第11話
前回までのあらすじ
宮城と水野はアメリカで好き勝手暴れ回ることになり、祐介とみゆきは振り回されるのであった。
サンフランシスコのホテルの0814号室
「潰すって言っても、どうするんですか?」
「片っ端からやるんだよ」
「たった2人で?」
「もちろん仲間を呼ぶさ。さすがに私ら2人だけというのもアレだからね。さて、その前に」
「何ですか?」
「知ってることを全部言いなよ。痛くはしないから。どうせ痛いことしたって耐えられるじゃん。水野さん、お願いします」
「わかった。宮城と雨谷くんはちょっと部屋から出てくれるかな」
というと、水野は宮城と祐介を部屋から出した。
「大丈夫なんですかね?」
「水野さんのこと?大丈夫よ。彼女は夢魔。しかも呪いで死ぬことも許されないときてるからね。反撃されても死にはしないから」
「うーむ…よくわかりませんね」
「まあ深く考えても仕方ないからね。お酒でも飲む?」
「いいですけど、お金はどうするんですか?」
「海外使用可能のクレジットカードがあるから問題無いわ」
こうして、地下一階のバーに行くことにした。
その頃、0814号室では…
「さあ、私をよく見て。じっくりとね」
「(何だこれは…まずい、意識が遠のいてきた…)」
「さて、いろいろ質問してみるわね。質問にはちゃんと答えてね」
「はい」
ここでみゆきはいわゆる操られた状態となる。
「貴方がかつていた組織でああいうことを教わったのはいつから?」
「11のとき」
「どういう経緯で?」
「私の父の紹介。あなたも特殊工作機関くらいは知ってるでしょ」
「ええ」
「私が素質ありと認められたからCIAの下請けの特殊工作機関に入れられて、そこからは地獄の日々だったわ」
「どういうことをされたの」
「人体実験から始まったわ。そして毎日のように筋力トレーニングや実学的な勉強と、人殺しのやり方。覚えられないと強制記憶装置で覚えさせられたり、苛酷な薬漬けの毎日」
「どのくらいの人が死んだの?」
「私の時は私含めて6人が入ったけど、最初の1年で2人が死んだわ。次の年に1人死んで、残った2人はもはや殺人マシーン。命令に基づいて人を殺すことしかできなくなった」
「死因は中毒死?」
「その通り。薬物漬けと精神を病んだのがまずかったわね。私を含めてほとんどの人が感情を失ったわ」
「あなたがいたのはどこ?」
「最初はサンフランシスコ。次にテキサス。シカゴにもいたわね。あとはボストンにいたり、ニューヨークにいたこともあったわね」
「逃げ出したきっかけは?」
「自由が欲しかったから。家族も死んで私1人なら失うものは何もないと思ってね」
「ありがとう。もう寝ていいわ」
そういうと、水野はみゆきを寝かしつけた。
1時間後
宮城が酔い潰れた祐介を抱えて戻ってくる。
「どうだった?」
「上出来よ。そっちはどう?」
「社長が情報を送ってくれたわ。彼女がいた組織、今や衰退の一途を辿るだけの組織で、CIAも必要とみなしてないから、明日、組織殲滅依頼の入札が行われるって」
「社長に競り落とすように言った?」
「もちろん。社長も乗り気だったわ」
「また懲罰部隊の出動かしら」
「さあ、どうかしらね。でも、生半可な人間送りつけられても足手まといだからね」
「祐介くんとみゆきは帰しちゃう?」
「その方がいいかもね。みゆきさんは正規のルートだから普通に帰すけど、私達は非合法なルートで渡ってるからね」
翌朝(サンフランシスコ時間では朝8時。日本時間では夜中の0時)
「いったいどういうことなんだ…」
祐介は自宅にいた。
ポケットには手紙が入っていた。
「前略
君の出番はここまで。みゆきさんもANAの成田行きで帰したから。あとのことは私達に任せなさい。終わったらお土産話を持ってあなたの家に押し掛けるわ。社長にも話は伝えてあるから。
追伸
彼女のことを成田に迎えに行ってあげなさい。到着は昼の12時くらいよ。
かしこ」
(サンフランシスコ時間)朝9時
サンフランシスコ国際空港
「ユウスケは?」
「一足先に帰ったわ。成田であなたのことを待ってるから」
「そう。ならいいけど」
「あなたはしばらく雨谷くんの家に潜伏した方がいいわ。大丈夫。組織のことは私達がケリをつけるから」
「関係ないはずなのに、なんでこうまでしてくれるんですか?」
「これは私達のケンカ。だから私達がカタをつける。それに、雨谷くん、私達に頼んだからね。あなたに何かあったら必ず組織を潰してくれって」
「(ユウスケ…)」
「さ、時間よ。それから、私達のことは何も心配しなくていいから。時には人任せにするのも大切よ」
みゆきを乗せた飛行機は成田へ向かって飛び立っていった。
「ここからは私達の仕事ね」
「社長からのメール待ちだけど。そういえば、落札したら、援軍をよこすって言ってたわ」
「あの夫妻なら、鬼に金棒ね」
「薬師寺夫妻?」
「そう。あの薬師寺夫妻」
「確かにあの夫妻なら問題無いわね。あれは鬼が2人いるようなものだし、2年前に大活躍してるからね」
「龍人はどう?」
「あれはチートレベルよ。マグナムが効かない皮膚とかおかしいから」
「でも倒せた人はいるって話よ」
「そうね。あっ、メールがきた」
宮城がメールの画面を確認する。
『落札担当の三木です。例の件落札しました。増員の件は社長が現在人選中なので、要望があればお願いします。あと、サンフランシスコの支局には話がついていますので、活動資金はサンフランシスコの支局で調達してください』
「よしきた。じゃああの3人を指定しましょう」
そう言うと、宮城は慣れた手つきでメールを送る。
日本時間深夜0時
薬師寺邸
「嵐の予感がする。これは私達の出番かしらね」
「奥様、何かありましたか?」
「何かはわからないけど、ひょっとしたら、旦那も連れての依頼があるかもしれない。そういや旦那が滋賀から帰ってくるのは明日だったわね」
「そうです」
「わかったわ。小橋川、明日は早く起きるのよ」
そう言うと、葵はお手伝いさんの小橋川を部屋から出した。
薬師寺葵
旧姓は中野。彼女は薬師寺家の当主の妻である。
彼女もまた、当主の敏夫や後継者筆頭の奈央同様に忍者である。
25年前に結婚してからは第一線から退いているものの、今なお美貌と実力の両方を兼ね備えている。
「さて。窓の外にいるやつ、出てこないなら始末するよ!」
「おやおや、気づきましたか」
「こんなところまで入り込めるとは、褒めてやるよ」
「あんたに恨みはないけど、死んでもらうぜ!」
刹那、空間がよじれ、血しぶきが舞った。
「なん…だ…これ…は…」
「君のような下っ端には理解できないだろうけど、この世界には不思議が満ち溢れているのさ。名前はなんだい?」
賊は名前を言う前に事切れてしまった。
「あーあ。部屋が汚れちゃった。また小橋川を呼びつけなきゃね」
こうして、夜が更けていくのであった。
つづく
おことわり
ここでの日本とサンフランシスコの時差はサマータイムの時差となっております。




