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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第2章
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第16話



きっかけは1枚のFAXだった。


『雨谷くん、大変なことに巻き込まれているだろうけど、依頼があるので請け負ってくれ。日本のどこかにいる貸し出し魔法使いを探してもらいたい。むろん、何の手がかりも無いわけではない。私の知り合いにその方面に精通している人がいるので、その人に話を通しておく。詳しい日時と場所は改めて連絡する。

広田武蔵』


まったく、人の気も知らないで。


そう思っていると、メールが来た。

山部からであった。

『雨谷くん、みゆきさんを連れて京成上野駅の正面口まで来てください。社長がお待ちしております。

山部美咲』


「みゆき、支度しろ。社長が京成上野駅で待ってるそうだ」

「依頼?」

「わからない。でも社長が直々に呼び出すあたり、何かあるんだろうな」

「雨谷様、お出かけですか?」

と、家政婦の川島が聞く。

「ああ、上野に出かけてくる。内容によってはしばらくの間留守にするかもしれないから、小橋川さんにもちゃんと連絡しておいてくれ」

「わかりました」


祐介とみゆきは京成上野駅へ向かった。

京成上野駅に着くと、社長と山部が待っていた。

社長は目の前に車を待たせた状態で。

「やあ、雨谷くん。時間がないから手短に言うと、今回の依頼は人探しだ。詳細はこの封筒の中に資料が入ってるから、京成電車の中で見ておいてくれ。それから、今回の人探しにおいて、協力者を紹介しておこう。探偵の伊東さんだ。写真は封筒の中に入ってる。新鎌ヶ谷駅で待っていてくれるそうだ。それじゃあ伊東さんによろしく」

というと、社長は停めてあった黒塗りの高級車に乗り、去ってしまった。


「で、行くの?」

と、みゆきが聞く。

「まあな。貸し出し魔法使いだなんて初めて聞くぜ。で、なんでお前がいるんだ?山部さん」

「私も行けと言われた以上、ついていかなきゃいけないのよ。それにあんたとみゆきだけじゃ何しでかすかわからないし」

「まるで昔俺が薬師寺さんとコンビ組んでた頃のことを知ってたかのように言ってくれる」

「知ってたわよ。法学研究会で寝食を削って司法試験の勉強に明け暮れてなかなか家にも帰れなかった身でもね」

「まあそりゃそうだわな。そういや次の特急に乗るんだろ。新鎌ヶ谷に行くには」

「そう。それに乗って京成高砂で乗り換えるのよ」


40分後…

「着いたな。新鎌ヶ谷駅」

「確かこのあたりで待ってるって言ったけど」


「山部さんですか?」

「はい」

「私、広田社長の知人の伊東慎吾です。柏で探偵をしております。立ち話もなんですから、こちらの喫茶店へ」


この人が今回社長が紹介してくれた伊東さん。

探偵をしているそうだ。

手元の資料によると、秋田の高校から明治大学に進学し、10年ほど地方ブロック紙の中部新聞社で記者として働き、数年前に警察官だった知人とともに探偵事務所を開設し、探偵を営んでいるとのこと。


「ご注文はどうなさいますか?」

「コーヒー。ブラックで」

「俺もコーヒー。砂糖とミルクをつけて」

「私もコーヒー。ブラックで」

「私は紅茶で」

俺とみゆきと伊東さんはコーヒーを頼んだ。みゆきと伊東さんはブラック。山部さんは紅茶を頼んだ。

山部さんはコーヒーよりも紅茶が大好きという紅茶党。好きな紅茶はアールグレイ。


「社長から話は聞いてるよ。君ら貸し出し魔法使いを探してるんだよな。実は…」


伊東さんは魔術師の知り合いがいるのだが、最近はなかなか会えないらしい。

最近その魔術結社が依頼で不在がちとのことで、郵便物管理のための留守番しかいないことがしょっちゅうなんだとか。


「私も手伝ってあげたいんだが、最近は多忙でね」

「その魔法使い、名刺とかあったりします?」

「写しでよければ、今書いてあげようか?」

「お願いします」

というと、伊東さんは事務所の住所と代表者名を書いてくれた。

事務所は千葉県我孫子市にあるとのこと。

ただ、留守がちなので、行っても会えないかもしれないとのこと。

今回の伝票は山部さんが払ってくれた。

こういうのは1人あたり1回5000円までなら交際費として認められるからとのこと。

だから計算してたのか。

流石は弁護士。敵わないよ。


あとは足で稼ぐ仕事。早速事務所のある我孫子市に向かった。


我孫子駅から30分ほど歩いたところに事務所があった。

事務所のたたずまいは古風な洋館といったところ。

しかし、事務所にはおばちゃんが1人。

正確には2人いるらしい。

ただ、1人は幽霊なので、一般人の我々には見えない。

どうやらこのおばちゃん、見えている模様。

この幽霊、おそらくこの洋館の掃除やらいろんなことをしているのだろう。

電話の声と違うので、俺が話したのはその幽霊だったのか...


伊東さんが話をつけていたので、スムーズに連絡がいっていた。

「わざわざおいでになりまして。社長はただいま海外出張中でございます」

「どちらへ?」

「香港でございます」

「香港ですか...しかし、社長さんたちがいないとなるとね...」

「まあ、いつものことですから。私は事務員兼留守番ですからね。まなみちゃんが掃除してくれているから、この洋館もきれいですけど」

「この会社、本物の幽霊社員がいるんですかね」

「文字通りでございます」

部屋の中の空気が凍りついた。


「それより、そちらの社長はいつ帰ってきますか?」

「予定では3日後の夕方でございます」

「わかりました。わざわざ時間を割いてくれましてありがとうございました」

「いえいえ、ご依頼の時はいつでもよろしくお願いします」


洋館を出て一行は我孫子駅へ向かっていた。

「とんだ無駄足だったな」

「あながち、無駄ってわけでもないよ」

「どうして?」

「私、社長に名刺の画像を送ってあるから」

「そうか、よくやったな。これで一旦仕事は終わりだ。報告書書いて社長に話を通そう。というわけで山部さん、先に帰ってくれないか」

と、祐介は山部を先に駅に向かわせた。



「さて。さっきからつけてるやつ。尾行のやり方が他の素人とは違うようだけど、用があるのはどっちだ?俺か?それともこいつか?」

「バレちゃいましたか」

と、物陰から女が出てきた。


「お初にお目にかかります。私、警察庁情報調査局の乙坂と申します」

と、乙坂は名刺を渡す。

「ご丁寧にどうも。私、武蔵ホールディングス営業部の雨谷と申します」

と、祐介も名刺を渡す。

祐介の対外的な役職は武蔵ホールディングス営業部所属扱い。

名刺に目を落とした乙坂は軽く目を見開いていた。


「さて、雨谷さん。あなたがどういう立場にいるかご存知ですか?」

「その前にさ、立ち話ってのは気が利かないんじゃねえの?」

「……」

「まあまあ、そう敵を見るような目をしないで。話は近くの喫茶店で話そうじゃない?コーヒー1杯くらいなら奢るから」



こうして祐介らは我孫子駅近くの喫茶店に向かうこととなった。




つづく

次回更新は未定ですが、年末までにはなんとかする予定です。

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