ミルクの過去
「私の家は、いつもお金がありませんでした」
暗い表情でミルクは話しだした。
「父が残した、莫大な借金があったからです。母は病気で体が弱く、病気を治すのにもお金が必要でした。借金取り達も毎日押しかけてきて、3日前、ついに家の中まで入って母をさらって行きました」
3日前というと、ミルクを森で助けた日だ。
ということは⋯⋯
「借金取り達は母だけでなく私もさらって行こうとしました。私はさらわれないように必死で逃げてきて、それで⋯⋯」
この森までやって来たってわけだ。
「私は逃げ切る事が出来ましたが、母はさらわれていきました。母が今、どこにいるのか、何をしているのか、生きているかどうかも、何も分かりません」
そう話すミルクの瞳には、涙が浮かんでいた。
「母は必死で私を逃がそうとしてくれました。『どうかあなただけでも、逃げ切って』母から聞いた、最後の言葉です。その姿が、ずっと頭から離れません。」
泣きそうになりながらも、彼女は必死に言葉を紡ぐ。
「今までは、たとえお金がなかったとしても、母と一緒に過ごせれば、幸せでした。でも、母がいなくなった今、私は何のために生きているのか分かりませんでした。レッドウルフに襲われて、逃げながらも、ここで私は死ぬんだ、って、心のどこかで諦めていました」
そこで、彼女はこっちに顔を向ける。
「そんな状況から助けてくれたのが、リツさんです。」
彼女は、ほんの少しだけ明るさの戻った表情で話す。
「リツさんに助けてもらって、一緒に過ごしている間は、母をさらわれた悲しさも、少しだけ忘れられました」
彼女は顔に無理矢理笑みを浮かべ、俺に感謝、そして別れの言葉を告げる。
「でも、これ以上迷惑は掛けられません。私を助けていただいて、3日間も泊めていただいて、本当にありがとうございました」
そう言ってドアを閉めようとする彼女の顔は、やっぱり悲しそうな顔をしていて、だからかも知れない。こんな、らしくない言葉をかけてしまったのは。
「一緒に、この家に住もうよ」
◇◆◇◆◇◆
「ご飯出来ましたよー!」
結局、ミルクはこの家に住む事になった。
食料は、HPが貯まり次第【食料自動追加】のレベルを上げて、量を増やすつもりだ。
「いただきます」
今日のお昼ご飯は照り焼きだ。え?照り焼き?照り焼き作れるような調味料家にあったっけ?
ミルクの料理スキルに驚きつつ、照り焼きを口に運ぶ。
全体的にパリッとした仕上がりになっていて、タレもあんまり濃くはないものの、俺好みの味付けだ。
「うん。今日も美味しいよ」
「ありがとうございます」
ミルクは、顔いっぱいに笑顔を浮かべて言う。
こうして、ミルクは以前よりも感情を表に出してくれるようになった。
「ミルク、前より笑うようになったよなぁ」
「はい。リツさんがあの時ああ言ってくれなかったら、こんなに幸せを感じる事は出来なかったと思います」
やっぱり、あの時引き止めた判断は間違ってなかったと思う。
あの時引き止めてなかったら、今頃ミルクがどうしていたか分かったものじゃないしな。
◇◆◇◆◇◆
「一緒に、この家に住もうよ」
「でも、もう相当迷惑をかけているのに、この家に住む事になったら、もっと迷惑をかけてしまいます」
「迷惑なんて思ってないよ。それにミルクがいなくなったら、俺は寂しいよ」
「っ⋯⋯」
ミルクは僅かに頬を赤らめ、言った。
「いいんですか?」
「こっちからお願いしたいくらい」
「じゃあ⋯⋯お願いします」
そう言って、ミルクは再びこの家に入ってきた。
最初はミルクの過去を知ってしまったせいか、ちょっと気まずかったけど、いつの間にか普通に話すようになっていた。
こうして今に至る―――――
◇◆◇◆◇◆
「「ごちそうさまでした」」
俺が食器をキッチンに持っていこうとすると、
「あ、食器私が持っていきますよ?」
とミルクが言ってきた。
「いや、今日は俺が洗い物やるよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はミルクから食器を受け取ってキッチンに向かう。
あ、料理しないとはいえ洗い物くらいできるぞ?
俺はキッチンの蛇口をひねって水を出しながら、キッチンの方をチラリと見る。
すると、リビングにいるミルクもこちらを見ていて、俺は即座に目を逸らす。
いや、何かあるだろ?誰かの事見ていたら、目が合っちゃって何か気まずいやつ。
「ふふっ」
リビングからミルクの笑い声が聞こえてくる。
「な、なんだよ」
「いや、何でもありません」
そういいながら、ミルクの顔には笑顔が浮かんでいる。
まぁ、ミルクが笑っているならそれで良いのかも知れない。
そう思って、俺は洗い物を再開する。
こんな日常が、この後も続くといいな。
すいません。ちょっと予定重なって更新めっちゃ遅れました。
これからちょっと忙しくなるかもなので、更新遅れるかもです。




