第4章:光羽の魔導姫、ギルド初仕事とかすかな影
ギルドの重い扉を押し開けたルミナ・ベルフォート。
銀の髪が朝日にきらめき、緑の瞳には確かな決意が宿っていた。
理不尽な婚約破棄――レオン・ド・ラフォールの顔などもう思い出したくもないが、その一件が、彼女の中の“自分の人生を選ぶ”という覚悟を強くしたのも事実だ。
「……さて、初仕事はどんな依頼かしら」
胸の奥で小さく深呼吸し、軽い鞄から新作の魔道具を取り出す。
風魔法で羽を浮かせ、光球をシールドで包みながら操ると、ギルド内がざわめいた。
「おい見ろ、銀髪の嬢ちゃん……魔道具、動かしてないか?」
「えっ、ただの新人じゃねぇの?」
注目を浴びるなか、カイル・アッシュフィールドが腕を組んで近づいた。
「……無理はするなよ」
「大丈夫です、カイル様。私、自分のことは自分で守れますから」
依頼内容は村近郊の小型魔物の調査と討伐。
ルミナは魔道具と魔法を組み合わせて敵を翻弄する。
「《ウィンド・スナップ》」
風で魔物の動きを止め、シールドで仲間を守りながら次々撃退。
冒険者たちも思わず息を呑むほどの鮮やかさだ。
しかし。
「……あら?」
新作魔道具『光羽のプロトタイプ』が突如、光を散らしながら暴走した。
「ちょ、ちょっと待って! 止まりなさいってば!」
カイルが焦り気味に手を伸ばすより早く、ルミナが風の渦で包み込み、光羽を静かに沈める。
「……ふぅ。やっぱり、もう少し調整ですね」
「無茶するなって言っただろ」
「挑戦です。無茶じゃありません」
彼女の笑顔に、カイルの胸がまた静かに疼いた。
ギルドに戻ると
「おおっ、銀髪の新入り戻ってきたぞ!」
「すげぇじゃねぇか、お嬢ちゃん!」
思いのほか大きな拍手と歓声がルミナを迎えた。
カイルは無表情を保ちながらも、どこか誇らしげだ。
ルミナは照れくさそうに微笑みながら、仲間の称賛を受け取った。
ギルドの宿で夕食を終え、ルミナはテーブルに広げた魔道具のメモに没頭していた。
「今日の暴走は、魔力の循環効率の問題ですね……」
カイルは隣で腕を組んだまま、彼女を横目で見ていた。
「……やっぱり、お前は只者じゃない」
その呟きはルミナには届かない。
窓の外、星が瞬く夜。その静寂を破るように、廊下を通る冒険者たちの声が耳に入った。
「なぁ聞いたか? あのラフォール家の若様、まだ銀髪のお嬢さんを探してるらしいぞ」
「噂じゃ、ギルドに向かったとか……?」
カイルの表情がわずかに険しくなった。
ルミナはその名前にほんの一瞬眉を動かしたが、ゆっくりと息を吐いて言う。
「……もう関係ありません。私は、こっちの道を選びましたから」
その言葉に、カイルの胸の奥で何かが小さく灯った。
「なら、もう少し俺を頼れ」
「ふふ、はい。では、必要な時は」
夜は深まり、静かな灯火だけが二人の影を揺らす。
しかしその影の外で――
ルミナの知らないところで、レオンの探す足音はすでに近づいていた。




