仮眠室の利用が無料になるサービスが受けられるが、さすがにゲームコーナーはタダではない。
休憩所にて。
「おめえもいい仲間に巡り合えるとはね」
と、語ってきたのは同期の池永さんだった。
「ふん。俺もいつまでもコソドロまがいをやってると思ったら大間違いだぜ」
「だよな。しかしあの子かわいいな」
「どうだかね」
と、俺が含みのあることを言う。
「ユウスケ、帰るよ」
話を遮るようにみゆきが入ってきた。
「ああ。わかったよ。池永さん、話はまた今度で」
「おう。気をつけて帰れよ」
ここで池永さんと別れ、俺達は単車で帰る。
それと入れ替わるように、やってくるのもいる。
ダンジョンは原則として24時間動き続ける。まさに不夜城。
冒険者は大きく分けて、自分の好きな時間に動くソロプレーヤーと、他人とパーティを組んで動くプレーヤー、即興タッグや即興パーティを組むプレーヤーの3パターンがある。
冒険者に年齢の上限は無い。数年前から年金制度が実質的に破綻(正確には年金が積立制度に変更されたため、ほとんどの高齢者が支払った額しかもらえず生活苦に陥ったため)したことを受け、最近では高齢者が年金の足しにするためにダンジョンに潜るケースも多い。
家に帰ると、FAXが送られていた。
『やあ、雨谷君久しぶり。君の同居人がうちのギルドに入ることになったのは聞いているよ。今度、同居人を連れて、本部まで来てください。広田武蔵』
本部のある大宮に行くのは少々面倒だが、行く日をFAXで伝えておいた。
2日後
みゆきを連れ、大宮の本部へ向かった。
相変わらず物々しい建物である。
俺とみゆきは応接室に通された。
「いらっしゃいお二人さん。まあ立ち話もなんだからかけなよ」
と、広田社長に言われ、俺らはソファーに腰かけた。
この社長、年齢は50過ぎなのにどこからどう見ても30代にしか見えない外見である。
「君らの活躍は聞いてるよ。勿論、みゆきさんのこともね」
みゆきは表情を一切変えていないものの、警戒心を強めていた。
「雨谷君。こういう人間と同居するときはボクを通してくれよ。こいつはとんでもない殺し屋なんだから」
「仕方ないでしょ。脅されて同居しているんだから。って、おい、みゆき、武器をしまえ」
横を向くと、ナイフを突きつけようとするみゆきの姿。武器を持ち歩くなと言ったのにこの始末である。
「申し訳ありません。武器を持ち歩くなとあれほど言ったのに、本当にすみませんでした」
「いやいや。構わないさ。ところで、君らに頼みたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「君らも知っていると思うが、最近いろんなところで盗賊が活動しているだろ?先日、うちのギルドと提携する三重のギルドが盗賊退治の依頼を出してきたんだよ」
「ちょっとまってください。ギルドの管理するダンジョンにはだいたい自警団がいますよね。なぜうちのギルドに?」
「2つ理由がある」
と、社長がいう
「1つは、その盗賊団が全国に根を張る大きな組織である故、盗賊の数も桁違いだということ。おまけに、その伊賀上野のダンジョンを管理するギルドの自警団以上の人数が出入りしているからな」
冒険者の中には旅をしながら、ダンジョンに潜る人も少なくない。それゆえ、ダンジョン内での窃盗事件(だいたいが置き引きだが)も少なくはない。だからこそ自衛策を練ったりする。
「そしてもう1つはその管理ギルドの内部に裏切り者がいるってことだ。自警団以上の人数を出入りさせていて、おまけにいずれも警備が手薄になる時間の犯行だ。得た宝の数は同じでも、多くの人数で宝を持ち帰れば、1人あたりの非課税分があるからギルドが儲からなくなる」
鉱石などは一度に一定以上得た場合、管理ギルドの取り分となる。その算定根拠は個人の得た分なので、団体で潜るのが有利に働く。また、管理ギルドの人間がダンジョンに潜って得た分の取り分は非管理ギルドの人間よりも多い。
「裏切り者を自らのギルドで始末するのは辛いものだ。だからこそ提携先に任せるものだ」
「それはわかりましたが、問題は人数ですよ。まさか私とみゆきさんでやれというんですか?」
「さすがに2人では無理さ。だが、先方の依頼で、人数はなるべく少なくしてくれとのことだ。情報漏洩を防ぐためだ」
「協力者はいるんですか?いくらなんでも下調べ無しで盗賊退治なんて無理ですよ」
「そこは任せておけ。協力者がいる。いわゆる忍というやつだ。それも、くのいちだ」
「その方はどちらに?」
「今天井に張り付いているやつだ」
言われてみれば、確かに忍者が張り付いていた。みゆきが警戒するわけだ。
しかも、その忍者はドヤ顔までするほどの余裕すら見せていた。
「社長、その忍者、実力はあるんですか?」
雨谷が武蔵に聞く。
「心配は無い。相当の手練だよ。それと、今度の件は極秘だからね。ひっそりと行くんだよ。車を貸してあげるから」
と言い残すと、地図と封筒を渡した。
本部から帰宅すると、指令書が届いていた。
内容は盗賊団や裏切り者どもをできるだけ生け捕りにしろとのことだった。
出発は2日後の深夜。
ルートは圏央道入間から東名高速、新東名、伊勢湾岸道、東名阪道、名阪道路を通って伊賀市に向かう。
与えられた猶予は10日間。
その間に盗賊団の5割から8割のメンバーを生け捕りにするのである。
「はっきり言って、これは無謀だろ」
「どうして?」
「望めるメンバーは俺含めて3人。相手が何人いるかも味方が何人いるかもわからない状況で盗賊団を生け捕りにしろなんてそんなのゴールの見えないマラソンだ」
「あら、そうかしら?」
と、みゆきが含みのあることをいう。
「今回は報酬がほぼ青天井なんでしょ?なら全員ボコボコにしてしまえばいい」
「あのな、十人や二十人ならいいが、それが百人とか二百人になったらどう太刀打ちする気だよ?お前の実力はわからんでもないよ。だが、一人で百人を相手にするなんて不可能だ」
10分くらい議論したところで、このまま問答を繰り返しても仕方ないので寝ることにした。
あんまり遅くなると今度は旅の仕度にまで支障をきたしかねないからである。
寝不足は交通事故のリスクを上げてしまう。もう寝よう。
つづく
久々の更新となりました。
これからも不定期で続けていきます。