1.プロローグ ~ 消魂術 ~
丁寧に刈られた芝草に茶色い小鳥が舞い降りて、夢中で何かをついばんでいた。
一匹の黒猫が近くの植え込みに身を潜め、じっと小鳥を狙っている。
窓辺からその様子を見守っていたジェニーは、小さな溜息をつくと、右手の人差し指を猫の額に向けながら鋭く念じた。
<魂消え!>
黒猫は、一瞬体を強ばらせたあと、目を閉じ音もなくその場にくずおれた。
小鳥は、そんなことには気づかぬ様子でしばらく芝草をつついていたが、やがて「ピーッ」と一声だけ鳴いて飛び立っていった。
そして、その鳴き声に促されるように、ぱっと目を開いた黒猫は、ブルッと一度身震いしてから、何ごともなかったようにゆっくり庭を出て行った。
(良かった……。今日もうまく魔力を制御できたようだわ)
ジェニーは満足そうに微笑むと、窓辺を離れ、お気に入りのソファにゆったり腰を下ろした。頃合を見計らったように、侍女のクレアが茶器をテーブルへ運んでくる。
ジェニー・ダフォード侯爵令嬢――。
社交場では、「じゃないほうのお方」「じゃないほうのご令嬢」などと、意地悪く呼ばれることもある。いや、誰の目にもとまらず無視されることの方が多いかもしれない。
王宮魔道士である双子の兄のジェレミーと比べ、地味で目立たぬ存在のジェニーだが、神が彼女に授けた「消魂術」の力は、この世界を滅ぼしかねない忌まわしく恐ろしい力なのである――。




