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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第2章
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第13話

おことわり

カジノでの喧嘩のシーンの会話は本来は英語ですが、わかりやすくするために日本語を用いてます。


「久しぶりだねえ。あんたら3人揃って会うなんて何年振りかなぁ」

と、晴海が口を開く。

「しかも、アサシンならまだしも龍まで連れてくるだなんてどんだけ本気なんだか」


始祖六家の薬師寺家には代々伝わる龍との盟約が存在する。龍との盟約を結ぶことで、当人ないしはその妻帯者に強大なる力が与えられるのである。


「勘違いしなさんな。俺はアサシンじゃねえ。ただの通訳だ。龍の力を持ってるのはカミさんだけだ。それに龍との盟約なんざ、素養のないやつが結んでも申し訳程度。最後には自分の力さ。俺はあくまでもしがないフリーランスの通訳、カミさんはあくまでも子供が独り立ちして手のかからなくなった母親って立場ですよ」

「まあまあ、そんなに卑下しなくても」

「よく言う。息子2人の件でブチ切れて街を焦土にしようとした人に比べたらたいしたことありませんよ」


薬師寺葵は龍との盟約により火龍の力を行使できる。

力を全力で解放すればその炎は人をあっという間に消し炭にし、周囲80キロをただの空間だけにすることが容易なほどの力を持つ。


「でも、後始末はあんたらがやったんだろ?」

「何のことかね。俺は奈央が小3の頃に奈央を連れて甲賀に逃げ帰った卑怯者。何もしてないよ」

「そうね。私に恐れをなして突然別居を告げたんだから。で、奈央のクラスメートの乗った臨海学校のバスが崖下に転落してクラスメート全員死亡だなんてシャレにもならないことが起きた。本当に偶然?」

「事実は小説より奇なりとはよく言う話だよ」


「さて、依頼はご存知かしら?」

「ああ、私の同類が酷い目にあったからその復讐だろ?久々に大暴れできるぜ」

「奈央、そんなはしたないこと言わないの。もっとスマートに殲滅と言いなさい」

「母さん、なにしれっと怖いこと言ってんだよ」

「依頼は受けた以上、裏の裏まで探るのが定石よ」




常識人が不在のこの連中、殲滅などと恐ろしいことを考えていたのであった。

殲滅対象の組織が経営する裏カジノがこの街にあると聞いたため、5人はさっそく乗り込んだのであった。


「カジノってのはドレスコードがあってな、正装じゃなければ入れないんだ。俺たちはあくまでも通訳研修という形で入国してるから、正装は用意してあるけど、君らは?」

「ない」

「私もない」


「仕方ないな。奈央、英語くらいできるだろ?」

「一応ね」

「ドレスコードに合う正装を買うまで付いていてあげなさい」

そういうと、奈央と晴海、宮城の3人をカジノの近くの洋服店に向かわせた。


20分後

そこには、誰もが振り向くような美人2人と奈央がいた。

「さて、行きましょうか」


こうして5人はカジノの中へ入っていく。

カジノにはカジュアルな格好でよいカジノと、正装が義務付けられているカジノの2種類がある。

正装が義務付けられているカジノの近くには大抵の場合、洋服店があり、そこで買ったりレンタルしたりするのである。


5時間後

「フン、低俗な連中どもめ」

そこには、焼け野原と化した建物があった。


ものの3分前

敏夫とカジノの人はものすごい剣幕で怒鳴りあっていた。

「だから!イカサマなんて何もやってねえって言ってるだろ!」

「黙れこの黄色ザル!お前らの勝ち方はイカサマなんだよ!」

「てめえらはマフィアか!言いがかりにもほどがある!まだ繰り返すつもりなら弁護士を呼ぶぞ!」

「何言ってやがる!黄色ザルの言葉に口を貸す奴なんかいるか!」

その言葉に敏夫はキレた。

「葵、今日に限ってはこのカジノを焼き払え。金なんかいらねえ」


「龍の盟約の名の下、封印を解除する」


そこからは地獄絵図だった。

普段のストレスもあってか、葵の怒りに任せた火の攻撃はいつもよりも過激なものであった。

文字通り火の海。

その隙に換金所に逃げた奴らを集中排除。


反撃はあったが…

「クッソ、このアマ撃ち殺してやる!」

しかし、弾は無情にも弾かれる。

「マグナムが効かねえぞ!」

それもそのはず、ただでさえ龍の鱗は硬く、そのうえ、火龍の力を半分から75%は解放しているのだから、マグナム44では歯が立つわけがない。


こうして、大量の死人を生み出した我々は80万ドルもの資金を確保して逃走することとなった。

金なんかいらねえの発言はどこへやら…



ライトバンの車内

「やりすぎだよね…」

「殲滅作戦にやりすぎもへったくれもないけど、こりゃやりすぎだね」

「すまない。怒りに任せて焼き払えと言ったのは私だ」

「いいの。私がすべて悪いんだから。あとは私がやる」

「母さん1人だけじゃ消耗する。私もやるよ」

「奈央ちゃん本当にいい子。私が育ててあげたかったのにあんたときたらこのロクデナシ通訳め」

「薬師寺の血を途切れさせるわけにはいかんだろ。忍術の中には文献で残せるようなものなんか無いんだから。それに、葵は息子2人をよく育ててくれたじゃないか。2人とも東大卒だなんてよその家が羨ましがるぞ」

「あんたも頑張ってくれたことくらい私は知ってるよ。月末にひっそりと養育費を送ってくれたこと。少ないとか言っておきながら毎月30万円も送ってくれたことは忘れようにも忘れられないさ」

「甲賀で暮らしてた頃は、通訳の仕事をメインにしなくていいんだから。それにあの里ではいつも調子が良かったんだよ」

薬師寺の忍者は自然と一体化することにより力を発揮できる。

逆に都会では薬師寺の忍者は自然の溢れる地に比べ力を半分ほどしか発揮できないのである。


「そういえば、薬師寺の親父さん」

と、宮城が口を開く。


「どうした?」

「どうして通訳と間諜の二足のわらじを選んだんですか?甲賀といえば、薬学が盛んですのに、どうしてですか?」

「通訳はたまたま英語だけが優秀だったんで、京都の高校に受かった時に表向きの仕事として考えていたんだよ。それに、薬学は競争相手が多いからね」

「京都の高校ってことは、下宿ですか?」

「そうだよ。俺らが住んでた里は小中学校合同の9年制の学校が1校だけ。高校になると電車通学か下宿を借りることになるんだ。俺は京都の私立高校に3年間通ってた。大学は京都大学」

「すごいじゃないですか」

「そんなことはないよ。京都大学でも留年寸前まで行ったことがあったからね。でも楽しかったぜ」

と、敏夫が明るい声でいう。


「ちなみに学部は?」

「経済学部だけ受かった。本当は文学部が良かったけど、通訳に資格はいらんからね。あとは独学の世界。でも楽しかったぜ。アホみたいな連中と過ごした日々と卒業式の忍者装束は今でも覚えてるよ」

京都大学の卒業式でのコスプレは有名である。


「そういえば、薬師寺のおやっさんは京都大学卒なのに、息子に京都大学を勧めなかったの?」

と、晴海が口を挟む。

「手紙じゃ何度か勧めたよ。でも2人とも東京大学に受かったんだからしょうがない。本当は、京都大学に進んでもらいたかったけど、関東生まれの息子に無理強いするのもよくなかったからね」

「あんたそういえば入学式の時に東京は受験ツアー以来って言ってたけど、東大受けたの?」

と、葵が口を挟む。

「いや。受験ツアーは高校受験の時だよ。俺が行ってた予備校が昔やってたんだよ。受験ツアーを」

「あれ?じゃあ大学は?」

「京大以外は関西の5私大(関学、関大、同志社、立命館と近大)しか受けてないよ。まあ、全部受かったけど」


そう言ってるうちに、車はオークランドを過ぎていった。


「それはそうと、奴らの本拠はどこなんだよ」

「シカゴ」

「本当か?一体何日かかると思ってんだよ」

「どういうこと?」

と、葵が口を挟む。

「この地図見てみろ」

と、敏夫がアメリカの地図を渡す。

「シカゴってのはミシガン湖の南だ。俺たちがいるのはアメリカの1番西。だいたい1800キロはあるぞ」

「何日かかると思う?」

「少なくとも3日はかかると思うな。車だと」


車内を少し暗い雰囲気が包みつつも、車はシカゴへ向かって行った。


つづく


次回更新は9月あたりを予定しています。

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