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11.ミエス・フェレンツ

「ジェニー嬢、彼がカイル・ブロムリーです。昨年、王国騎士団員の試験に合格して、こちらへ配属になったばかりの新人ですが、なかなか見所のある若者です。カイル、調査協力をお願いしているジェニー・ダフォード嬢だ」


 二人は、挨拶を交わすと、すぐに本題に入った。

 カイルは始めに、少年の兄の記憶を元に仕上げた姿絵を紙束から取りだして、ジェニーの前で広げた。髪の短い、少し幼さが残る顔が描かれていた。

 そして、調書を見ながら、少年の素性についてジェニーに説明した。


「少年の名前は、ミエス・フェレンツと言います。実家は、二代ほど前に、王家の離宮建設のために外国から渡ってきた石屋で、今は兄が後を継いでいます。カイルは、もともと石の加工よりも植物の栽培を好み、知り合いの口利きで庭師の親方に弟子入りしました」


 一年ほど前スタインズ侯爵邸から組合(ギルド)へ、「若い見習庭師を一人寄越して欲しい」という話があり、まだまだ修行中ではあったが、将来のことも考えてミエスが行くことになった。

 いずれは現在の庭師に代わり、正式に侯爵邸の庭師にしたいという大変いい話だったので、彼の家族はもちろん、組合や親方も大いに喜んで彼を送り出した。


「ミエスは、力持ちで手先が器用な上、真面目で研究熱心だったので、侯爵邸の庭師にも可愛がられ仕事は上手くいっていたようです。休みになると、お屋敷のお嬢様が菓子などを土産に持たせてくれるので、甥っこや姪っこだけでなく、近所の子どもたちにまで渡していました」


「まあ、エリアル嬢が、そんな気遣いを――」


「ええ。上級貴族のお屋敷勤めということで、兄夫婦は、最初ずいぶん心配していたそうです。でも、じきに仕事や環境にも馴染んだようで、『俺は、お屋敷のために心を込めてご奉公するんだ』と、ミエスは繰り返し言っていたとのことでした」


 若いが、言いつけを守ってよく働く彼は、屋敷では重宝がられていたようだ。

 屋敷内に、そういう彼をうらやむ古参の使用人がいたとしてもおかしくはない。

 だが、そんなことはよくある話で、毒殺未遂事件の原因とは考えにくい――。


「お話を聞く限りでは、ミエスが、屋敷の中で怪我をするようなひどい仕打ちを受けたり、争いごとに巻き込まれたりしていたとは考えにくいですね。そうなると、屋敷の外での彼の言動に原因があるのかもしれません。例えば、博打好きで借金を抱えていたとか、お屋敷に内緒で悪い仲間と付き合っていたとか――」


「いや、それはありません。ミエスは、まだ十六ですよ! 彼が、いかがわしい場所に出入りしていたという噂も聞きません。もしかすると『投げ文』そのものが、スタインズ侯爵家への嫌がらせか悪戯の類いではないかと言う団員もいるくらいです」


 どうやらジェニーの働き次第では、侯爵家の執事の言葉通り、ミエスは領地屋敷の手伝いに行かされているということになり、事件はもみ消されてしまうらしい。

 本当のことを言えないもどかしさを感じながらも、ジェニーは何度かうなずき、カイルの説明に納得したことを伝えた。


「よくわかりましたわ、カイル殿。確かにミエスは、お屋敷での務めや人間関係で、問題を起こすような人物ではないようです。わたくしも、この後庭師組合(ギルド)を訪ねて、組合やその周辺の店などで、わたくしなりにミエスに関する話を集めてみようと思います」


「でしたら、わたしがご案内しましょうか?」


「ありがとうございます。でも、その必要はありませんわ。わたくしは、王都警備騎士団の方には、話しづらそうなことを聞き出してこようと思いますので――」


 オーガスタスは、二人のやりとりを興味深く眺めていた。

 ジェニーが言うように、市井(しせい)には「警備騎士団」と聞いただけで、口が重くなる人間は少なくない。逆に、尋ねられてもいないことまで、作り話も交えて大げさに語る者もいる。

 何の肩書きもない人間が、世間話でもするように尋ねた方が、有益な情報が引き出せるのかもしれなかった。


(『聞き上手』というのは、『尋ね上手』ということなのかもしれないな――。シャーロットは、『ジェニー嬢は、独特の感性をお持ちのようよ』と言っていた。ここは、彼女の力を信じて自由に動いてもらうとするか――)


 オーガスタスは、改めて礼を言い立ち去ろうとするジェニーへ、思い切って声をかけた。


「ジェニー嬢、一つお願いを聞いていただけますか?」


「お願い? どのようなことでしょうか?」


「明日にでも、グレネル副団長をお宅に伺わせますから、今日、組合(ギルド)でわかったことをそれとなく彼に話してくださいませんか? あなたが受け止めたそのままに――」


 ジェニーは、小首を傾げて、ちょっと面白がるようにオーガスタスの顔を見た。

 オーガスタスも、期待を込めて彼女を見つめた。このちょっと変わった令嬢が、行き詰まりつつあるこの案件を、明確な解決へ導いてくれそうな気がしていた。

 ジェニーは、小さな溜息をついた後、明るい声で彼に答えた――。


「わかりました。いつものように、美味しいお菓子とお茶を用意して、グレネル様をお待ちしておりますわ。どうぞ、よろしくお伝えくださいませ!」


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