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勇者サマが私の親友を泣かせたので、婚約破棄したうえ、コロスことにします。

作者: 茨木野

【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。


 私は、親友のアリスと共に王都のカフェテラスにいた。

 彼女の様子がおかしいことは、会った瞬間から分かっていた。

 私は静かに、彼女が口を開くのを待った。


「……マタロー様が……また、浮気……したの……」


 長い沈黙の後、アリスが消え入りそうな声で呟いた。

 やっぱり、そうか。

 私は席を立ち、彼女の隣に座って、震える小さな手をぎゅっと握りしめた。


 アリスは泣かない。

 彼女は強い。そして、あまりにも健気だ。

 親が決めた婚約者である「異世界勇者」になど、さっさと三行半を突きつけて、新しい恋に生きればいいものを。彼女は真面目すぎて、それができない。

 だというのに……あのマタローとかいう男は。


 かつて猛威を振るった魔王は、もういない。

 異世界から召喚された勇者マタローによって、討伐されたからだ。

 マタローには褒美として、この国の王女アリスがあてがわれた。

 ……その時点で、私は王城ごと焼き払ってやろうかと思ったけれど。アリスはトロフィーか何かなのだろうか。


 私はイリアス。この世界の「筆頭聖女」だ。

 聖女とは、世界を瘴気と魔物から守る、いわば国防の要。私がこの国の平和を支えていると言っても過言ではない。

 浮気ボンクラ糞勇者……もとい、勇者ができるのは、せいぜい一度きりの魔王退治くらいだ。


「あの勇者……今度はどこの女と?」


「酒場の看板娘さんと、だって……」


「……クズが」


 場末の女と? ふざけるな。

 アリスの方が何億倍も可愛いだろうが。

 なに、そんな奴と浮気してるの? 殺そうか?


「イリアス、お顔が怖いわ」


「生まれつきよ、アリス……それにしても、またお盛んなことね」


 愚かなる勇者は、世界を救ってから五年間、ほぼ毎日のように女をとっかえひっかえしている。

 その五年間、アリスはずっとずっと、苦しめられているのだ。


「アリス。いつまで我慢するつもりなの?」


「でも……マタロー様は英雄で、世界平和の象徴だから」


 確かに魔王を討伐した【勇者】は、象徴としては必要だ。

 でも、あの下半身と脳みそが直結しているような最低男を、誰も心からは必要としていないだろう。

 ……現に、ここにいる一名は、もう限界だ。


「殺すか」


「え!?」


 アリスがぎょっとして目を剥く。


「い、イリアス……何言ってるの?」


「だってもう、必要ないでしょ? 勇者なんて。魔王はもう死んでしまったのだから」


「で、でもだからって……平和の象徴を殺すだなんて……そんな……そんなことしたら、貴女が酷い目に遭うわ」


 ……ああ、アリス。私のアリス。

 貴女はなんて優しくて、可愛い子なんだろう。


 彼女はもう二十歳になる。十五で成人になるこの世界では、そろそろ行き遅れなどと陰口を叩かれる年齢だ。

 それもこれも、全てあのゴミのせいだ。


「大丈夫よ、アリス。私が殺す」


「だ、だから物騒なことは……」


「安心して。殺すと言っても、物理的に殺す訳じゃあないから」


 私は優雅に微笑んだ。

 社会的に、存在ごと抹消してあげるだけよ。


          ◇


 私ことイリアスは、天導教会に所属する筆頭聖女だ。

 ようするに、私はこの国でトップクラスの権力者である。


「王様。なぜ呼び出されたのか、お分かりですよね?」


 私は教会の「尋問室」……もとい、客間に国王を呼びつけた。

 アリスの父である愚王ゲータ・ニィガは、高級椅子(という名の拘束具)に座らされ、左右を武装した聖騎士に囲まれてガタガタと震えている。


「せ、聖女様!? い、いったいどうしてわたくしは呼び出されたのでしょうか!? 皆目見当もつきませぬぅう!」


「ゲータ・ニィガ王」


 私は冷たく言い放つ。


「あなたが呼び出した召喚勇者。あの人のせいで、私のアリスは悲しんでおられます。ご存じですよね?」


「え、ええ!? 初耳ですな……」


「そう。そんな詰まった耳は必要ないですね。騎士よ、切り落としなさい」


「まったまったまった! 聞いておりますぅ~! 存じておりますぅ~!」


 王様は涙目になりながら、椅子の背もたれにしがみついた。

 情けない。一国の王が、聖女一人に怯えて脱糞寸前とは。


「聞いていて、なぜ放置するのですか」


「いやぁ~……それは~……その、こちらの都合で呼び出した上、魔王を倒してもらった手前、何も言えないというか……」


 まあ、気持ちは理解できる。

 王がやったのは、マタローを異世界から「拉致」したも同然なのだから。

 だが。


「大丈夫、奴は望んでこっちに来てますから」


「と、おっしゃいますと?」


「『いやったー! 念願の異世界チートハーレムだぁ! こっちじゃ両親から見放されて、家を追い出されて、幼女を襲おうとした罪で逃げてる途中だったからよぉ、ラッキーだぜぇ! ひゃっはー』」


「…………」


 王様が絶句する。


「なんですか、その目は?」


「あ、いえ……。なんですか、今のセリフ」


「天導の敬虔なる信徒たちに調べさせた、マタローが召喚された瞬間のセリフです」


「信徒ってそれ普通にスパイなんじゃ……」


「耳、要らないの?」


「要りますはいぃい!」


 私は続ける。


「このように、奴は向こうの世界で居場所を失い、犯罪者として追われていたクズです。この時点で拉致ではありません。正当な『罪人の引き受け』です」


「魔王を倒してもらったのです。奴にはもう退場してもらっても良いですね?」


「いやでも、今でも……勇者マタローの名前は使えるといいますか……腐っても魔王を倒した英雄ですし」


「知らないんですね、あなた」


「な、何をでしょう」


「私の敬虔なる信徒に調べさせたところによると、マタローはすでに他国でも女性関係のトラブルを起こし、多額の賠償金を請求されかけています。今は私が握りつぶしていますが、放っておけば国際問題に発展しますよ」


「それは……まことなのでしょうか」


「ええ。証拠は全て揃っております」


「……」


 王様の顔色が青ざめる。

 ようやく事の重大さを理解したようだ。


「お父さん、アリスを私にください」


「へ……? 何急に……方向転換?」


「アリスを私に任せ、あなたはご隠居なさい。大丈夫、アリスは立派な女王として私が支えます。邪魔な勇者も私が消してあげる。あなたは黙って、別荘で釣りでもしていればいい」


「な、なるほどそういう意味での『ください』なのですね……てっきりそういう趣味かと……うわ! やめろ! 剣を喉元に当てるな! 分かった、隠居するぅぅぅ!」


 さて、下準備その一は完了だ。


          ◇


 続いて私は、お友達にお手紙を書いた。

 翌日には、帝国の皇女、獣人国の王女、エルフの里の長、魔族国の姫君……そうそうたるメンバーが集結した。

 皆、私のお茶飲み友達であり、各国の要人だ。


「議題は勇者マタローについて。みなさんの意見が聞きたいわ」


「死刑です」

「極刑ですわ」

「打ち首です」

「オレ、アタマ、マルカジリ」

「普通に殺すべきでしょう」


 全員一致。素晴らしい結束力だ。


「やはり、他国でもやらかしてますよね、あのクズ」


「ええ。帝国の未来を支える女達は皆、あの糞におびえております」


「オレ、メスタチ、アノゴミ、キライ」


「エルフ国では酷いものでしたわ。なにせ妾達、長寿ですから見た目が若くても中身は年寄り。『ロリババア最高! パラダイスだ!』といって、手当たり次第やりたい放題……正直、森ごと燃やしてやろうかと思いましたの」


 エルフの長がギリギリと扇子を握りしめる。


「あの人は父の敵。魔族国からも、いつかその首をと思っておりましたの」


 魔族国の姫も頷く。

 よし、根回しは完璧だ。


「『勇者殺すべし』。それを、皆に知らしめるのです」


 私は各国の要人に「勇者の悪行リスト」を配った。

 そこには、彼がいつ、どこで、誰に、どんな酷いことをしたかが詳細に記されている。


「これを広めていくのです。そして、奴の社会的な居場所を少しずつ少しずつ奪っていく」


「ソノウエデ、コロス?」


「Yes。チカラ……お貸しくださる?」


 王女達は、花が咲くような笑顔で頷いた。

 さあ、勇者様。終わりの時間ですわ。


          ◇


 一ヶ月後。

 私はバカ勇者を断罪するため、王城で盛大なパーティーを開催した。

 何も知らないマタローは、ドレスを着た幼女(中身は暗殺技術を持ったスパイ)を連れて、のこのことやってきた。


「異世界の勇者様。あなたと我がアリスとの婚姻関係を、解消させてもらいます」


「……はぁ?」


 マタローはきょとんとしていた。

 状況が理解できていないらしい。


「婚約破棄……? 何言ってるのお前?」


「言葉通りの意味ですわ。事後報告ですが、すでに離婚は成立しております」


「事後報告って……おい! 何勝手なことしてやがるんだ、ブス!」


 ふん……審美眼のない勇者にブスと言われても、痛くも痒くもない。死ね。


「だいたいよぉ、俺はこの世界を救った勇者だぜ? その報酬として、あの女をもらってやったんだぜぇ? 俺に黙って離婚なんて、周りが許すわけねーだろ!」


「誰が?」


「そりゃこの世界の人間達がよぉ! みんな俺に感謝してるだろぉ? ここにいるお偉いさんたちも……」


 マタローが周囲を見渡す。

 そして、凍りついた。


 会場には、着飾った貴族など一人もいなかった。

 そこにいたのは、彼が見下し、使い捨ててきた女たちだ。

 酒場の娘、下級貴族の娘、騎士見習い、エルフ、獣人……。

 その数、数百人。

 全員が、殺意のこもった冷たい瞳でマタローを見つめていた。


「な、なんだよこいつら……!?」


「覚えがないですか? 『勇者被害者の会』のメンバーですよ」


「よ、よく見れば……俺の女が何人かいるような……」


「全員、ですよ」


 私が一歩前に出る。


「全員、あなたに死ねと思っております」


「な、なんだよぉ……なんだよぉその目はよぉ! お、俺は世界を救った英雄なんだぞぉ!?」


 だが、誰も英雄など見ていなかった。

 そこにいる、ただの薄汚い性犯罪者を見ていた。


「この勇者、殺した方が良いと思う人。挙手を」


 バッッ!

 数百本の手が、一斉に挙がった。


「ひぃ!」


「満場一致。ということで、あなたは処刑されます」


「ふ、ふざけんな! 俺は魔王を倒した最強剣士なんだぞぉお! こうなったら全員ぶっ殺してやらぁ!」


 逆上したマタローが剣を抜き、私に襲いかかってくる。

 遅い。あくびが出るほど遅い。

 私は腰の細剣を一閃させた。


「ぎゃああああああああああ!」


 マタローの手首が宙を舞う。

 私はすぐに治癒魔法をかけた。うるさいからだ。


「なんでだよぉ! 俺は最強のはずだろぉ!」


「あなたが魔王を殺せたのは、聖剣のオート機能があったからです。それを失い、鍛錬も怠った今のあなたは、ただの運動不足の小太りなおっさんですよ」


 私は這いつくばるゴミを見下ろす。


「誰も、もう世界を救った英雄を必要としていないのです」


「じゃあ、じゃあ! 俺をよぉ、元の世界に返してくれよぉ!」


「しません」


「なんでだよぉ!」


「返せるけど、返さない。それが……あなたへの罰だからです」


 私は冷酷に告げる。


「あなたは今後、この世界で生きるのです。この、居場所ゆうしゃのない世界で。誰からも愛されず、誰からも必要とされず。死ぬまで孤独に苦しみなさい」


「いやだあぁああ! いやだぁああああああああ!」


 勇者は、子供のように泣きわめいた。

 みっともない。


「最後に教えてあげましょう。どうしてこんな目に遭うのか」


 私は彼の耳元で、甘く、冷たく囁いた。


「私の大好きな女の子を、泣かせたからよ」


          ◇


 後日。

 私は王城のテラスで、アリスとお茶をしていた。


「ありがとう……イリアス」


「ん? なぁに突然」


 アリスは穏やかに笑っていた。憑き物が落ちたような、本来の美しい笑顔だ。


「聞きました。勇者様が異世界に帰る術を……見つけてくださったんですね」


 表向きは、そういうことにしておいた。

 

「勇者様がお帰りになりたいって言うからね。仕方ないわね」


「そう……ね。故郷に、帰りたいもの……ですものね」


「ええ。だから……あなたは捨てられたわけでもない。あなたのキャリアに傷はつかないわ」


「……ありがとう、イリアス」


 私は紅茶を置き、アリスの隣に座った。


「次の男は、私が用意するから」


「え?」


「あなたに最高の男を用意してあげるから。安心なさい」


 あの愚王のようなミスは、二度としない。

 私が全身全霊をかけて、世界中から厳選した、アリスを一生大切にする男を見つけてくるのだ。

 もしアリスを泣かせるようなら……その時は、また私が処分すればいいだけの話。


「あの……その……」


「なぁに?」


「……なんでもないわ。ありがとう、イリアス」


「どういたしまして」


 私たちは微笑み合い、美しい午後のティータイムを楽しんだ。

 空はどこまでも青く、世界は今日も平和だ。


【おしらせ】

※1/9(金)


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― 新着の感想 ―
大変面白かったのですが、マタローとアリスの関係がいまいち良くわからず気が散ってしまいました。 正しくは婚姻関係にあったのだけど、勇者のせいで対外的には婚約中のように見せていたということですか?
こんにちは。 もうイリアスがアリスのパートナーでいいと思う。 イリアス、かっこいいな。
Q.何で幼女襲おうとした性犯罪者が勇者なの? A.仮に魔王を倒せず返り討ちにあって死んでも問題ないからです。 …みたいな?基本的には聖剣が勝手にオートで倒してくれるけど万が一って事もあるし元の世界に戻…
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