第7章②:光羽の魔導姫、初野営に行く
辺境伯領の森の入り口。朝日が木々の間から差し込み、朝露が葉先できらめく。ルミナ・ベルフォートは小さなバッグを肩にかけ、胸に高鳴る期待と緊張を抱えながら森の奥へと足を踏み入れた。今日はギルドの初の野営兼討伐任務。目的は、小型魔物の調査と、魔道具の試運転だ。
「……さて、今日はどんな実験になるかしら」
ルミナはバッグから魔道具を取り出す。手元には数種類の小型装置――浮遊羽根のプロトタイプ、魔力安定球、風圧シールド――が揃っていた。羽根は微かな光を放ち、風魔法を反応させるとふわりと空中に舞う。小さな光球はシールド魔法と組み合わせることで防御範囲を広げ、攻撃と防御を同時に行える仕組みだ。
「……手強い相手になっても大丈夫かな」
森の奥から、魔物の気配が微かに伝わる。ルミナは集中して目を細める。
「カイル様、少し見ていてくださいね」
ギルドマスターであり、辺境伯の次男でもあるカイル・アッシュフィールドは、木陰から彼女を見守る。彼の鋭い眼光が、戦場での目配りを欠かさない。
「無理はするな」
ルミナは微笑み、風魔法で小型魔物を押し留めながら、光球を展開する。すると、森の闇に紛れたゴブリンが二体、こちらに気付き、牙を剥きながら飛びかかってきた。
「まずはこの子から……!」
ルミナは魔道具「浮遊羽根」を振り、風圧でゴブリンを宙に押し上げる。その瞬間、光球シールドを展開して落下時の衝撃を吸収。地面に叩きつけられたゴブリンは動きを止め、他の魔物たちは警戒して距離を取った。
カイルは剣を抜き、護衛兼支援の構えを取る。「……手強いな、こいつら」
ルミナは軽く頷き、次の魔物を狙う。魔道具の操作は熟練者の腕を必要とするが、彼女は冷静にタイミングを見極め、連続攻撃を繰り出す。羽根を操りながら風を巻き上げ、ゴブリンたちを翻弄するさまは、まるで風そのものが戦っているかのようだ。
しかし突然、魔道具「光羽のプロトタイプ」が暴走する。光球が制御不能となり、森の中で光と風が渦を巻く。
「うわっ、これは……!」
ルミナは焦ることなく、シールド魔法で光球を抑え、羽根を操って空中で安定させた。火花が散り、木の枝をかすめるが、被害は最小限。
「……まだ改良が必要ですね」
カイルは息をつきながらも、目の前で繰り広げられる戦闘の手際に感心する。「……無茶するな」
「無茶じゃないです、挑戦です」
その答えに、カイルは微かに眉を上げる。心配と同時に、手を出す必要のない強さに、少しだけ独占欲が芽生えた。
戦闘は続き、魔物たちはルミナの戦術に翻弄され、次々と退散する。森の奥深く、風と光の渦が静まるころには、周囲に散らばった小石や葉が光にきらめき、戦場は静寂に包まれていた。
「……やっぱり、私の魔道具、面白いですわ」
ルミナは地面に膝をつき、バッグから新たな改良案を取り出す。カイルは木の陰で、彼女の横顔を見つめた。彼女の集中した姿、誇らしげに魔道具をいじる姿は、冒険者としても、令嬢としても、目を離せない存在だった。
日が傾き、夜が訪れる。二人は森の中に簡易テントを張り、焚火を囲んだ。ルミナは地面に座り、魔道具のメンテナンスを行う。カイルは隣に座り、焚火の温もりと森の静けさを楽しみつつ、時折ルミナの作業を見守る。
「……怪我はないか?」
「大丈夫です、カイル様。私は無事です」
小さな笑みが夜空に溶ける。火の粉が二人の間をちらちらと舞い、星空が静かに広がる。
「今日の戦い、なかなか手ごわかったな」
「ええ。でも、少しだけ改良点が見つかりました。明日にはもっと安定させます」
カイルは頷き、静かに額にキスを落とす。「……無理はするなよ」
不意打ちのキスにルミナの頬が熱くなる。
初めての夜の甘さは、ほんの一瞬、しかし確かに二人の距離を縮めた。森の静寂と星明かりの中で、光羽の魔導姫と辺境伯の次男は、初めての野営を満喫していた。




