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昼休みは僅か

昼休みも後わずか。

生徒たちも皆、考えていることは同じなのか、廊下などにも姿は少なかった。

そんな廊下を駆け抜け、后は朝まで滞在していた医務室に向かう。


「失礼します!」

医務室といいながらも、この学園はやっている事が事だけに重傷を負ったりなど日常茶飯事。医務室として一つの建物が用意され、保険医を務めているのは医師免許を持つ高度な治癒能力の使い手だったりと、生徒たちがどんな怪我を負おうとも治療できるようになっている。

簡単な入院設備も揃っていて、私も今日の朝までここで眠っていた。

一日・二日の安静状態にする為の入院設備で、本格的な入院の必要があるけが人・病人は島の中にある病院に移される。だけど、一週間眠っていた私は、南条理事の指示によってここにいたのだそうだ。そりゃあ、世界最高の治癒能力を持つ『慈水王』の治療で完治して、ただ眠っているだけとお墨付きを貰ったのなら、ここでもいいかも知れないんですけどぉ・・・


医務室に駆け込むと、そこには保険医の門倉先生がいた。他に人はいない。

「六衡さん。病み上がりで走るのも、廊下を走るのも止めなさい。」

穏やかな物言いをする、草食系男子っていう言葉が似合う門倉先生。

まぁ、あれだけ足音を立てて走ってきたのだし、叱られてもしょうがない。


「それよりも、先生。私が寝てる間に、誰か来ましたか?」


昼休みの終わりも間近。

先生のお叱りを大人しく聞いている時間は無い!

申し訳ないが、ちゃっちゃと質問に答えてくださいな!


「誰か?色々な人が来たよ?

 君のクラスメート達に先生方。清水君やヒュードル君。

 あぁ、後は峰越さんと真木君も来ていましたね。」

峰越?真木?

誰っすか?それ・・・

「えっっと、峰越さんと真木君っていうのには覚えが無いんですが?」

「そうなの?大学の院生と一年の子だよ。峰越歌依さんと真木逸紀君。」

やっぱり、分からない。

そもそも大学に知り合いいないし。

「それで、どうしてそんな事を知りたいんですか?」

「あぁ、起きたらこれを持ってたんで、来てくれた人の奴握り込んじゃったのかと思って。」

そういう癖があって。と恥ずかしく思いながらも、伝えておく。

ピンクのクマのキーホルダーを、門倉先生の前に吊るす。

それを見て顔を和ませた後、門倉先生が何かを思い出したらしい。

「そういえば、3日前くらいにいは手の中に何か持っていましたね。固く握っていたので放っておいたんだけど。これだったんだ。そういえば、チェーンや耳は見えてたかな」

「3日前・・・」

「あ、早々。その頃に真木君に留守番を頼んだんだ。彼に聞いてみれば分かるんじゃないかな」


ここの大学、人少ないから行けばすぐに見つかるよ。

そう言われて、時計を見れば昼休みが終わって数分が経っていた。

あっやばい!

そう呟いた私に、門倉先生が苦笑を浮かべながら、医務室にいたという書類を作ってくれた。いや、本気で門倉先生に感謝ですよ。


頭に疑問符を浮かべながら、教室に向かって全力で走る。

教室に戻った後に、「医務室から走って帰ってくるなよ。調子悪そうに帰ってくればいいのに」と涼たちに笑われることなんて、そんな事頭に無かった。







「何か、御用ですか?」

后が医務室へと慌てて駆けて行った後、私はこちらの様子をずっと窺っていた人に声をかけました。視界を支配する力の応用として、人々の意識を逸らして周辺に立ち入らせないようにしてあったのだけど、この人は立ち去る事もせず、ずっと話を聞いていました。

私が感じていた違和感のある気配を纏っていたので放って置いたのですが、后の話から考えると使い魔の人なのでしょうね。だというのなら、王の加護を受けている。父や母の子である私も、王本人の力に影響を及ぼすことは出来ません。


「いや。ただ、姫君に御挨拶を、と思ったまでで」


木々の間から出てこられたのは、作業着姿の男性でした。


どなたの使い魔なのか。

私の存在は、父や母の立場・事情から完全に隠されています。

両親が私に会いに来てくれるのも、常から細心の注意を払ってのこと。特に、母の目を盗んで私のことを知ることは不可能でしょう。

私の存在を知っている王はいることにはいるのですが・・・


「俺は、用務員をしている武嶋康太。『火焔王』の使い魔です。」

「まぁ。」


『火焔王』様なら。

父の一族が率いる組織と対等に渡り合っている傭兵組織を率いている方ですね。

何度か誘拐されそうになった事もありますから、確かに私のことを知っていても仕方ありません。他の方だったら、どうしようかと思いました。

『火焔王』は母とは懇意にしていますから。誘拐されそうになった時も、父を呼び寄せたら母の下に届けてくれると仰っていた程です。


「今度、うちの『火焔王』がここに来るんで、姫君には細心の注意を図って頂きたく。姫君に何かがあって、あの男と母君に総攻撃を喰らうのだけは、組織としても回避したく。」


「『火焔王』が?ここは戦場では無いのに?」

あの方は、戦うことが何よりも好きだと言っていらっしゃる方です。王としての力を使わず、仲間を集って戦場に出る。部下や信奉者に傅かれる王たちの中にあって異色で有名です。

そんな方が学園に来る?


「あの人。『夢王』が大嫌いでして。

 ここに来れば『夢王』を殺せるって暴走を始めたんですよ。」


困ったように笑う武嶋さん。

でも、王を止める気は無いようですね。



后が怪我をしないといいのだけど。

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