彼の夢
昨夜、夢を見た。
彼の夢を見た。昔の彼氏だった。すごく昔の彼だった。
彼は今までも何度もわたしの夢に現れてる。
いつも、わたしの実生活の中で、何かしら問題がある時に彼はやって来る。
わたしの夢の中に。
「な~に?
そこで何をしているの?
わたしを助けられる?
わたしに何をしたい?」
彼を見つめながら、わたしは色々と考える。
でも彼は、ただそこにいるだけ。
ただ黙って静かにわたしを見つめているだけ。
*
わたしたちは、彼の部屋で魚を食べているの。
「これ、そんなに高くないんだ。でもうまいよ。」
「そうね。おいしいわ。」
わたしは魚をひっくり返して、箸の先で魚の身をほぐしながら言った。
彼の部屋にはハムスターが一匹いた。
「本当は好きじゃないんだ。」
彼は、わたしを見つめながら言った。
「彼女の? 今一緒に住んでいる彼女の? このハムスター?」
「ああ。」
彼はいつもこんな感じだ。
彼はいつだって言わない、今何を考えているのか、何を想っているのか、
何が嫌いなのか、
いつも何も言わない。
彼のすぐそばにいる人にだって。
*
そのハムスターはすばらしくお利巧ちゃんだった。
わたしの目の前で、すばらしいトンネルを、すばらしい速さで作り上げてしまった。
「わ~っ。すごいね。すごく綺麗、ねっ?
かわいこちゃん、すっごく上手よ。」
わたしは続けた。
「彼が上手に何かをやったら褒めてやるといいわ。
彼、すごく喜ぶよ。」
「あぁ、そうだね。」
彼が言った。
彼はそんなに幸せそうには見えなかった。
これが、わたしの望みだったの?
これが、わたしが彼に望んだこと?
ええ。たぶん・・・。
*
わたしたちは海岸に出た。
わたしがトイレを探して戻って来ると、
もう彼の姿はなかった。
その時、わたしはもう彼には会えないと思った。
それでいいんだ、と思った。
それがいいんだ、と思った。
だからそう思うことにした。
そうするしかなかった。