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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第1章
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第2話

しかし、困った。

流れに任せて同居となってしまったが、養うだけの金はあいにく持ち合わせていない。

失礼を承知で聞いてみることにする。


「みゆきさん、世話になるとはいえ、あなたを養うお金は無いんですよ」

むろん、方便である。しかし、

「お金なら心配しなくていい。あなた冒険者でしょ。私があなたの冒険を手伝うから」

「手伝うといっても、冒険者登録証は持っているんですか?」


冒険者登録証

ダンジョンに入るときに必ず必要になる免許。

16歳以上の日本人なら学科試験に合格すれば取得可能な国家資格でもある。


「私は海外暮らしが長かったから、持ってない」

「それじゃダンジョンに入ることはできませんよ」


ダンジョンは本州、九州、北海道にしか存在しない。しかもダンジョンで希少金属や価値の高いお宝が採れることや、外国人が万が一ダンジョン内で死亡した際の責任の所在があいまいになりやすいうえ、死体も回収できない可能性もあるという理由から、ダンジョンに入ることが出来るのは日本人だけである。


「みゆきさん。海外暮らしが長かったそうだけど、どこの国にいたの?それと、本当に日本人?」

「アメリカ生まれアメリカ育ちの日本人よ。本籍は所沢」

「でも殺し屋なんでしょ。どこの組織にいたの?」

「アメリカの特殊部隊にいたこともある。これ以上は言えない」


あまり詮索するのもよくないと思い、話をやめようとしたところ


「そういえば、ダンジョンって何?」

「沖縄を除く日本にしかない宝探し場だよ。希少金属やら金目のものが採れるからっていってたくさんの人が探検するところで、全国に184か所あるんだ」

「国が作ったのか?」

「まさか。国がそんなもの作れるわけない。父の話じゃ、大魔導師が作ったものって言っているが、真相は誰にもわからない未知のものだよ」

「そう。じゃあ登録しないと話にならないってこと?」

「ああ。その通りだ」


と、話していると、インターホンのチャイムが鳴る。


「雨谷くん。私よ。香里」

「ああ、森田か。どうした?」

「生存確認。上がらせてもらうよ」

勝手に上がるなと言いたいが、言ってもどうせきかないので上がらせることにする。


「お邪魔します」

「邪魔するんやったら帰って」

「そんな古典的なネタはいいから」


香里がリビングに行くと、そこには正座をしているみゆきの姿が。


「雨谷くん。この人誰?」

「俺の親父の親友の娘。アメリカからこっちにきたばっかりでわからないことばかりだから、しばらく世話になるんだよ」

とっさに嘘をついてしまった。さすがに彼女が超一流の暗殺者で、命を救ったから恩返しをさせろと押しかけてきたなんて言えるわけがない。

「山本みゆきです。よろしく」

「森田香里よ。雨谷くんとは幼馴染なんだ」

「そうそう、小学校から大学まで同じだから嫌になるくらい見てるんだよ」

「雨谷くん、こんな美人捕まえといて贅沢だよ」


そういうのも無理はない。高校でも大学でもミスコンをやれば必ず上位入賞できるくらいの美貌を兼ね備えており、ギルドのやつらから言わせれば「冒険者にしておくにはもったいない」なんていわれるくらいだから。


「森田さん」

「香里でいいよ。どうしたの」

「じゃあ、カオリ。カオリはユウスケよりダンジョンに行っているでしょ。いろいろと教えてくれないかな?」

「わかったわ。じゃあ、登録試験に合格する必要があるわね。いろいろと話すこともあるから、明日、一緒に出かけましょう」


いきなりショッピングに誘うとは、さすが社交性が高いだけある。

そしてちゃっかりと携帯電話の番号まで交換してやがる。さすがとしか言いようがない。


「じゃあ、今日は帰るね。お邪魔しました」

急に来て急に帰ってしまった。ペースが速すぎてついていけない…


「あの人はいったい何者なの?」

「俺の幼馴染だ」

「そうじゃない」

急にトーンを変えてきたので思わずびっくりしてしまった。


「あの人はなにかを隠している。私の正体に気が付いているかもしれない」

「まさか。単に社交性が高いだけだよ」

「それで済めばいいけどね…」


その後食事を済ませ、シャワーを浴びて寝ることにしたが、さすがに今日会ったばかりの男女2人が同じ空間にいるのもどうかと思ったので、彼女にはリビングのソファーで寝てもらい、俺は自分の部屋で寝ることにした。


「おはよう」

みゆきが起こしてくれた。このとき、時刻は7時半。

「朝食がない」

どうやらメシが無くて困っているそうだ。

「近くにコンビニがあるだろ。サンドウィッチ買ってきて。ミックスサンドってやつ。お金なら俺のジャケットの中に財布が入ってるからそこから2千円取って買ってや。自分の分は適当に買っておきな。俺はまだ寝るから」

寝ぼけながら返答した。みゆきをパシリに使ってその後自分がリビングで寝るという図々しさに気が付いたのは、みゆきが買い物から帰ってきてからであった。

いやあ、本当にすみません。


朝食を食べ、しばらくゆっくりしているとみゆきの携帯に着信があった。

相手は香里だった。

街に出かけるから仕度してくれとのこと。

俺の方には、武器屋まで車を出してくれとのメールが来ていた。

仕度を終えた頃合いで香里から電話が来た。家の前にいるとのこと。


車の中ではみゆきと香里が和気あいあいと話していた。

「カオリ、ダンジョンではどんな武器が使えるの?」

「基本的にはほぼ全て使えるけど、免許がいるね。銃砲刀剣類所持許可免許が必要になる。この免許は冒険者ならだいたい発給してもらえるわ」

「おすすめのものは?」

「まずは刀かな。向き不向きもあるからいろいろ試してみるといいよ」

「外国人っているの?」

みゆきはどうやら知らないようだ。


香里は少し黙った後、みゆきに対して

「どこから話したほうがいいかな?」

と、いう。

「全部話してやれ。みゆきはアメリカ育ちだから海外に対しての報道管制を知らないんだよ」

「そうね。じゃあ話すね。第三次世界大戦が今でも続いているのはみゆきさんも知っているでしょ」

「ええ。アメリカでも話題になっているからね」

「その戦争中に、政府が突然外国人へのビザ発給を止めたのよ。最初は中立宣言をしたから戦争当事国向けかなって思っていたら、そのうち日本から外国人が数多く帰国させられたのよ。あとでわかったけど、それがダンジョンの始まりだったの」

「ちょっとまって。それじゃ理解できない」


確かにそうだ。しかし、ダンジョンの成り立ちなどは国の最高機密であり、真相を探ることは禁じられている。

一説には突然出来ていきなり政府が直轄管理しただの、国が魔導師を手中に収めて資源大国にするためにダンジョンを造らせただのいろいろとある。


「ダンジョンが出来たのは本当に突然だったの。外国人をダンジョンから遠ざけたのは、万が一死んだときの責任が取れないのもあるけど、それよりも、スパイ対策って言うのもあったんだよ」

「なるほどね」

「お2人さん。着きましたよ。ここが武器屋だ」

と、雨谷が話を遮る。


武器屋こがねい

所沢でも3、4を争うくらいの武器取扱量を誇る店で、扱う商品もビギナー向けのものから、玄人好みするようなものまで取り揃えている。メインは銃火器だが、一応刀も取り扱っている。


「いらっしゃい」

声をかけたのはここの主人の黄金井進(こがねい すすむ)さん。

武器職人だが、海外製のライフルを取り扱ううちに、いつの間にか商人になってしまった人だ。

「実はこの子が今度冒険者免許を取るから、武器を選んであげようかなって」

「ほう。ビギナーか。何がいい?」

と、店主はみゆきに聞く。

「ナイフと、拳銃」

「それじゃあ、大物は倒せんぞ」

「必要になったら、その時に言う」


店主は少し困った顔をしながら、1冊の本を渡した。

「息子が使ってた問題集だ。免許試験に行くなら必要だろ。武器は、また今度な」

「代金は?」

「いいんだ。サービスだよ。その代わり、また来てくれよ」

店主はやけに機嫌がよさそうだった。まるでカモを見つけたかのように。

俺も刀の修理と弾丸の補充の依頼を終え、この店を去ることにした。


その後、商店街でいろいろと買い物をした。

道中、みゆきや香里に対してナンパしてくる男を、みゆきが素早く手刀をかまして気絶させているため、むやみやたらに人を気絶させるなと言い聞かせるのに必死だったが。

一通り、買い物も終わり俺達は帰ることにした。


「楽しかったね」

「うん」

「俺は疲れたけどな…」


三者三様とはまさにこのこと。楽しかった香里、終始無表情のみゆき、2人に振り回されて疲れた俺。

この先どうなるだろうか…


つづく


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