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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第3章
24/61

第23話

おことわり

「中華人民共和国」という名称は華夷秩序(かいちつじょ)のなかで、シナ大陸の国家を「中華」、日本などを「夷狄(いてき)」と位置づけることを意味しています。こういった周辺諸国に対するヘイトスピーチは受け入れがたいものであり、本来なら同国は「シナ(支那)」ないしは「チャイナ」と呼称されるべきです。

しかし、以下の文章においては、読者の理解を助ける意図のもと、あえてその俗称である「中国」という表記を使う場合がありますが、これは便宜上の措置であり、支那共産党のいう華夷秩序を受け入れることではありません。ご理解いただければ幸いです。



中国大陸

呼び名はいろいろある。

シナ大陸、チャイナ大陸、ユーラシア大陸の外れなど様々。

ただ、今のチャイナは内戦の最中である。

三峡ダムを懸命に守ろうとしている政権と、三峡ダムを破壊しようとする地方軍閥とテロ組織の連合との戦いは泥沼化していた。新疆ウイグル自治区では漢民族によるイスラム教徒に対するジェノサイドをきっかけに、血で血を洗う闘争となり、世界中のイスラム武装勢力に呼びかけが行われた。そして香港は借金のカタとしてイギリスに没収され、イギリス統治下に置かれた。

チャイナはもはや4分割どころでは済まないところまで追い込まれ、ウイグル独立運動、台湾独立運動、満州独立運動やら様々な独立運動が始まり、手に負えない状態となっていた。


中国:四川省

ある街の裏路地で2人の男が話していた。

「住めば都とはよく言ったものですね」

「ああ」

「エクスターミネート・オペレーションの前に中国に逃げるなんて、兄貴はやっぱりすごいですよ」

「命があればこそだよ。逃げなかった闇金はみんな始祖六家と警察に殺された。臓器と血液を全部売り払われたものや、死体がこっぱみじんになったものも、さらし首になったやつもいたからな…」

「正規に貸金業許可をとった連中や貸金業協会加盟の業者まで皆殺しにされてたんですよね。どんなルートで情報を得たんだか…」

「貸金業法違反の疑いだけでも殺されたグレーの連中もいたよ。証拠なしであっという間に行方不明。臓器も血液も全部売られたんだろうな」

「俺が生きてることが奇跡みたいですよ」

「逃げた闇金はあくまで泳がされてるだけだ。逃し屋ルートで情報が漏れたら特定されるし、正規のルートで逃げたとしても公安局に捕まればその時点で終わる。あとは人知れず闇に葬られるだけだ」

「…」


「俺たちにできることは逃げるしかない。日本にうっかり戻れば始祖六家の誰かが殺しにくる。逃げた闇金が日本に舞い戻ったその日に殺されたって話を聞いたな」

「もし日本大使館に助けを求めたら」

「外務省ルートで筒抜けなら日本に戻ったその日に殺される」

「始祖六家に見つかったら」

「泳がされてない限り殺される」

「始祖六家の仲間になれば」

「おそらくなる前に殺される。仮になったとしても用済みになった時点で殺される」

「アメリカに亡命したら」

「犯罪人引き渡し条約に基づき強制送還。一両日中に殺される」

「犯罪人引き渡し条約が結ばれてない国に亡命したら」

「現地で始祖六家の誰かに殺される。無政府状態の国では始祖六家が派遣している傭兵に見つかる恐れがある」

「八方塞がりですね」

「おまけに下手に紛争地帯に潜り込めば、始祖六家の兵隊に見つかるリスクもある」

「もし見つかれば」

「リスト入りしてたら100%殺される」

「まともに生きるすべはあるんですかね?」

「無いよ。だから放浪してるんじゃないか」


その時だった。

「よう」

彼が振り返ると、5人の男女に囲まれていた。

「随分と手間かけさせてくれるじゃないの?汚い金貸しさん。私らも忙しいからさ、さっさとゲロッちゃえよ。秘匿財産はどこだ?」

リーダー格の女が金貸しの兄貴に問う。

「なんだてめ…」

「動くな」

舎弟の腰には拳銃が突きつけられていた。

「私らも手荒な真似はしたくないんだよ。あんたに自白剤飲ませて吐かせるのはなるべく最終手段にしたいんだよ。もう一度言う。秘匿財産はどこだ?」

「…誰が喋るか」

「命あっての物種だよ。着の身着のままで逃げたわけでもないだろ?逃し屋にいくら払ったの?」

女が兄貴に問う。

「逃し屋なんか使ってねえよ。逃し屋なんか使ったらあんたらが真っ先に殺しに来るだろ。始祖六家のどこだか知らんが、逃し屋とつながりがあることくらい知ってるよ」

「じゃあまともな手段で逃げたんだ?あんたの渡航履歴が無いからあんたは偽造パスポートなんだろうけど、舎弟の岩城太郎くんを中国で死んだことにしたのはまずかったねえ。私らが中国で活動してることも、奴らが金でなんでもやることくらい知ってるのに」

「…」

男は黙っていた。

「まあいいや。あと聞きたいことがあるんだけどさ、中国の重慶ってあたりに黒い沼ってのがあるんだけどさ、なにか知ってるかな?」

「知らねえよ」


「嘘を言っちゃダメだよ。私に嘘は通じない」

と、1人の女が口を挟む。

「この期に及んで嘘をつくとか、見苦しいよ」

「…」

「男らしく全部喋ったらどう?」

「あの街の沼はゴミ捨て場だ。ただ、沼が広がって、それを調査してた1人の政府の職員が落ちて死んだ。ただ死んだならともかく、死体はおろか、落ちた物が何も浮かんでこないから、政府の連中はこのことを中央に隠蔽するために有毒ガスが発生している可能性があって調査中という理由で立ち入り禁止にしてるって話だ。これ以上はなにも知らん。本当だ」

「本当?」

「うん。彼は嘘をついてないよ」

「そんなことより兄貴を離せよ」

と、舎弟の岩城が口を挟む。

「岩城、いいんだ。こうなることは薄々わかっていたんだ」

「兄貴…」

「さあ、殺すなら殺せ。一思いにな」

「馬鹿かお前は。秘匿財産の在り処も喋って無い奴を殺せるわけねえだろ。喋れ。自白剤を飲ませてやろうか。自白剤飲まされて廃人になって死ぬか、人間としての尊厳を守って死ぬか選べ」

「生きる道ってのは無いんだな」

「無いよ。やらなきゃ私達がやられる」

「西麻布に、俺の知り合いがいる。そいつに鍵を預けた。ただそいつはなにも知らん。だからそいつは殺すな」

「嘘。鍵なんか預けてない。本当の在り処は秩父の山中に隠してある。彼の別荘の床下収納の中の木箱に隠してるんでしょ?なんですぐバレる嘘をつくの?」

「なんでわかるんだよ」

「あの子は人の心を読む力と嘘を見抜く力がある。嘘をついちゃダメって言ったのに。あんたは特別に処刑するから」


3時間後

「前に進め!一列に並んで射撃の準備!」

迷彩服を着た兵士5人が銃を構える。

「目標は高利貸しを運営し、その資金を反社会的勢力に流した犬にも劣る醜悪な人間のクズ正木由紀夫と、その舎弟の岩城太郎である!」

すでに2人は磔にされて、縛られている。

頭には黒い袋が被せられており、口には猿ぐつわがされており、言葉を発せない。

岩城は決死に何かを叫ぼうとする一方、正木は全てを諦めたかのように黙っていた。


「前にいる目標に向かって!単発で!撃て!」

銃弾が命中し2人が崩れ落ちた。

「撃て!」

崩れ落ちた2人に弾丸が命中した。さらに、

「撃て!」

とっくに死体になった2人に銃弾が命中した。


処刑場に1人の女が入る。

「また処刑したんですか?」

と、小橋川がきく。

「小橋川さん、どうしてここに?」

「連絡事項があるからよ。サキュバスを2人貸してくれる?」

「かまいませんが、何かあったんですか?」

「一言でいうなら、水野さんの頼み」

「わかりました。すぐ連れてきます」




〜〜〜

数日後


「ご主人様。お手紙でございます」

小橋川は、敏夫に手紙を渡す。


「ほう。霊冥社ですか。小橋川、悪いが席を外してくれたまえ」

「承知しました」



霊冥社は魔術結社の一つ。ここの結社は隠れキリシタンの流れをくむ由緒正しい結社だという話だが、実際には死の商人みたいなこともやっていた組織だという話もあり、実態は始祖六家ですら一部しかわかっておらず、特に科学技術を重んじている最強の理系一族の大城戸家とは犬猿の仲である。



『新興宗教結社風情が生意気なので殲滅してくれないかな。殲滅作戦でそういう連中は軒並み君らが滅ぼしてくれたはずなのに生意気にも信仰の自由だのふざけたことをぬかしてうちの信者を引き抜こうだなんて図々しいし、宗教テロを起こすような連中をのさばらせるのは始祖六家にとってもマイナスだと思うのでなるべく早く殲滅求む』


「わざわざ英文暗号で送るだけのことはあるな。小橋川、入ってこい」

「お呼びですか?」

「緊急招集だ。すぐに特殊戦闘員を集められるだけ集めろ。あと、山本みゆきにも声をかけてくれ」


6時間後

そこには薬師寺家のそうそうたる面々が集まっていた。

「みんなよく聞いてくれ。今回は霊冥社からの依頼だ。事後処理の関係で諸田家にも連絡を入れてある。内容は単純にいうと人殺しだ。ただ、そこの結社の本部に少々厄介なものがある。終わった後にその厄介なものを輸送するが、その際に敵からの襲撃を受けるかもしれない。細心の注意を払いながら挑むように」


「さて、君たち2人には何も教えずに連れてこさせたのは悪いとは思っているよ。ただ、今回の件は内容が内容だからね。雨谷君も久しぶりだろう、うちの仕事は」

と、奈央がいう。

「まあ、そうですね」

と、祐介。

「あれ?今回は何の文句も言わないの?」

「言ったところで変わるわけじゃないですし、今回は、みゆきに助けてもらうつもりですから」


しかし…

「で、何でこんなことになってるんだよ?」

「知らねえよ!私に聞くな!」

「2人共!無駄口たたく暇があったらとっとと爆弾仕掛けて!」

奈央、みゆき、祐介の3人は想像以上に苦戦を強いられていた。


相手がただの人間なら殺し屋2人に任せておけばどうとでもなる。

しかし、相手に魔術師の傭兵が複数人もいたなんて聞いてない。

幸いにも爆弾や手榴弾、サブマシンガンを用意していたこともあり、銃器の扱いに慣れている2人もなんとか対応できているが、それでも苦しい。

「あのさぁ、サブマシンガンくれるのは別に構わないけど、拳銃の射撃訓練しかやってねえやつに渡すようなものじゃないよな」

と、祐介がいう。

「心配すんな、ヤクザなんか射撃訓練もしねえで撃ってくるから。みんな始祖六家が殺したけど」

と、奈央。

「で、爆弾は仕掛けたの?」

と、みゆき。

「あと、プラスチック爆弾が2つ、手榴弾が4つ残ってるけど、これでいいのか」

と、祐介がきく。

「OK。一個は起爆用。もう一個は陽動用だから。さっさと爆破して逃げるわよ」


「遅くなって申し訳ありません」

横から小橋川が現れる。

「小橋川さん。助かったよ」

「小橋川、遅い。起爆したら私達は逃げるけど、私とみゆき、小橋川と雨谷の二手に分かれていつもの場所で落ち合いましょう。ブツの輸送は本隊に任せ、我々は逃走。問題ないね?」

「承知しました?起爆準備はできてますか?」

「オールオーケーよ。それに残っているのは私達だけ」

「了解。20秒後に起爆のち脱出」


ズズーン


大きな音と同時にアジトが崩れ始めた。

それと同時に二手に分かれて脱出。

小橋川は祐介を抱え、奈央はみゆきとともに逃走。

「みゆき、あんたよくついてこれるね」

と、奈央。

「ジャパニーズニンジャには憧れていたからね。屋根伝いに走って逃げるのも勉強したわ」


一方…

「私のこの姿を見て驚かないんですね」

竜人体の小橋川が祐介に聞く。

「私は、この高さから落ちたら死ぬなって高さを平然と飛ぶことに驚きですよ。物理法則とか質量とかいろいろツッコミどころはあるけどもうやめます」

と、祐介は肝を冷やしたり呆れたりと表情変動が豊かだった。


〜〜〜〜〜〜

その頃、崩れたアジトでは

「クソッタレあの卑怯なイエローモンキーどもが、次見つけたらぶっ殺してやる」

魔術師傭兵の男が怒っていた。

「卑怯なイエローモンキーってうちの娘のこと?」

そこには怒り心頭で立つ奈央の母、葵と、数体の死体が転がっていた。

「少々ムカついたから、あんたの仲間みんなぶっ殺しておいたわ。あのロクデナシが昔のよしみで変な依頼を請け負ったから監視目的でついてきたら案の定これよ。さあ、どう落とし前つけてもらおうか?」

と、葵が言う。

「何のことだファッキンジャップが」

「その口縫い合わすぞ。汚い白人が。てめえの舌は何枚あるんだよ。人の娘の悪口言いやがってブチ殺すぞ」

「てめえが何だろうと関係…なんだ…それは…」

葵は静かに怒りながら大きな火球を振りかざしていた。

「人と喧嘩するときは相手の素性を知ってから挑もうね。てめえのところの親玉もぶっ殺してあげるから、死ぬ前に喋れよ。親玉はどこにいる?」

「ロンドンだ。てめえなんかにうちの親玉を倒せるわけねえんだよファッキンジャップが」

葵は無言で魔術師傭兵を消し炭にした。


「あのロクデナシに振り回される連中も事後処理の件で仕方なく動かなきゃいけない諸田家もかわいそうだよね?水野さん」

と、葵がいう。

「私は基本的には傍観者だよ。だから何もしない」

と、水野。

「そう。わかったわ。あんたも知ってると思うけど、ロイヤルダークソサエティが動いてる」

「!?」

水野は目を見開いて葵の顔を見た。

そして

「いよいよもって、終焉に立ち向かうときが訪れるってことかしらね」

「不吉なことを言わないでよ。私は夫の最期も、息子2人と娘の最期も見届ける覚悟があるのよ」

「でも、いつかはやらなきゃいけないときがくる。そのときが正念場よ」


つづく

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