街に行こう
朝、ミルクよりも早く起きた俺は、リビングの椅子に座って固有スキルがレベルアップして手に入った能力を詳しく見ていた。
すると、まだ全部は見ていないが、いくつか興味深いものがあった。
1つ目は、家の四次元空間化、というものだ。
家の外観や必要素材は変わらずに、家の広さを自由に変えられる能力らしい。
とはいえ、無限に広く出来るわけではなく、限界は決まっているみたいだ。
2つ目が、家のサイズ変更だ。
これは1つ目とは逆で、家の広さは変えずに、家の大きさを変える能力だ。
ポケットサイズまで縮小する事も出来るし、逆に城ぐらいまで大きくする事も出来る。
これと【家改造】を合わせれば、本当の城にすることも出来る。
さらに、【飛行】なども合わせれば、飛行船とかも作れるかも知れない。ロマンがある。
ちなみに、縮小する時は中にいる人も一緒に小さくする事も出来る。
3つ目が、家の複製だ。
文字通り今の家の複製を作ることが出来る。
今の家と全く同じ家を作ってもいいし、違う形にする事も出来る。
最大10個まで複製可能で、追加で建築材料を消費したりはしない。
家の機能もちゃんと引き継いでいるから、【飛行】を使う事も出来る。
なぜこんな事を説明したかと言うと、今日街に行くためだ。
それだけじゃ分からない?じゃあもう少し詳しく説明しよう。
ミルクがこの森まで逃げてきた理由を覚えているか?
父が残した借金を返すことが出来ず、借金取りから逃げてきたからだ。
勘のいい人はもう分かったか?
街には借金取りがいる可能性があり、そいつらからミルクを隠すためにこの機能がちょうどいいんだ。
家の複製は、咄嗟にミルクを隠したり、持ち帰るのに使えると思う。
街に行く理由は、冒険者ギルドに入り、お金を稼ぐためだ。そして、いつかミルクの借金を返し、ミルクの母を取り戻したい。
そうすればきっと、ミルクは今よりもっと笑っていられるから。
もうミルクは俺にとって他人じゃない。れっきとした友達だ。
友達が困っているのなら、俺は力になりたい。絶対に助けてやる。
と、俺が意気込んでいると、目が覚めたミルクがリビングまでやって来た。
「おはよう」
「むにゃ⋯⋯おはようございます⋯⋯」
眠そうに返してきたミルクに、早速街に行く事を伝える。
「ミルク。今日は街に行ってみたいと思う」
すると、ミルクの顔が驚愕と僅かな恐怖に染まる。
分かってはいたが、やっぱり胸が痛む。ミルクに借金取り達の恐怖を思い出させてしまったのだから。
「ま、街⋯⋯ですか?ちなみに⋯⋯どこの国の街に?」
「クライムっていう国に行こうと思う」
「そ、そうですか⋯⋯」
ミルクが、ホッとしたような表情を浮かべた。
「心配しなくても、ミルクの故郷には行かないよ。借金取りがいるかも知れないからね」
「ありがとうございます」
そう言って、ミルクは少しだけ微笑む。
「じゃあ、ご飯作ってきますね」
「分かった。今のうちに【飛行】で家を移動させるね」
ミルクにそう言って、俺はウィンドウを開く。
ウィンドウにマップを表示させて、クライムという表記を探す。
しばらく探していると、クライムの表記を見つけた。
だが、その隣にイスカ、という表記がある。
イスカというのは、ミルクの故郷の国の名前だ。
もしかしたら、借金取りがクライムまで探しに来てるかもな。
見つからないために、なるべく顔の隠れる服を着ていく必要がありそうだ。
クライムには俺と一緒に召喚された勇者もいると思うし、俺も一応顔が隠れる服装をしていくとしよう。
俺は新しく手に入った能力の一つ、【自動運転】を起動して、目的地をクライムの近くに設定する。クライムに設定しなかったのは、空飛ぶ家が目撃されると、色々と面倒な事になりそうだからだ。
別にそこまで急いでいるわけでもないので、スピードはゆっくりめに設定しておく。
そんな感じで少し手間取りながらも設定を終えると、ちょうどミルクから声がかかった。
「ご飯出来ましたよ〜」
「分かった。運ぶの手伝うよ」
数分後、料理をテーブルに運び終え、二人で席につき手を合わせる
「「いただきます」」
今日は、こないだの焼きおにぎりが気に入ったのか、6つの焼きおにぎりと、卵焼き。それと味噌汁だ。
俺は、よだれがたれそうになるのを抑え、早速焼きおにぎりに手をのばした。
いつも通りとても美味しかったミルクの料理に舌鼓を打ちながら食べていると、いつの間にか全てを平らげてしまっていた。
「「ごちそうさまでした」」
今日は俺が洗い物をやろうと、ミルクの分まで食器を持っていく。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
律儀にお礼を言ったミルクに短く返してから、俺は洗い物を始めた。
洗い物を終えてリビングに戻ると、ミルクがこっちを見て聞いてきた。
「街にはあとどれくらいで着くんですか?」
「多分、あと1時間もすれば着くと思うよ」
「リツさんは家から出ても大丈夫なんですか?」
「うん。もうHPは十分貯まってるし、ミルクを一人で外に出すわけにはいけないからね」
「ありがとうございます」
ミルクは嬉しそうに笑う。
つられて俺も笑うと、ミルクはさらに笑って、俺もさらに笑う。
そんなちょっとした幸せを、俺は感じていた。




