第10話
「そうか。山本さんが出て行ってしまったか」
祐介は社長室で社長と話していた。
山本みゆきが置き手紙を残して家を出て行ったのは昨日。
「何があったか教えてくれないかね?」
「それは無理ですよ。こっちだって何があったかわからないんですから。ただ、ケリをつけるとだけしか」
「そうか。多分、アメリカに行ったんじゃないかな?」
「アメリカですか…」
「サンフランシスコとニューヨークにはうちの支局がある。米軍ルートで情報を得る手もあるけど、厳しいところだな」
「俺は彼女を信じてます。だから簡単に死にはしないと思いますが、ヤバい組織にいたと思われる以上、ただでは済まないでしょうね」
「拷問かい?」
「いや、普通の拷問ならこの子は我慢できるでしょう。そうなるとやっぱり薄い本展開でしょうね。痺れ薬を飲まされて好き勝手されちゃうとか」
「なるほど」
「何がなるほどだって?」
振り返ると、宮城ともう1人の女性が立っていた。
「げっ、宮城さん。ノックくらいしてくださいよ」
「ノックならしたわよ。それより、何?薄い本展開って」
「どこから聞いてたんですか?」
「あなたの同居人が行方知れずになったところからよ。私にも詳細を教えてくれるかしら」
というと、社長は2人に内容を教えた。
「なるほど。よくわかったわ。雨谷くんの同居人が実は組織から追われる身で、組織に居所がバレたから決着をつけに1人で乗り込んだってわけね」
「あなたの同居人、なかなか良い女ね。あなたに迷惑をかけないなんて女の鑑ね」
と言ったのは水野だった。
彼女もまた人間ではない。
「水野さん、いくら女好きだからって、そういうのを甘く見ると痛い目見ますよ」
「それが呪いで死ぬことすら許されない夢魔に対する言葉かしら?」
「死にはしなくとも痛みはあるだろう」
「そんなことは釈迦に説法を説くようなものですよ。私は私のポリシーで生き続けてるんだから」
「雨谷くん、どうだい?理解できたかい?」
「まったく理解できません」
「人外ってのは人間の常識を外れてるから人外なんだ」
「それ、私らのこと?」
「事実なんだから仕方ないさ。それに、人ならざるものだからこそできることがあるじゃないか」
「そうやって汚れ仕事をまた請け負わせる気?」
「まあまあ、これでも食べながら考えてくれ」
と、社長は高級洋菓子店の洋菓子を差し出す。
「あのねえ、私がモノにつられてこういうことすると思う?ちょっとは考えなさいよ」
宮城さんの言うことはもっともだが、出されるや否や素早く包み紙を剥がして食べてるうえに食べながら話しても何の説得力も無い。
「わかった。だったら私の力の使いどきだわ。私にかかれば場所の捕捉なんか容易だわ。その上で速やかに助けてあげる」
「速やかにって、それは密入国でしょ」
「そうよ」
「密入国だなんてそんな」
「そうでもしなきゃ助けられないわよ。私にかかれば水さえあれば地球の裏側にでもワープできるわ。それにバレなきゃ犯罪じゃないのよ」
めちゃくちゃな論理だと祐介は思った。
しかしやるしかない。
そう思い、一縷の望みを託した。
こうして、祐介、宮城、水野の3人はアメリカのサンフランシスコに訪れたのであった。
「そう言えば、あなたみゆきさんの持ち物は持ってるかしら?」
「どうするんですか?」
「探知に使えるのよ」
「探知魔法ってやつですか?」
「察しがいいのね。その通りよ」
「持ち物と言っても…そうだ、みゆきが置いてきたお守りがあった」
そう言うと、祐介はおもむろにポケットからお守りを取り出す。
「探知してみるわ」
そう言うと宮城は目をつぶり、瞑想状態に入った。
「雨谷くん、ちょっといいかしら?」
と、水野が呼びつける。
「水野さん、どうしたんですか?」
「あなた、いい人を呼び寄せるようね。いいこと。同居人は大切にしてあげなさい。それこそ、自分の命を投げ打ってでも」
「はい。そうします」
「あの子はきっといい子よ。あなたに危害が及ぶのを避けるために自らケリをつけに行ったんだから」
「祐介くん、場所が捕捉できたわよ」
と、宮城が呼びに来た。
「場所がわかったんですか?」
「ここから2ブロック先の空き倉庫よ。敵は最低でも10人、下手したらもっといるわ」
「無理かもな…この人数じゃ」
「あら?あなたは戦わなくていいのよ」
「え?」
祐介が疑問を抱く。
「あれは女の敵だからね。ストレス発散のために戦わせてもらうわ。ねえ水野さん」
「わかってるわ。私が呼ばれた時からなんとなくこうなるのは察していたけど、久しぶりに腕が鳴るわね」
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「そうか。残念だな」
「殺すなら殺しなさいよ。私はあんたを始末できなかった。だから死んでも仕方ない」
「ただで殺すには惜しいねえ。私がこれまで…」
「死んでも仕方ないだなんて軽々しく言うんじゃない!」
怒声が倉庫の中に響く。
「誰だてめえは!」
「ただのおせっかい焼きだよ。女の敵め」
そこからは言葉にできなかった。
次々と倒れていく相手と、暴れまわる宮城と水野。
一言でいうならチート使いが相手を殲滅しているようなものだった。
この二人だけは敵に回しちゃいけないと祐介は心の底から誓うのだった。
「みゆき!大丈夫か?」
「大丈夫?怪我したりしてない?」
「この程度大したことありません」
「そうか。まったく無茶なことしやがって」
「失敗したら死ぬのが私たちの掟。だから死ぬのも怖くなかった。でも、助けに来てくれてありがとう」
「もうお前を縛る組織は無い。そんな掟なんか忘れろ」
「まだ終わって無いわ。本部はニューヨークにあるから」
「じゃあ、ぶっつぶしに行こうか」
「えっ?」
つづく




