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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第2章
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第12話

前回までのあらすじ

みゆきの救出に成功した水野と宮城はみゆきと祐介を日本へ送り返した。


成田国際空港到着ターミナル


「ユウスケ。待った?」

「いや。そこまで待ってないよ」

「じゃあ、帰ろうか」

「ああ」

そう言うと、2人は京成電車の乗り場へと向かっていった。


京成スカイライナーの車内

「もう絶対に無茶はするなよ。孤独だった頃のみゆきとは違って、今は君のことを気にかけてくれる人もいるんだから、俺ならともかく、社長やらいろんな人に迷惑かけたりしちゃダメだよ」

「わかった。もう無茶しない」

「絶対だぞ。あの2人はアメリカでみゆきの代わりに戦ってくれるんだよ」

「なんでそこまでしてくれるの?」

「俺にもわからない。でも、あの2人は少なくともみゆきのことを自分のことのように思ってくれる人だよ。それを悲しませるようなことは二度としちゃいけない。それさえわかればいいんだ」


所変わって、サンフランシスコ


「社長も豪気だね」

「どうしたの?」

「言ってた援軍の件、きっちり3人よこしてくれるって。しかも薬師寺ファミリーの実力者どもを」

「すげえな」

「きっと本気なんだよね。それはそうと、あんたの妹元気?」

「ああ。相変わらず引きこもってるけどな」


水野は夢魔でありそのうえ不死の呪いにより死ぬことを許されない。ゆえに自ら実験体に身を落とした。自分が何者かを知るために。

そして、実験中の不具合で2人に分裂してしまった。

片方は水野春海。

もう片方は水野冬美。こちらは色気こそ強いがサキュバスらしからぬ引っ込み思案な性格ゆえ引きこもりを決め込む始末。

実験体で無くなったのは実験中の不具合で研究所が消し飛んだため。


「ネトゲ三昧か」

「そう。アホみたいにネトゲ三昧。あいつも魔術素養はあるんだから前線で戦っても悪くは無いし、私みたいに不死の呪い持ちだからなおさらだよ」

「前線で戦うのはネトゲだけってかい?」

「その通りだよ」


そういうと、水野は横になってしまった。


水野のアジト

「あーあ…なんか退屈だなぁ…かといって晴海が戻ってくると私みたいなのがえっちい目にあってひどいことになるからなぁ…」

冬美は憂鬱そうにネトゲをやっていた。

黙っていれば誰もが振り返る美人。しかし若干対人恐怖症が入っていそうな引っ込み思案な性格ゆえ、自分から外に出ようとはしない。

「あ、メールだ。晴海からか。『しばらくアメリカにいる』だと?勝手なんだから。この両刀め」

そういうと、冬美はまたネトゲを再開した。

彼女自身も気づいてはいないが、魔術素養が高いことや不死の呪いの影響で戦闘能力自体は高い。ただし、実戦経験がほぼゼロなので、戦闘の際にはおそらく役には立たないだろう。


成田空港国際線ターミナル

「アメリカか。久しぶりだな」

「俺は二週間ぶりだ」

「私は初めてだよ」

そう言ったのは薬師寺家の家族たち。敏夫、葵、奈央の3人はアメリカはサンフランシスコへと向かう。

サンフランシスコまでは都合10時間以上。


日本時間15:27

祐介の自宅の前にはメイド服姿の女性がいた。

「雨谷祐介様と山本みゆき様ですね。お初にお目にかかります。私、薬師寺家でメイドを務めております川島と申します」


「(どういうことなの?)」

と、祐介はやや思考停止気味な顔をした。


「どこかで見たことあるんだけど思い出せんな…」

「私とは面識があってもおそらくあなたは覚えてはいませんよ。それから、お嬢様からお言伝を預かっております。『祐介君、キミが帰ってくるのに合わせてうちの自慢のメイドを護衛として送った。粗相があったら遠慮なく言ってくれと言いたいところだが、残念ながら私らは家族旅行でアメリカに行くので、何かあったらお手伝いさんの小橋川に伝えてくれ』とのことです」


「ちょっと外で待っててくれますか」

と言い、祐介はみゆきと共に家の中に入った。

そして、迷うことなく祐介は薬師寺邸に電話した。


「雨谷ですけど、小橋川さんいますか?」

「小橋川ですけど、どうしました?」

「小橋川さん?あのメイドはいったいどうして私らの警護をするんですか?」

「私も急に言われましたので詳しくはわかりませんが、奈央様と旦那様に言われましたので送った次第です」

「そうですか。実力はどんなものですか?生半可じゃ大変なことになりますよ。みゆきは追われる身で、私はその巻き添えとなる恐れがあるんですから」

「心配には及びませんよ。私ら薬師寺ファミリーの武装メイド隊のトップで、私よりも強いですから」


小橋川いわく「私らお手伝いさんも鍛錬は欠かしません。お嬢様が私より強くなった時には随喜の涙を流したものですよ」とのこと。

「そうですか。忙しい中どうもすみません」

「いえいえ。何かありましたらいつでも電話してください」

と、言うと通話が終わる。


祐介は憮然とした表情でメイドを家の中に入れた。

「今日からよろしくお願いします」

「じゃあまずは家の掃除をお願いします」

「かしこまりました」


「ねえ、本当にこの人を使うの?」

「小橋川さんの紹介だ。何かあったら小橋川さんが怒られるだけだし、それにうちには何も無いだろ」

「確かに金は銀行、宅地の抵当権や土地の権利書などは全部銀行の貸し金庫の中。通帳はあるけど、静脈認証を通さないとお金は引き出せないからね」

「しかし、困ったことがある」

「何?」

「布団が無いんだ」

雨谷宅には布団が1つとベッドが1つしかないのである。


布団が無い件をメイドに話したところ

「心配ありません。我がメイドは寝袋でも問題ありません。なんなら立ったまま寝ることもできますが」

「いえ、立ったまま寝なくていいです。寝袋があるならそれで」

「わかりました」




翌日

さすがにこのまま何日も寝袋で寝させるわけにもいかないため、ショッピングモールで寝具を買うこととなった。


支度をしているとパンツスーツ姿の川島が現れた。

「(なぜ、パンツスーツ)」

「さて、行きましょうか」

「はい」

もうツッコミを入れたら負けだなと思いつつも、祐介はみゆきと川島とともに郊外のショッピングモールへと向かった。


敷布団と最低限の掛け布団と枕を買い、寝具店を後にすると、次は食材の購入。

買い溜めのきく食材を中心に購入。

この日の出費は4万6852円。


「本来なら私が運転すべきところを、雨谷様に運転させるご無礼をお許しください」

「いえ。私が好きで運転していますのでお気遣いなく」


しばらく進むと、渋滞に捕まった。

「そういえば、どうして薬師寺さんは川島さんを私のもとに護衛に寄こしたのでしょうか?」

「私はただ言われたことを実行するしがないメイドでございます。強いて言うなら、ただ強いからこそということでしょうか」


よくわからない。


「じゃあ、質問を変えましょう。どうしてあなたはメイドになったのですか?」

「コネです。奥様は私の遠縁ですので」


このアマさらっと言ってくれると思いながらも祐介は話を聞く。


「それに、私が望んだことですから」

「どういうことですか?」

「それ以上でも以下でもないですよ。信号が青に変わりましたよ」


はぐらかされてしまった。



深夜

「ここか。あの女の潜伏先は」

「さっそくやっちまおうぜ」

「まて、警報装置があるぞ。俺が解除しに行くから待ってろ」

3人の刺客がみゆきの命を狙いに雨谷邸に訪れる。


「おい、いくらなんでも遅くないか?」

「警報装置を解除しに行ってからもう10分は経ってるぞ」


「警報装置を解除しようとした方はこの人ですか?」


声の方には、身体中傷だらけで瀕死の重傷となった刺客と、その刺客を抱える川島がいた。


「なんだてめえは?」

「名乗るほどの者ではございません。それから後ろを振り向きなさい」


刺客の2人はいつの間にか囲まれていた。


「今逃げるのであれば命だけは助けます。大人しく投降し……」

言い切る間も無く、刺客が攻撃してきた。

しかし…


「愚かな。逃げればいいものを」

そう言うと、刺客の2人が崩れ落ちた。

「あなたたち、こいつらを片付けなさい。私は家の前を片付けます」

「わかりました」

川島はメイド隊にそう命じた。


「(やれやれ、これはとんでもないことになりそうな予感がしますね)」

そう思いながら、川島は雨谷邸の中に戻った。



つづく

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