第19話
時はエクスターミネート・オペレーションの末期に遡る。
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諸田と晴海は大量に転がる死体を見ていた。
「どうだい?この国は退屈しないだろ?これだけの愚か者がいるんだからさ。そして、助けを求める女性も多い。まあ、フェミニストを自称する犬にも劣る人間のクズもいるけどな。それでもお前は、助けを求める女性のためのシェルターを運営するのか?」
「もちろんよ。それがあなたたちのためになるなら」
明らかに私欲の混じってそうな発言だが、諸田は無視した。
「それはそうと、諸田さん。この世界は剣も魔法もいらないはずじゃないの?」
「魔法ってのは人殺しに役立つものだよ。一度に10人殺すときはマシンガンよりも正確で、しかも証拠も出ない。魔法で心臓が止まっても実証できないからね」
「物騒なこと言うわね。警察なんでしょ?あなた」
「警察は警察でも秘密警察との二足のわらじだからね。人殺しの命令があれば従うまでよ」
「警察庁情報調査局ってのは恐ろしいね。子供だろうと警察官でも殺すんだから」
「ただ殺すのは簡単だが、致死量の血液を抜き取ったり、臓器を摘出するのも大変なんだぜ」
「それは依頼があればってこと?」
「ブラッドバンクは今もなお生きてるし、臓器売買のマーケットは数知れないってことよ」
「まるでチャイナね」
「血液や臓器に異常があればそのまま殺してるが、だいたいの若い者は健康だ。だから大変なんだ」
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さて、話を戻そう。
「バカな…なぜあの蹴りが入らない…」
「(まさか…)奈央ッ!一旦距離を取れ!」
敏夫は奈央に叫びつつ指示を出す。
「親父、どういうことだよ」
「あれはおそらく改造人間だ。生半可な攻撃は入らない。蹴った感触はどうだ?」
「生身を蹴った感触じゃなかった」
「じゃあ私の出番かしら?」
「ダメだ」
と、敏夫は葵を止める。
「どうして?」
「お前のフレアは周りへのコラテラルダメージが大きすぎる。ましてや、この状況下でまともにやったら俺らまで黒コゲになる」
「じゃあ肉弾戦かな。3対1で」
「いや、4対1だ」
宮城が横から口を挟む。
「いいや。5対1よ」
晴海も参戦を決める。
「いつから私1人だと思った?」
見渡すと相手もいつの間にか5人になっていた。
「わざわざ卑怯者呼ばわりされないようにしてくれてありがとう。だが、俺らは例え女子供が相手でも、容赦なくやっつけるぜ」
奈央がそういうと、戦いが始まった。
いつになく激しいラッシュ。
「(おもしれえ。やっぱり戦いはこうじゃないと)」
血湧き肉踊る奈央。
「(相手にもならないけど、少し遊んであげようかしら)」
余裕綽々の葵。
「(こりゃ苦戦しそうかもね)」
宮城と晴海の共通認識。
そして敏夫は無心で戦う。
30分後…
薬師寺陣営で戦えるのは奈央、葵、敏夫の3人。
宮城と晴海は長引く戦いで辛くも勝利したものの、体力の消耗が激しく、座り込んでしまった。
一方の相手方はボスを殺した女1人。
「やってくれるじゃん。でもこれならどう?」
そういうと、女は薬を飲んでバケモノと化した。
「クソ外道が。人間としての知性も失ったか」
「バケモノに人間の知性なんかあるか、離れろ!」
「親父、どうするんだよ。いくら過酷な訓練積んできたとはいえ、あんなサイクロプスとシュ○ックを足して2で割ったようなバケモン、どうやって倒すんだよ」
そう言いながらも、奈央は攻撃を食い止める。
「せめて、あの刀さえあれば…」
敏夫が力なく言うと…
「お嬢様!!」
小橋川が窓を突き破り突入してきた。
「小橋川、どうしてここが?」
「説明は後です。それより、この刀を」
小橋川の手には妖刀『血鬼』が握られていた。
「小橋川、勝手なことをするんじゃない」
「奥様、説教は後でたくさん聞きます。お嬢様、早くあのバケモノをこの刀で」
「わかった。わざわざ遠くまでありがとう」
「小橋川、お前も戦え。頭数は多いほうがいい」
「承知しました」
「さて、これで6対1だ」
こうして、戦いが再度始まった。
鈍重な見た目に似合わぬ俊敏な動きに薬師寺ファミリー(プラス2)は翻弄される。
しかし、妖刀の前には流石の怪物もなすすべなく一刀両断された。
「ふう…倒したんだよな」
「首を切り落として、さらに残った胴体が真っ二つだぞ。生きられるわけがない」
「そうだよな」
「お嬢様、流石です」
「いや、今回はひとえに小橋川の心配性のおかげだよ。あそこで刀を持ってきてなかったら、下手したら死んでたかもしれない」
「お褒め頂き光栄です。私はこれで」
そういうと、小橋川は妖刀を持って飛び立った。
「小橋川って何者なんだ?少なくとも人間じゃないでしょ」
「私達の家に使える使用人だ。君らの御察しの通り、人間ではない。あれは龍だ。それも奈央をあそこまで育ててくれた功労者だよ」
「そうだったのね」
「じゃ、私らも日本に戻るよ。なにせ私らは貴方達と違って、密入国だからね。バレないうちに帰るよ。また会おう」
そういうと、宮城と晴海はどこかに行ってしまった。
「それじゃ、私たちも帰りましょうか」
「一旦サンフランシスコに行って、金門橋見物でもしようかね」
「ふざけたこと言わないでさっさと帰るわよ」
「はい」
その頃、日本の薬師寺家には、とある組織の人間が訪れていた。
「弱ったなあ、旦那様は留守だし、奈央様もいない、小橋川さんもいないのに加えて、英語を話せる人が今出払ってるんだよな」
「どうしたの?」
「川島さん。なぜここに?」
「今日は一旦戻る予定の日よ。それより、何この外国人」
「話す言葉が英語だってことはわかるんですけど、今いる人は誰も英語がわからないんで、困ってたんですよ」
「そう。私が相手するから」
「川島さん。英語話せるんですか?」
「メイドのたしなみよ」
そう言うと、川島は外国人のもとに歩いていった。
(ここからの数行の会話は本来なら英語ですが、わかりやすさを重視し、日本語表記とさせていただきます)
「何の御用ですか」
「いつまで待たせるつもり?」
「申し訳ありません。英語を話せる者が誰もいませんでしたので」
「そうですか。で、こちらの用件ですが、薬師寺敏夫さんはおられますか?」
「今日はこちらにはおりません。事前にアポイントを取っていただかないと困ります」
「そう。いつになったら帰ってこれるの?」
「いつになるかはわかりません」
「だったら、この手紙を渡していただけますか」
「わかりました」
(日本語表記の英会話終わり)
会話が終わると、外国人は去っていった。
「何だったんですか、この人」
「さあね。わからないわ」
その頃
「極東の島国のドラゴンか」
「薬師寺ファミリーが気になりますか?」
「ああ。とても気になるよ。うまくすれば、地球の危機の救世主となりうる」
「それより、我々に実業家の広田が接触を試みているのは本当か?」
「まだ噂の範疇ですので、なんとも言えません。しかし、広田が動いているのは事実です」
「そうか。いよいよ近づいてしまったのだな。あの日を超えるものが」
つづく
次回更新は未定です。
気長にお待ちください。




