おかしな森②
「この森はね、時空間を司る妖精王によって隔離空間になっているんだ。」
青々と広がる原生林に驚いている私と琴音に涼が説明してくれる。
「広さは島よりも大きくなっているんじゃないかな?
森の中には、妖精王が連れてきたり、歴代の学生が任務の時に保護した異形が住んでいる。
貴重な植物なんかもあって許可が無いと生徒も入ることができない場所なんだ。」
森に足を踏み入れてすぐ、少しだけ木々の開けた場所を見つけた。
「森の入り口を潜ると隔離空間にある10の入り口に飛ばされるようになっている。
そして、妨害役は森の境界から一キロは攻撃を仕掛けてはならないと決められている。
ここなら、妨害される危険もない。」
清水先輩の説明で、ここで一端腰を落ち着かせることにした。
「俺の役目は、君達のフォローだ。どう動くかは君達が相談して決めてくれ。
危険と判断しなければ、俺から手を出すこともない。」
「質問です。この実習でのゴールは何になるんですか?」
涼が手をあげ質問する。
自然と涼が班のリーダーのようになっている。
まぁ適任だね。
「森の何処かに妖精王の祠がある。それに触れ森を出ること。
それが達成条件だ。」
「祠ってどんなものなんですか?」
うぉっ めちゃ微笑まれた。
「それを考えるのも実習の内だ。
実際の任務では終了条件が開示されていないものも多々あるからな」
面倒くさそうだな・・・
ていうか、清水先輩の微笑み強烈だなぁ
傷だらけのヒロインを横抱きにして微笑みを浮かべて能力を使う一枚絵
ノートパソコンのデスクトップに使ってました。もちろん、家用だけどね。
悲しむべきは、それがヒロインが戦闘狂に襲撃された直後だってこと。
私は戦闘狂になる気は一切ないけど、このままゲームが進めばヒロインのモノになる攻略キャラにときめいたって無駄なくらい分かってる。
「森の中での怪我は全て森を出ることで無かったことにされる。
死ぬと強制的に森の外に出される。
思う存分に攻撃を仕掛けてもらってかまわない。
・・・そろそろ外でも説明が終わった班から中に入ってくる頃だろう。
先に進もう。・・・騒がしいのは好きではないからね。」
「あっはい。」
「役割分担は決まっているのかな?」
「決まってます。琴音ちゃん、周囲の様子は分かる?」
リーダーと勝手に決めた涼が指揮をとる。
要も琴音も文句はないよね、やっぱり。
「大丈夫。危険な視線は感じないわ」
一瞬だけ目を閉じた琴音が自信を持って言い切る。
「危険な視線って?」
「視線を借りると少しだけその相手の感情が分かるの。好意、歓喜、敵意、憎悪。
後は、大体の方向かな。」
一歩引いて、胸の前で腕を組んで私たちの様子を伺っていた清水先輩も関心を示す。
ふふふ 私の琴音は凄いんだぞ。F組ってだけで侮ると痛い目みるんだから。
「それで何でF組なんだよ。」
よく言った。褒めてあげるよ、要。
「範囲が一キロ以内だし、相手に気づかれたら終わりだから。」
なんやかんやで私たちの班は順調に森の中を進んでいく。
「要君の斜め右先に人がいるわ。まだ、こちらに気づいていない。」
「まっすぐ先の木の上に異形かな?他の班を狙っているみたい。」
琴音が周囲の様子を探って、
「あの先輩、後5歩歩いたら転ぶから要やっちゃって」
「大蜘蛛が琴音ちゃんに襲い掛かったら、山犬が横から出てきて足を噛み千切るよ」
涼が見つけた敵を悲惨な目にあわせていき、
「目標、前方にいる先輩たち」
「おい。前方どころか後ろにまで撃ってくるな」
「だって、反動すごいんだよ・・・マシンガンって」
「あほか」
「僕がいなかったら、こっちが全滅なんだから気をつけてよ、后ちゃん」
「ガトリングガン、いっきま~す」
「何人か、木に隠れて倒せてないよ」
「ちっしかたねぇなぁ」
私が銃器ぶっ放して、その後始末を要がして、
(あれ、私戦闘狂っちくじゃないか?)
なかなかなスピードで進んでいるけど、今のところ祠らしきものは発見できず。
「ここらへんで一回休憩しようか」
ちょうどいい感じの切り株(直径二メートルはあるような)を見つけたので全員で座り込んだ。
足場の悪い悪路と戦闘で、はぁはぁと息切れする私たち。汗が流れ落ちる。
清水先輩は息切れ一つ、服の皺一つも乱すことなく、座り込む私たちの傍らに立っている。
流石です。痺れます。
「六衡」
「えっはい?」
タオルで顔を拭いていると、清水先輩が目の前に立っていた。
「足を見せてみろ」
「ふぇ」
言うよりも早く、清水先輩が膝まづいて私の足を持ち上げた。
突然のことに後ろ手を切り株においてバランスをとるのに精一杯。
抵抗も無く右足の運動靴が脱がされる。
琴音たちも三人も驚いた顔をしながら覗き込んでくる。
姫君にミュールをはかせる王子様って一枚絵、なんかのゲームで見たなぁ
遠くに行きかけた意識が、前世でやった他のゲームに辿り着く。
っていやいや。
これは、もしかしてバレタかな?
「やはり。無茶をしたな」
靴と靴下を脱がされた右足首は真っ赤に腫れ上がっていた。
なれない山道を歩く途中にうっかり挫いてしまっていたわけで・・・
三人の後ろを歩いていて気づかれていないことをいいことに黙ってたんだよね。
最初は、そんなに痛くなかったし・・・こんなに激痛になるなんて思ってもみなかったし・・・
「生憎、治癒能力はない。冷やして応急処置とするしかないな。」
清水先輩は懐からまっさらなハンカチを取り出すと琴音に渡した。
さすがは清水先輩。そうそうアイロンがしっかりかかった白いハンカチを持った男子高校生なんていませんよ。
「ここから少し進んだところに小川が流れている。
彼女は俺が見ているから、三人で濡らしてきてくれ。」
「分かりました。」
涼が頷く。押し付けられたリーダーだけど、責任を感じているのかな。申し訳ないことをしちゃった。
「・・・・・・きみ・・・無茶しないで」
「ごめん、ごめん。・・・涼も要も、ごめんね。」
「行って来る。大人しくしてろよ」
なんとなく、要の中で私は目を放すと危ないやつになっている気がしてるだけど。
何回か銃弾浴びせそうになったの、根に持ってるのかも・・・
この実習終わったら、何か奢らせていただこう・・・
三人の背中が木々の間に消えていく。
数メートル動くだけで太い木々のせいで視界が悪くなる。
私の能力にとっては厄介な場所だよね。
「痛むか」
「我慢できないほどじゃありません。すみません、迷惑をおかけして」
嘘。ちょー痛い。でも我慢。これ以上清水先輩に迷惑をかけるわけにはいかない。
それにしても、二人っきりって気まずい。
早く帰ってきて、琴音。
「六衡」
清水先輩と目があう。
っというか、できれば足を離して頂きたいのですが・・・
恥ずかしさのせいか、清水先輩の声がいつも以上に耳の奥に響いて聞こえる。
やばい。顔、赤くなってないよね。
「『おっぱいパフパフは挨拶にはいるかなぁ』」
は?
ゲームの一枚絵でも、
ここまで森を進んでいる間でも、
二次創作の薄い本でも
流れるように見たサイトでも、
絶対に見る事のなかった、清水先輩の満面の笑み
そこから放たれたのは、超ド級の爆弾発言でした(遠い目)




