第21話
おことわり
「中華人民共和国」という名称は華夷秩序のなかで、シナ大陸の国家を「中華」、日本などを「夷狄」と位置づけることを意味しています。こういった周辺諸国に対するヘイトスピーチは受け入れがたいものであり、本来なら同国は「シナ(支那)」ないしは「チャイナ」と呼称されるべきです。
しかし、以下の文章においては、読者の理解を助ける意図のもと、あえてその俗称である「中国」という表記を使う場合がありますが、これは便宜上の措置であり、支那共産党のいう華夷秩序を受け入れることではありません。ご理解いただければ幸いです。
薬師寺家の離れの蔵
重い蔵の扉を開け、地下に続く階段を下りたところに1人の女がいた。
「邪魔するよ」
「トシオ、何の用?」
「依頼だ。紙の資料だから覚えないうちに燃やすなよ」
「そんなヘマしないわよ。邪魔だから帰って」
「わかった。やるかやらないかは早く返事しろよ。断るならちゃんと資料を消し炭にするんだぞ」
彼女も人の姿をした化け物である。
自称火を操る精霊。コードネームはフレイムという。火の攻撃が全く効かない化け物で、火を使った殺し屋として長い年月を生き続けて来た。
殺し屋としての腕は優秀な部類。通常攻撃では死なない、たいがいのものを燃やして消し炭にする、万が一の逃げ足が速いことが大きな要因である。
本体は日本のどこかにあると言われる火山の奥底に眠っているため、完全に倒すことはできない。ゆえに不死身と言われている。
ただ、本人は、フェニックスと呼ばれたり鳳凰と呼ばれるのを嫌がっている。
薬師寺家には深い恩義があり、守り神を自称している。能力が制御できないと自分の周りを燃やしてしまうどころか日照りを起こしてしまう可能性があることから、一時期は薬師寺家本家の奥底の常闇の蔵に引きこもっていた。
敏夫が蔵を出ると、宮城が待っていた。
「忙しそうね」
と、宮城が声をかける。
「ああ。終わらせておきたいものがあるからね」
「もともとあなたの依頼でしょ?」
「その依頼を委託するのは自由だよ。でないと下請けが食えないからね」
始祖六家では下請けをする際にはいかなる方法をもってするかを問わず一括下請負を禁止している。
これは中間搾取を禁じた掟に基づくものである。
始祖六家から請け負った一次請けによる一括下請負が発覚した場合、待っているのは一次請けの死と二次請けの仕置である。一度受けた仕事ができない場合は、基本的には仕置される(すなわち死)が、詫び金を積んで謝罪すれば許されることもある。
もちろん断ることもできる。ただし、裏仕事なので巨額が動くことはザラである。
「いくらハネてるの?」
「内容による。難しいのだと0.1〜1%で、簡単なやつだと10%はハネることもあるな」
「今回のは?」
「その中間ってとこだな。さて、まだ行くところがある。ここの住所だ」
「京都府京都市北区…京都?」
「そう。京都。早く新幹線で移動しないと」
所変わって、内務省の近くにある喫茶店
「国会の会期末はやっぱり慌ただしいね」
「何の用で来たんだ?広田」
「ちょっとした世間話と、教えてもらいたいことがあるんだよ。内務省事務次官の増山和博くん」
彼は大学の同期であった。増山は一浪しているため、増山のほうが年上である。
「話は手短に頼むよ」
「内務大臣を通じて話したいことがあったんだが、内務大臣があいにく国会答弁中だからね」
「それで、私のもとに?」
「そうだ。非常に重要なことなので、可及的速やかに内務大臣に対応してもらいたい事案だよ」
「それだったら別に私でなくても」
「いや。君だからできるんだ。元ゼロ課の課長のあなたならね」
増山は眉をひそめた。
ゼロ課
内務省中央情報調査局の特殊部隊のことで、在籍している間、彼らに自分の本名を名乗る権利が無いことなどからゼロ課と呼ばれている。
「何が言いたい?」
増山が顔をしかめながらいう。
「かつて公安を凌ぐ情報収集力で警察を動かし、さる大学の極左暴力集団を大学ごと潰した君が、中国で今起きていることを知らないわけないだろ?」
「市中に出回るニュース程度なら常識の範囲さ」
「そんなことを聞いてるんじゃないよ。重慶って街の外れで起きていることだよ」
表情には出さなかったが、少し怒り気味で広田は聞いた。
「それだったら、警察庁の諸田さんに聞いたほうがいい。諸田さんには私から話しておこう」
「よろしくお願いします」
一時間後
府中の警察大学校の一室にて
「広田さん、急用ってのは何です?」
「実は、中国の重慶で起きていることについて、調べてほしいことがあるんだ」
というと、広田はある資料を渡した。
その資料を諸田はじっくり見つつ、やがて…
「こいつは俺達警察の仕事じゃない。その件なら薬師寺家か霧生家が詳しいはずだよ」
「そうですか。もし、薬師寺家で何の収穫がなかったらあなたを通じて霧生家とアポイントを取ってくれませんか」
「わかった。薬師寺のほうなら娘さんに聞いたほうが早いな。彼女は中国渡航歴もあるからな」
その2時間後、京都にて。
敏夫と宮城は京都の大原の外れにある豪邸の前にいた。
「着いたぞ。ここが、依頼人のお宅だ」
そういうと、敏夫はインターホンを鳴らす。
少しして、1人の老人が現れた。
「薬師寺さん、待っとったよ」
「お久しぶりです」
「元気にしとったか?」
「おかげさまで」
この老人の名は西本貞雄。
元国会議員。
敏夫は大学生の時、西本に世話になったことがあり、その恩で西本の護衛を務めていたこともあった。
「で、話じゃが、ある男の身辺調査を依頼したい」
「どんな男ですか?」
「名は王京生。67歳の老人で中国人じゃ。あだ名は王老師」
そういうと、西本は顔写真を敏夫に差し出す。
「老師っていうと、先生ですかね?」
「そうじゃ。北京大学で講師を務めていた経験がある」
「その男がどうされたのですか?」
「彼にはスパイ容疑がかかっている。それが本当か確かめてほしい。あと、女の子紹介してくれないかな?」
そういえば、この爺さん国会議員を引退したとたんにスケベをこじらせたんだよなって思いながら…
「身辺調査は受けましょう。女の子ですか…そうですね、ヨガ教室の女の子やトレーニングジムの女の子とかどうです?ヨガは身体にいいですよ。毎日通えばきっと覚えてくれますよ」
「薬師寺さん、悪ふざけはこのくらいにしましょう。そろそろお時間です」
と、宮城が話を遮る。
「そうか。では、身辺調査の件は受けます。それでは」
そういうと、敏夫と宮城は西本邸を後にした。
翌日
広田は奈央を呼んだ。
「社長、ご依頼ですか?」
「調査依頼だ。中国の重慶という街の外れのあたりで起きていることについて調べてもらいたい」
「あのことですか」
「知っているのか?」
「私の大学時代の知人の知り合いからおもしろい話を聞きましてね。暗黒の底なし沼の話を」
要約するとこうである。
その底無し沼はある日突然現れて毎日少しずつ広がり、それをいいことに産廃業者がその底無し沼に毎日産廃を捨てているが、その沼はゴミが一つも浮かんでこないことから、最近ようやく一般人の立ち入りが禁止されたものの、産廃の投棄は止むことはないという。
「そうか。そんな沼なのか」
「沼とは言い切れないけどね。あれは酷い腐臭と怨念がこもってる危険な場所。そんなものが広がったらこの世の終わりよ」
「わかった。この件は薬師寺家に預けよう」
「承知しました」
数分後
奈央はメイド長の川島と電話をしていた。
「川島、久しぶりの依頼よ。あなた、中国語はできる?」
「もちろんできますが、どうされたのですか?」
「調査依頼よ。あなたに特別任務を与えます。小橋川が帰ってきたら2人に詳しい内容を教えますので、支度をして待機。メイドの仕事はしばらく休みよ」
その頃…
「あーあ。つまんない」
そこには完全に炭化した3体の死体が転がってた。
「トシオが持ってきた依頼だから苦戦しそうかなって思ったら骨のない連中とはね。がっかり」
「フレイム、普通の人間と炎の精霊が戦ったらどうなるかくらいは明白でしょ」
と、小橋川がたしなめる。
「何よすぐやったのに」
「まあ、いいでしょう。私はご主人様への報告がありますので、速やかに帰りますが、フレイムはどうします?」
「たまには街に繰り出してみたいけど、あんたもどう?小橋川?」
「では、帰ってからにしましょう」
そういうと、小橋川はフレイムを連れ、薬師寺邸へと向かった。
〜〜〜〜〜〜
極秘
未解決事件ファイル
大阪児童養護施設連続殺人事件
この事件の内容についての他言は無用であるとともに、当該資料は適切な処分をされたい。
当殺害事件において、我々は始祖六家の関与が疑わしいと見る。大阪府警察本部は証拠不十分を理由に当事件の捜査本部を解散している。
死体には臓器が無く、血液の残留量が1%未満。おそらく血抜きされたものだと思われる。
今回の事件においては18施設の経営者ら36体の死体のうち7体は大阪のテレビ局、8体は児童相談所、4体は大阪府庁、6体は大阪府警察本部、残りの死体は大阪駅や新大阪駅といった人通りの多いターミナル駅に投棄された。
投棄された死体は顔と指が焼かれた状態で投げ捨てられ、胴体には段ボールが貼り付けられており、その段ボールには「私は児童養護施設で子供達に乱暴狼藉を働き、殺しや人身売買までやった豚野郎です」と書かれていた。
大阪府警察本部も連続殺人であることから広域捜査となると判断した。
その矢先、大阪府警察本部に六四天安門事件の生き残りが結成した中国マフィアからの犯行声明が届いた。
その犯行声明は大阪府警察本部に投げ込まれた死体絡みのものだったことから捜査は撹乱された。
これにより、児童が中国に人身売買された事件まで明るみに出た。
結果、大阪府警察本部は犯人を特定できず、児童虐待および人身売買事件の主犯を死なせるという失態を晒すだけでなく、警察官5人の懲戒解雇という無様な結果を招き、児童相談所は悪徳児童養護施設と癒着していたり、虐待死を見逃した職員11人が真相を隠すために自殺(自殺に見せかけて殺された可能性がある)し、挙句の果てには大臣が記者会見で激怒し「この件はもはや一省庁だけの問題ではない。子どもの権利条約を踏みにじった全ての省庁に責任がある。再発防止のためには省庁を跨いだ連携、特に金融庁と連携し、悪質な児童養護施設の経営者らの資産凍結とそのような施設の経営者と取引を行った銀行に対する強い制裁が必要となる」と発言した。
我が国ならここまでの問題にならない。
我々はもう少し調査を続ける。
………………
「さて、このデータファイルどうしようか」
「一応、小橋川さんを通して当主に相談しなければなりませんね」
「海外の諜報機関が動いているとは、始祖六家も有名になったな。だけど、我々を嗅ぎまわるとどうなるか教えてあげないとな」
「でも、おかしいと思わない?」
「何が?」
「諜報機関は普通こんな形で情報を残してしまうようなマネはしないはず。フラッシュメモリどころかちょっとでも痕跡残しただけでクビよ」
「確かに。これは何かのメッセージかもな」
「あるいは、このフラッシュメモリに小型発信機でも仕込んでいるか」
「開けるか?」
「ええ。データはすでにコピー済みよ」
2人がフラッシュメモリを解体すると、そこには確かに発信機が入っていた。
「どうする?」
「焼き払いましょう。中のデータを消したところで復元される恐れがある」
フラッシュメモリを焼却した2人は一旦、小橋川のもとへ向かうのであった。
つづく
久々に書いたら、普段よりもボリュームのあるものになりました。
この作品、主人公陣営や始祖六家に属さない悪人の命は簡単に無くなります。
その点はご容赦ください。
一応言っておきますが、この作品は俺ツエー的な作品ではなく俺の周りが強いというコンセプトの作品です。
ただ、主人公は努力を欠かさないとだけは言っておきます。
次回の更新は未定です。




