同居者が出来た?
「誰か、助けてーーー!!!」
俺の起きた直後の微睡みは、聞こえてきた叫び声で一気に打ち消された。
「なんだ!?」
俺はすぐさま窓を覗き込む。
外では、俺が以前遭遇したレッドウルフから逃げている女の人がいた。
俺は、ドアを開けて叫んだ。
「早く、この中に入って!」
俺は一旦【魔法障壁】を解除し、女の人が家に入ってくると同時に【魔法障壁】を発動した。
次の瞬間、レッドウルフの突進音が響いた。
どんどんどんどんどんどん!!!!!
前の俺なら、めっちゃビビってただろうけど、もう破られないって知っているから、ビビったりはしない。だが、女の人は怯えてうずくまっている。
ここは俺が声をかけておくべきか。
「あー。【魔法障壁】は破られないから、安定して、イイデスヨ?」
⋯⋯まずい。召喚前も女子と話したことなかったし、ここ最近人と話してなかったから、めっちゃしどろもどろになってしまった。女の人うずくまったままだし。
本当にまずいぞこれは。レッドウルフの攻撃で【魔法障壁】が破られることはないが、レッドウルフの攻撃が止み、落ち着いて来たころ、気まずい空気になる恐れがある。
頼む、どうか女の人がフレンドリーであってくれ⋯⋯
やがて、レッドウルフの攻撃による音が消え、家の中は無音になった。
女の人はまだ怯えているが、そのうち落ち着いてくるだろう。
ヤバいってヤバいって。そろそろ気まずくなってくるって。
そして、ついに女の人が顔を上げた。
初めて正面から見た女の人の顔は、漫画とかでみるような、整った顔つきをしていた。
肌が綺麗で、目は大きく、澄んだ色をしていた。
髪は見るからにサラサラで、お腹辺りまで届く長さをしている。
それに対して服はボロボロで、泥や葉っぱなどで汚れている。レッドウルフから逃げてきたのもそうだろうが、レッドウルフの足の速さからして、そんなに長い間逃げ続ける事はできないはずだ。
つまり、そんなに長い距離を走っていない。
その割には、服が汚れ過ぎている気がする。
「あの」
「あっはいなんですか」
「た、助けていただき、本当にありがとうございました」
感謝された時って、どう返すのが正解なんだ?
選択肢① 「どういたしまして」
選択肢② 「いえいえ、これくらい感謝されることでもありません(イケメン)
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「ど、どういたしまして」
し、しまった。イケメン感出そうと思ったのに普通に返してしまった。
「それで⋯⋯」
「?」
「無理なお願いなのはわかっているのですが、3日ほど泊めて頂けないでしょうか」
◇◆◇◆◇◆
少し時間が経ち、今は朝ごはん中だ。
部屋の中央にあるテーブルで食べていて、俺の向かい側の席には――――さっきの女の人もいた。
結局、女の人を泊める事にした。
だって、レッドウルフから逃げて来ただけにしては、服がボロボロ過ぎだし、明らかに訳ありな感じがするだろ?
そんな人を放って置くほど、男が廃っちゃいないからな。
ちなみに朝ごはんのメニューは昨日と同じく野菜炒めだ。なんでメニューが変わっていないんだって?料理ができないからだよ!
ていうか、めっちゃ気まずいんだけど。
女の人黙々と食べてるし、無表情ってわけでもないが、笑ってるわけでもない。
うーん。ちょっと話しかけて見るか。
いやー、でもなー。いきなり話しかけたら引かれるかもだし、そもそも話しかけても話題無いし。ていうかまず無言の人に話しかける勇気が湧かねぇよ!
どうしよっかなー。話しかけた方がいいかなー。
「あの」
「はっ、はい!どうかしましたか!」
急に話しかけられたせいでちょっと食い気味に返答してしまった。引かれないかな⋯⋯?
「お名前をうかがってもよろしいでしょうか⋯⋯?」
「り、律です。三時律と申します」
「リツさんと言うのですね。2回目になるんですが、助けていただいてありがとうございました」
「あっそれは、全然大丈夫ですよ」
「それに食べ物までいただいて、何かお礼をさせて頂けないでしょうか?」
「お礼なんて、いらないですよこのくらい」
「いえ、あのままでは私はレッドウルフに殺されていました。リツさんは命の恩人です。ぜひとも何かお礼をさせてください」
「お礼と言われましても⋯⋯」
「では、私にご飯を作らせてください。料理なら自信があります」
「じゃ、じゃあそれで⋯⋯」
「はい。今日のお昼ご飯から、私が作りますね。ごちそうさまでした」
女の人は、いつの間にかご飯を食べ終わっていた。
使用済みの食器を持ってキッチンへと向かう女の人が急に振り返って言った。
「申し遅れました。私は、ミルクと申します。あと、洗い物も私がやりますね」
女の人―――ミルクさんは、キッチンに行って、食器を洗い始める。
俺もご飯を食べ終わって、キッチンに食器を持っていく。
「あ、それも私が洗いますよ!」
「あ、ありがとうございます、ミルクさん」
「ミルクでいいですよ。あと敬語も」
「あ、ありがとう、ミルク」
「はい。それで」
ここからが、俺の、本当の異世界生活の始まりだった。




