衝突 2
ソラのミサイルのような体当たりを鳥はギリギリで避け、表皮を二、三回突く。しかし鳥の嘴は短いため、ソラの内臓まではとても届かない。ソラの尻尾が弧を描きながら鳥へと叩き込まれる。しかしそれさえも少女の口笛によって簡単に避けられてしまった。
少し強い風が吹く。
「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんより早くここにたどり着いてたんだよ。だから色の扱い方だってちょっと上なの。お姉ちゃんの色は私より力は強いみたいだけどまだまだ迂闊だよ。堅い肌だって柔らかいところがある。何よりその子遅すぎるよ」
自分の力を過信している相手ほど隙が生じる。そこを狙えば私の勝ち。テニスだって同じだ、私はソラを再び鳥のところへ突進させた。空間を歪ませそうなほど強大なパワーに少女も少しだけ反応した。
今だ。
パァン
渇いた音が闇の中に響く。私の平手打ちを受けた少女は驚きと恐れでその場に倒れこんだ。鳥への突進は避けられたが振り向きざまの頭突きが鳥の背を襲い鈍い音がした。
「あ、あ」
少女は目から涙をポロポロ流しながら声にならない声を上げた。ちょっと大人げなかったかな。でもこれぐらいしないとあの鳥の動きを止められないと思った。
「ごめんね、私子供だとかそういうの関係ないの。だからこれ以上続けるんならもっと痛い思いしてもらうからね」
形勢逆転、少女の鳥はいつの間にか音も無く消えていた。
「お姉ちゃん、もう許さない。お姉ちゃんとなら上手くやっていける気がしたのにさ、あんなに自分独りで苦しんでたのに、いざとなったら恐がってみんなと一緒になっちゃうんだね。教えてあげる。あのでっかい黒は私が作ったの」
少女は半ば叫ぶようにして語り始めた。
「色んな色を混ぜると真っ黒になっちゃうの。ここにやって来た人、一杯居たよ。でもみんな私と友だちにはなれないって。寂しいからね、自分で色を作っちゃえばいいんだって思った。だからお姉ちゃんも私の黒に混ぜてあげる」
少女の周りを一層濃い黒の霧が包み込む。
これじゃ本当にゲームの世界だな、やっぱり子どもが考えることはおもしろい。本気でこんなことが出来るその精神力が凄い。私も昔はそうだったのかな。
凄い吐き気と寒気がする。とにかく逃げないと私殺されちゃう。
でもこの世界で死んだら現実では存在がなくなるとか言ってたな。誰も悲しまないし、気付きもしない死に方なんて私が求めてたものじゃないか。
ああ、でもなんだかもう一回会社の屋上から夕焼けを見たいな、このソラと一緒に。