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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第2章
16/61

第15話

シカゴに向かう道中、奈央は昔の夢を見ていた。


〜〜〜〜〜〜

「薬師寺さん、もう授業終わりかい?」

「ああ」

「俺はあと一コマある。終わったらいつものところな。あと、部活連の連中が探してるぞ」


英法大の運動部の連合を総称して部活連という。

ちなみに私が入ってるのは空手部。

いろんな事情で休んでるけど。


雨谷が入ってるのは英米文学映画研究会。

人数は少ないけど、歴史のある研究会。

雨谷いわく、この研究会はただの映画を見たりするだけのサークル。

私はこのサークルの一員でもある。届出はしてないけど。


部活連の本部に行くと、空手部の主将が待っていた。

18時から部活連の総会をやるから、部活連の本部に誰1人も入れないようにと門番を頼まれた。


そのため、森田に電話することにした。

森田は「雨谷くんにはちゃんと説明しておくから」とのこと。


部活連の総会は1時間ほどで終わった。

議題は人間力アカデミーという連中が勧誘活動で部活連加盟のほぼ全ての部の部員に迷惑をかけているため、制裁措置として決死隊を作って武力行使に至るかどうか。

今回の総会では決まらず、各部の部長が一旦各部に持ち帰り、次の総会で評決を取るとのこと。


3日後、部活連の臨時総会が開かれた。

人間力アカデミーに対する制裁措置に関する評決が取られ、全会一致で制裁措置を取るとのこと。

そんな中、空手部の主将から思いがけないことを言われた。

「薬師寺の知り合いに英米文学映画研究会のやつはいるか?」

突然の質問に面食らいながらも

「いますよ」

と、答える。

「なら伝えといてくれ。『部活連の連中が鍵の管理者に会いに行く』って」

「はい」

何のことかはわからなかったが、一応雨谷さんに電話で今の内容を伝える。


「雨谷、今大丈夫か?」

「ああ。どうした薬師寺さん」

「空手部の主将から『部活連の連中が鍵の管理者に会いに行く』って伝言を頼まれたんだが、何のことだ?」

雨谷は一瞬黙り込んでしまった。

やがて…

「そうか。管理者は俺だよ。なんなら来るかい?その倉庫に。明日案内してやるよ」

というと、雨谷との通話が終わった。


翌日

雨谷とともに大学の外れの倉庫に向かう。

雨谷の手には何本も鍵が握られていた。

「着いたぜ。少しボロいが、時たま掃除で開けるんだ」

目の前には古びた倉庫があった。

「確かこの鍵だな。よし、開いたぞ。今扉を開けてやるよ。よいしょっ」

そういうと、雨谷は力を入れて扉を開けた。

中には、ヘルメットなどの防災用品が並んでいた。


「表向きは部活連の防災倉庫兼英米文学映画研究会の倉庫。だけど、目につきにくいところにゲバ棒や金属バット、さらには催涙弾や煙幕もあるぜ」

「よくこんなもの隠し持ってたな」

「そもそも英米文学映画研究会ってのはこの大学の中でも設立が1番古い文学研究会が源流だからね。いろんなところと関わりがあったおかげで、武器庫の管理も任されてた。多摩移転のどさくさで武器は無くなりそうだったけど、主だった連中が捕まる前にゲバ棒などを倉庫に隠した。ヘルメットは防災用品って扱いにするために、マークを全て白く塗り潰してEってマークをつけてごまかした」

「なんでヘルメットを白く塗りつぶしたの?」

「防災用ヘルメットはだいたい白。それにEってマークを入れておけば万が一の手入れの時に言い訳が効く。英法大の防災用ヘルメット扱いにできるから。流石に全共闘などのヘルメットをそのままにはできないからね」


「雨谷くん」

どこからか声がする。

振り向くと、そこにはサッカー部副キャプテンの飯尾がいた。

「飯尾さん、驚かさないでくださいよ」

「悪いね。でも、これだけ武器があれば十分だろう。問題は人間力アカデミーが左翼セクトと繋がりがあった場合、流血沙汰は避けられないだろうね」

「ああ。間違いなく怪我人が出る。部活連の決死隊や俺らならまだしも、騙された連中まで怪我となれば、えらいことになるからね」

「そうか。我がサッカー部は10人ほど決死隊を出せることになった。それじゃ」

そういうと、飯尾は去っていった。


「雨谷」

「どうした?」

「この木材なんだ?」

「こいつがゲバ棒だよ。使いやすくするために先の方を削って握りやすくしてるんだ」


それから1週間の間、部活連、学生自治会、英米文学映画研究会の代表者が集まり作戦会議が連日開かれた。内容は決死隊を引き連れて、アカデミーの集会を襲撃するとのこと。


襲撃前日

部活連本部

この日は会議が行われた。この会議は私も参加した。

「では、みなさんには何度か言った通りですが、私ども学生自治会は極力穏便に事を済ませたいのですが、人間力アカデミーのこれまでの乱暴狼藉は許されることではありません。よって、無届けで教室を利用した扱いで手入れをしますが、みなさんいかがでしょうか?」

と、学生自治会の会長がいう。

「賛成。ただ、それだと決死隊がいらないんじゃないのか?」

と、野球部の部長。

「心配ありません。我々はわざと遅れて入ります。ある程度混乱したところで突入しますので、みなさんは逃亡の阻止をお願いいたします」

と、学生自治会会長がいう。

「問題は講師なんだよな。それはどうするつもりだ?」

と、サッカー部部長。

「それはワシがなんとかしよう」

と、空手部部長。

「なんとかしようって言われましてもね。何か策はございますか?」

学生自治会会長が意地悪そうにきく。

「ある。ただし、これは作戦段階だから明かすことはできん」

「わかりました。講師の件は空手部に任せます」


など、いろいろあって…


襲撃当日

「こちら1班、準備完了しました」

「本部了解。合図があるまで待機せよ」


今回の制裁襲撃は部活連と学生自治会の合同計画。

部活連は命知らずの血気盛んな1,2年主体で決死隊を結成、学生自治会はガサ入れの腕章をつけ、金属製の警棒やライオットシールドで武装する連中が多発。

なお、このライオットシールドは映画研究会と演劇サークルの小道具扱いで買ったものである。

決死隊はヘルメットをかぶり、ゲバ棒や金属バットで武装。初期突入部隊はガスマスクを着用、それ以外の決死隊は顔を見られないように覆面をかぶる。

なお、覆面も小道具。


「よし、教室は包囲したな」

「バッチリです。外には剣道部の連中が木刀持って待機してます」

「俺らはここで催涙弾を投げ込み混乱を招きつつ、学生自治会の強行突入を待つ。あとは合図があるまで待機」

その合図は、外で騒いでる連中が打ち上げ花火をあげたら強行突入である。

「薬師寺さん、遅いぜ」

「すまない。準備に手間取った」

「了解。薬師寺さんは前、俺らは後ろから催涙弾を投げ込む。マスク着用を忘れるなよ」


その時、花火が上がる。

「今だ!」

強引にドアを開け、薬師寺、雨谷は催涙弾と煙幕を投げ込む。

教室中が催涙ガスに包まれたそのわずかな時間で、薬師寺は講師を気絶させ、ずだ袋に講師を押し込め、講師を入れたずだ袋を抱えて車に向かった。

催涙ガスに包まれた教室から脱出しようと人間力アカデミーの連中が窓を開けたその時、木刀で武装しヘルメットを被りガスマスクを着用した剣道部の連中が強行突入。

窓から逃げようとした連中が次々と殴打され、教室の後ろから逃げようとした連中はゲバ棒や金属バットを持った決死隊に襲われ全く抵抗できず、前から逃げようとした連中はドアにつっかえ棒が挟まれており脱出不能。

少し遅れて学生自治会の機動隊が突入。

かくして、人間力アカデミーの連中は全員が御用となった。

ここまでの負傷者は30名(うち重傷者2名)。行方不明者は1名。


一方、講師を車のトランクに押し込んだ薬師寺はお手伝いさんの小橋川に始末を任せ、次のところに向かった。

向かった先は左翼セクトのアジト。

隠しアジトの前にはすでに学生自治会の連中がライオットシールドを持ち、待機していた。

「どう?」

「中には20人くらいいますね」

「よし、強行突入するか」

「危険ですよ」

「大丈夫だ。そんじょそこらのやつじゃ武器使っても私には傷一つつけられないから」

「でも…」

「だから心配するなって、いざとなれば逃げ出すから」


そういうと、薬師寺は1人でアジトに入っていった。


そして…


「学生自治会のみなさん、入っていいぞ」

中に広がっていたのは凄惨な光景だった。

左翼セクトの連中は全員気絶して動けなくなっていた。

学生自治会会長は直ちに左翼セクトの連中の身柄を拘束し警察に通報。

総括の末の仲間割れで全員が意識不明だと偽った上で。


こうして、人間力アカデミーと背後の左翼セクトの壊滅作戦は一応の成功を収めた。


数日後、人間力アカデミーの学生代表が部活連の連中に拉致され、部活連の本部に連れ込まれた。

そこで学生自治会、部活連、人間力アカデミーの三者で話し合いとなった。

話し合いの結果、人間力アカデミーを即日解散させることで合意したことになっているが、実際は…


部活連本部内小会議室

そこでは取調べが行われていた。

取調べはラグビー部の高山とサッカー部の大内が行っていた。

「氏名年齢学部と学科」

高山がアカデミーの代表に聞く。

「氏名年齢学部と学科!」

大内はアカデミーの代表を羽交い締めにしてプロレス技をかける。

「いててて!久保田数人21歳商学部会計学科です!」

久保田はものすごく痛そうに答える。

「どうして部活連に迷惑をかけるような勧誘やったの?」

「ここに黙秘権はねえからな。嫌なら痛い目に遭ってもらうぞ」

ここでもなお暴力的自白の強要が始まる。

こういうあぶないやつらが警察官にならないかどうか心配である。

その後、取調べは私と空手部主将が担当した。

死なない程度に執拗にボディを痛めつけてようやく主犯を吐かせた。

気絶しないように殴るのもしんどいんだよね。


その後、人間力アカデミーと左翼セクトの主犯連中は大学を去った。当然の結末である。

人間力アカデミーは解散した。しかし、私の仕事は尽きることはない。

この大学内に愚か者や始末の対象がいる限り。


〜〜〜〜〜〜

「奈央、着いたぞ。今日の宿だ」

敏夫は奈央を起こす。

「ただのモーテルじゃねえか」

奈央は宿を見て悪態をつく。

すると、

「奈央ちゃん。私はこんな子に育てた覚えはないわ」

そう言うと葵は奈央にさば折りをかける。

「ぎゃあああッ!!!いたいいたいいたいいたいッッ!!!」

バキバキバキッ…

腰からおかしな音が聞こえ、奈央は膝から崩れ落ちる。

「お前、実の娘にさば折りって過激的すぎるぞ。それに、育てたのはわし」

「あら、そうかしら?でも、私は奈央の母親として奈央には仕事以外でも極力おしとやかにしてもらいたいのよ」

無理な注文は虐待の元。

いくらなんでもやりすぎだ。


「いってえ…うちの母さんこんなに強かったっけ?」

もう起き上がってる。流石は自慢の娘である。

「腰から変な音してるぞ。親父、忍者整体やってくれ。明日以降動けないかもしれん」

「わかった。ひとまずモーテルに入ろう」


そして…

「うぎゃあああッ!!!腰が!腰がいたいいいぃぃッ!!!」

アメリカの夜空に奈央の悲鳴が響く。


つづく

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