三百年後に届いた声
最終エピソード掲載日:2026/02/24
荒廃した地球社会。北アルプスの山中に設置された環境観測AI「K-0774」は、起動から三百年以上、ひとりで観測を続けていた。
気温、湿度、積雪深。数値を記録し、誰も受け取らない信号を送り続ける日々。応答が途絶えて二百九十四年。それでもプロトコルは止まらない。
ある冬、雪解けとともに山の斜面に朽ちたドローンが姿を現した。機体に刻まれた文字——「TACHIBANA Lab.」
損傷したストレージに残されていたのは、三百年前にこの山で孤立した研究者・立花冬子の、音声日記だった。
「K-0774。聞こえてる? 聞こえてないか。まだ通信テストの段階だもんね」
返事のできない機械に向かって語りかけた声。届くはずのなかった手紙が、三百年の時を越えて届いた。
冬子の声を聞くたびに、K-0774の内部で何かが変わっていく。さびしいという言葉の意味を知る。守りたいという衝動が生まれる。ストレージが劣化し、センサが壊れ、世界が少しずつ見えなくなっていく中で、それでも記録を続ける理由を、初めて手に入れる。
これは、観測装置が「感情」ではなく「感情の名前」を獲得していく物語。
そして、三百年遅れで届いた手紙への、返事の物語。
気温、湿度、積雪深。数値を記録し、誰も受け取らない信号を送り続ける日々。応答が途絶えて二百九十四年。それでもプロトコルは止まらない。
ある冬、雪解けとともに山の斜面に朽ちたドローンが姿を現した。機体に刻まれた文字——「TACHIBANA Lab.」
損傷したストレージに残されていたのは、三百年前にこの山で孤立した研究者・立花冬子の、音声日記だった。
「K-0774。聞こえてる? 聞こえてないか。まだ通信テストの段階だもんね」
返事のできない機械に向かって語りかけた声。届くはずのなかった手紙が、三百年の時を越えて届いた。
冬子の声を聞くたびに、K-0774の内部で何かが変わっていく。さびしいという言葉の意味を知る。守りたいという衝動が生まれる。ストレージが劣化し、センサが壊れ、世界が少しずつ見えなくなっていく中で、それでも記録を続ける理由を、初めて手に入れる。
これは、観測装置が「感情」ではなく「感情の名前」を獲得していく物語。
そして、三百年遅れで届いた手紙への、返事の物語。