片手間の (別視点)
ふ
ふふ
あぁやばいな
笑いを殺すのは大変だ
話し合いの意見を纏めている。
そう周囲に見えるように片手でパソコンを叩きながら、もう片方の手で持った資料の紙で口元を隠す。
そうでもなければ、必死ににやけてしまうのを抑えて歪む口元が円卓を囲む全員にばれてしまう。
大事な会議の途中でそんな表情をさらすのは不謹慎だし、なにより己のキャラではない。
ここは華央会の間
若い能力者の自立を養うとして生徒の自治を多分に認めている学園で生徒を纏める権限を与えられたメンバーが会議を開く為にある部屋だ。白を基調とした部屋には全員が囲んで余裕のある円卓にホワイトボードだけが置かれている。
入学式が無事終了した夜、
全員が集まり、大事なイベントがある明日のための話し合いを行っていた。
明日、高等部一年に対し行われる洗礼、長く学園で生活をしてきた為に驕ってきた精神を叩きのめすイベント。
高等部からは、中等部では一部の成績優秀者だけが参加していた外部任務が実習として導入される。
いざ実習に参加する際、行動を間違って危険を犯さないようにするため、一年生たちを島の西側に広がる森の中に放り込む。森の中には、使役系の能力者が集めたペット(世間でいうところの魔物や妖怪)が跋扈しているし、実習の成績が不良な二年三年の生徒が補習がわりに一年生に奇襲をかけるため潜んでいる。大概の一年生は、毎年ここで一度高い鼻をへし折られることになる。
もちろん一年生が危険な目にあわないよう、五人一組のグループ毎に一人上級生をお目付け役につけている。今回の華央会の内容は、そのお目付け役を決めたり、森の中で監視する人員を配置することだった。
それも終わりに近づき、部屋の中の空気も和らぎ始めていた。
「それでは皆さん。最後に注意するべき人物などございましたら御意見ください」
ふっと目の前に開いているパソコンに目が行く。
僕以外が見たら普通に纏められた議事録が開かれているように見えるだろう。
『見識の王』さまさまだ。
使い魔だけが見て書き込めるようになっているその掲示板には、興味深い情報が新人からもたらされていた。
新人の前の世界では、この学園は恋愛ゲームだったのだという。
それに興味を持った俺たちに、新人はキャラクターの情報を書き込んでくれた。
あとは、この世界がゲームとどれだけリンクしているのか。
僕たちのような前世持ちが平然を存在しているだ、不確定要素は多い。相違する部分もあるだろう。
「うちの寮に入った外部生、B組の氷川美智。
強大な力を持っているが、不安定で能力として確定していない。
へたをすると、暴走する可能性がある。」
手をあげて薔薇寮寮長が進言した名前は、ちょうど新人から教えてもらった中にある名前。
最も多い、自然現象を操るタイプの能力者を纏めた薔薇寮。
何になるか分からないからこそ、大多数に配されたのか。
それにしても、流石ヒロイン。特別だ。
普通は物心がつく頃から10才くらいまでに安定し形をなす能力が確定していないなんて
危なくて近寄りたくもない、ね。
「E組、森本茜。
雷を操る能力を持った狼を使役している。」
「狼の支配も完璧なものがありますが、少し異形の動物に懐かれやすく
・・・・寮内の使役されたモノまで操ることができるようです。
森の中の異形がどんな反応を示すかは未知数となります。」
使役系と人外の一族を纏めた百合寮の副寮長と寮長。
これまたヒロイン。
「F組の藤巻陽太くん。彼も外部生です。
彼の能力は腕力ですね。鉄なら簡単に引き千切ります。
覚醒したばかりで情緒が不安定ですね。」
己の身体能力を底上げする内燃系を纏める秋桜寮の寮長。
ヒーローか。説明では戸惑いながらも健気に努力しているって言ってなかったか?
これもまた相違部分ってことでいいのかな
「鈴蘭寮は別にないよ~」
手をフリフリ振る鈴蘭寮の寮長
でも、誰も信用してない。全員が目を細めたり眉間に皺を寄せたりしている。
面白いことが大好きな彼はよく、伝えなくてはいけないことを隠蔽して混乱をもたらす。
今回も警戒するのは正解だね。
新人の説明では、注意するべき対象がちゃんといるんだから
「こちらからは二人。」
硬い声音の風紀委員長。堅物で真面目な、僕は苦手なタイプだ。
「これも外部生。F組の六衡后と萩野琴音だ。」
驚いた。
風紀委員長って使い魔だったっけ?
えっ?あんな堅物、いなかったよね?
思わず、見開いた目を向けると風紀委員長と目が合い、笑われたのが分かった。
まじで?
っていうか、風紀委員長の能力だとあいつなんだけど
はぁ?
もしかして、風紀委員長の前に置かれているノートパソコン・・・僕みたいな画面開いてる?
「六衡后の能力は銃器を生み出すというものだが、
入試の実技を見た限り生み出した銃器を操る技量が不足している。
本人はそれを歯牙にもかけていないが、銃弾があらぬ方向に飛んでいくなど危険性が高い。
萩野琴音は本人の能力にも性格にも問題はないが、
彼女に何かあると六衡后が暴走するという調査結果がある。
この二人は同じ班に纏め、銃弾の危険性を防ぐことができる能力を持つ俺が就く。
かまわないな。」
先程、掲示板を見る傍らで打ち込んだファイルを見る。
確かに、二人の班の随員が風紀委員長になっている。
ピコン
チャット機能が開かれた。
『やっほー はじめまして(笑)』
奴からだ。
『てめぇ キャラが違い過ぎなんですけど』
『お前に言われたくないよ~だ。』
「それでは、これで大体の段取りは終わりということで。
明日は、くれぐれも大きな事故の無いようにしよう。」
いつも纏め役を買って出る薔薇寮寮長が閉めて本日の華央会は解散になった。