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7.兄と妹

 夕方王宮からジェレミーが戻って来ると、早速ジェニーは、王都警備騎士団からの要請について話した。

 ジェレミーは、驚いた顔をしていたが、依頼に関心を持ったようでもあった。


「君が考えたとおり、先日わたしが呼び出されたのは、スタインズ侯爵家の別邸で間違いないようだね。騒動の詳細に興味はないが、少年があの後どうなったかは気になっていたんだ。君が、屋敷に出入りすれば、少年の現状を知ることもできるかもしれないな――」


「そうでしょう? スタインズ侯爵家は、どうしても少年のことを表沙汰にしたくないようだから、こういう機会を利用しなければその後のことはわからないと思うの。王都警備騎士団からのお話、お引き受けしてもかまわないわよね、お兄様?」


 少しだけ身を乗り出すようにして、じっと見つめてくるジェニーの顔を見ながら、ジェレミーは一口茶を飲んだ。



 彼は、王宮で魔道士団の会議に出ているとき、突然胸がざわつき、屋敷にいる妹の心がひどく高揚しているのを感じ取った。


(やれやれ、またグレネル辺りが、ジェニーを喜ばせようとして怪しげな話を持ち込んだようだな? これは、帰宅したら真っ先にきき出す必要がありそうだ――)


 何ごともなかったかのように冷静に務めを果たし、ジェレミーは屋敷に戻ってきた。

 案の定、待ちかねたように出迎えたジェニーは、そのまま彼を居間へ引っ張り込み、グレアムの訪問について話し始めたのだった。


 ジェレミーの許可を待っているような口ぶりだが、実際は、すでに二人の間で話はまとまっていて、ジェレミーがうんと言うまで、ジェニーはけっして引き下がらないつもりだ。

 毎度のことなので、心の中で大きな溜息をついてから、ジェレミーは口を開いた。


「わかったよ、ジェニー。ほかならぬグレネルを通しての頼みでは、彼の出世のためにも断るわけにはいかないね。ただし、どんなに興味があっても、頼まれたこと以上のことをしてはだめだ。王都警備騎士団に、迷惑をかけることになるかもしれないからね」


「もちろんだわ。でも――、庭師の少年の事件に、エリアル嬢が関わっているとなったら話は別よ。彼女の周囲で起きた過去の事故や事件について、調べる必要が出てくるかもしれないわ。個人的な興味ではなく、あくまで少年の事件の真相を明らかにするためにね――」


 ジェレミーには、瞳を輝かせながら熱弁をふるうジェニーが、なんだか眩しかった。

 彼女は、間違いなく人並み外れて好奇心が旺盛なのだが、同時に道理に反することを嫌う。

 もし、彼女が自分と同じように人の命を救う魔術を使えたなら、熱意と信念をもって自分以上の働きをするかもしれない――そんな思いは、つねに彼の心の中にあった。

 だが、神は無慈悲にも、彼女に真逆の力を与えてしまった――。


 せめて彼女の人生が、明るく希望に満ちたものになるよう、兄として、双子の片割れとして、自分が全力で支えていこうとジェレミーは考えている。


「しかたがないね。そうなったときは、それもやむを得まい。その代わり、君がスタインズ侯爵家を訪ねた日は、必ず毎回報告書をまとめ、王都警備騎士団だけでなく、わたしにも見せると約束してくれ」


「さすがお兄様、お許しくださりありがとうございます! 報告書は、忘れず書きます!」



 「できるだけ」という言葉は飲み込んで、ジェニーは笑顔で兄に返した。

 二人の話が終わるのを待っていたように、クレアが、夕食の支度が整ったことを知らせに来た。

 

「王都の近くの村から、釣ったばかりのマスを漁師が売りに来たんです。モートンが、マスに香草を詰めて、野菜も加えスープごと蒸し煮にしたそうです。淡泊な味で身は柔らかですから、お疲れの体でもきっと美味しく召し上がれると思いますよ」


「それは、楽しみね! さっ、お兄様、難しい顔をしていないで、温かいうちにいただきましょう! ほら、行きますよ!」


 嬉しそうに居間を出ていくジェニーの後ろ姿を見て、ほっとしたのも束の間、ジェレミーは少し心配になった。


(グレネルのやつせっかく屋敷へ来たのに、ジェニーへ頼み事だけして帰ってしまったのか? 外出の誘いでもすればいいものを、相変わらず気の利かない男だな。いや、もしや――、好きな女でもできたのか!? まさかとは思うが、ちょっと調べてみる必要があるな)


 職務上、ジェレミーが親しく付き合える人間は限られているが、王都警備騎士団の上層部にも知り合いがいないわけでない。

 それとなくグレネルの身辺調査に取りかかることを決めると、廊下に漂う香草の香りに誘われるように、ジェレミーもわくわくしながら食堂へと向かった。


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