最果て
「いくよ!」
ぱっと鳥の姿が消え、落ちる私たちの下をソラの巨体が横切った。
水の中に落ちたような音、細かい泡がブクブクと背鰭のほうへ舞い上がる。ガラス玉の中に居るみたい、でも体は重力を感じない。
少しだけ暖かさがある。
じわじわと街を侵食していく黒い色、目を凝らすとそれよりもさらに暗い闇が地平線に沿って広がっている。
「最初はあんなもの気付かなかった。どこまでも続いてるんだと思ってた」
「お姉ちゃんが意識したから見えたの」
この世界って何か変。意識しないと見えないなんて、それって見る価値あるのかな。見なくても良い世界ってことなんじゃないのかな。
見えなければ良かったんだ、全部。
漆黒の壁、上下左右、どこまでも伸びてる。穴なんて開けられるの?
「開けられなくてもいいよ、ソラ。あなたと一緒なら死んでもいい」
ソラは壁の前で何度も行ったり来たりしながら助走のタイミングを計っているようだった。尾が玩具みたいにくねくね揺れてる。数分すると壁と向かい合ったままピタリと止まった。
動く。全身全霊の体当たり、必殺技にしてはかっこ悪いけど大人なんてこんなもん。
グッ
体が後ろに持っていかれる。圧力、息を吸う間もない、何も聞こえない。ソラの体内が熱を帯びる。
「あなたは私の幻覚?」
「いつも煙草吸ってますね」
「優子、もっと飲みなよ」
「私はどうなるんだろう、いや、私にどうさせたいの? あなた、話せるの?」
「どうしてものに色がついているのかわかる?」
「できるよ。あなた言ってたじゃない、青は命の色だって。できないわけない。ソラにできないわけない」
ソラ……。