“最強の魔法使い”だったのに目覚めたら“最弱の魔法使い”になっていました。
この話は導入しか書いてません
気が向いたら続けるかもしれません。
昔、二つの国が戦争を起こした。
一つはアレース国、一つはマールス国、戦いは長きに渡った。
しかし、その戦いに終止符を打つために、アレース国は一人の魔法使いを招集した。
その名前は__セレーネ、彼女は一国を亡ぼす力を持つとされた。
その脅威を恐れたのか、マールス国はセレーネを罠にはめ、石化の魔法で封印をした。
戦時中、石化されたセレーネは厳重に保管されていたが、戦後、行方を晦まし、現在も行方が分からないままだ。
重たい扉を開ける、太陽の光が中に入り、舞っている埃がよく見える。蔵の中には埃被った骨董品や美術品が置かれていた。中に入った男__ナブーは此処には初めて入る。この蔵は代々伝わるもので、この中に収蔵されている物は、大切に保管しなければいけないという掟がある。先代の父が病気で早死にしたため、若き跡取りとして、彼がこの蔵の管理を任された。
「これは…」目の前にあるのは石像だ。見た所女性の像だ。まるで生きていた人間をそのまま石にしたようだった。今にも動き出しそうで、その瞳が瞬きしそうで、眼を離すことができなかった。
しかし、動く気配もせず、宙に舞う埃のみが時を動かしていた。
こんなものがあったなんてナブーは感嘆した。そっと、手を伸ばした動くわけがない無機物の石像に触れてみたいと思った。指先が目と鼻の先まで近づいた、その瞬間__
ゴーンゴーンと低く重たい鐘の音がした。音の正体は薄暗く見えなかった振り子時計だろう。今まで全く針が触れる音がしなかった。蔵の中で何処からか風が巻き上がる。埃被っていた石像は、いつの間にか風によって塵一つも付いていなかった。ミシミシと音が聞こえる、石像を見るとひび割れているように見えた。しかし、石の表面が剝がれ落ちていることだと分かった。日光のせいだろうか、この場面はとても神々しく思えた。
全ての石が剥がれ落ち、人肌が現れた。姿形は石像のままだ。ふわりと降り立った女性は目を開けた。
「ここは…」まさか本当に人間が出てくるとは思わず、ナブーは呆然としていた。
「貴方は?」恐る恐る聞いてみると、目の前の女性はナブーの存在に今気づいたのか、驚いた様子でこちらを見ていた。青く輝いた目が美しかった。
「知らないの?」
「へ、」いきなりの疑問に驚いた。勿論、ナブーはこの女性のことを見たことも聞いたこともなかった。
「そう、私はアレース国聖職魔導士__セレーネよ。」
「聖職魔導士…」恐らく、神に仕えていた魔法使いだろう。古い言い方で聞きなじみがない。
「聞いたことなの?」
「はい、というかアレース国って?」
「え、此処アレース国ではないの。」
「はい、それに聞いたこともありません。」
「私が封印されていた間にそんなことが起きていたなんて…」なんだか神妙な顔をしていた。
「封印?」
「ええ、この魔法解読するまで結構時間かかったのよね。私、何時からいた?」
「ええっと、代々伝わるものだったので、正確には分からないです。」
「じゃあ、この建物は?」
「祖父からの話によるともう何百年も前と…」
「何百年!」途端に大きな声を発した。
「嘘、私何百年間も封印解いてたの。」そうセレーネは絶望した。
「あの、封印って。」
「ああ、私石になっていたでしょう。あれ複雑でね呪いとか色んなもの混ぜていたみたいだし。」
「はあ、取り敢えず、詳しい事は中で話しません?」
「…話をまとめると、貴方はアレース国の魔法使いで、封印によってずっと此処に居たんですね。そして、封印が解読出来て今に至ると。」
「私自身よくわかってないけど、多分そんな感じだわ。」と言ってセレーネは紅茶を啜った。
「おいしいわね、これ。」
「そうですか、安物ですけど。」
「王室の茶葉でもこんなおいしいのは無かったわ。」ともう一口啜った。どうやら、王室とも関わりがあったらしい、かなりの高貴な者だったのか__とナブーは思考した。
「このままじゃ、らちが明かないので調べません?文献とか残っているかもしれません。」
「そうね、この辺に図書館とかあるのかしら。」
「私の家系は代々“蔵書”なんです。」
「蔵書?なにそれ。」
「昔の記録、魔導書などが此処に保管されています。行ってみませんか?」
蔵書室は家の一番奥に位置している。昔は図書館として開放していたようだが、今は本の劣化が懸念され、管理のみになっている。蔵書室の扉を開けると途轍もない数の本が広がっていた。螺旋階段で上に上がれるようになっておりその壁伝いにも本棚がある。
「すごい、王室図書館並みにあるわ。」
「本は今でも増え続けているんです。この国の本は大体此処にあります。」と言って、ナブーは魔法で彼女の国について関連しそうな本を本棚から抜き出した。その様子をセレーネは興味深そうに見ていた。
「貴方、魔法使いなの!」
「いえ、そうではないです。」
「じゃあ、何で魔法使えるの。」
「これ位、みんな使えますよ。」そう言って続けざまに本を抜き出した。
「何てこと…貴方大魔法使いになれるわよ。」セレーネはナブーの肩を持った。
「ええ…」
「私でもこんな芸当中々出来ないわ。」その言葉にナブーは心底驚いた。勿論、今ナブーが扱っている魔法は子供でもできる程度だ、それができないなんて、昔はどうしていたのか心配になった。
「何年前か分かれば、少しは楽なんですけどね…」
「んー__あ。」何かに気付いた様子だった。
「最後に見た新聞にはVY年だったわ。」
「え、VY年。」とオウム返しに聞いてきた。
「ええ。どうしたの?」
「今、1FE年ですよ。」
「う、嘘。」どうやら彼女は700年前の者らしい。
「取り敢えず、700年前のことが記されている文献を探してみますね。」そう言って手当たり次第、本を取り出す。セレーネは手伝おうとしたが、ナブーに止めさせられた。
「あった…」とナブーが呟く。それを聞いてセレーネはナブーが持っていた本を覗き込む。
書いてあったのは、アレース国とマールス国の戦争、アレース国の伝説の魔法使いのことが書かれていた。
「名前も同じ、ってことは本当にこの本の人なんですね。」
「だから言ったでしょう。」と何故だか満足げに言っている。
「でも…この戦争の結末はどこにも書いていないですね。何かあったのでしょうか。」
「そうね…後述の記録にも載ってないわ。」と言ってセレーネが持っていた本を閉じる。
「取り敢えず、これからどうします?」
「行く当ても無いから、貴方の所でお世話になっていいかしら?」
「はあ、別にいいですが、この国に住むには登録しなければいけないんです。」
「登録?」
「自分の情報を記録するんです。例えば年齢とか魔力ですかね。」
「魔力?」セレーネは首を傾げた。
「はい?」
「魔力って何かしら!」
「知らないんですか⁉」ナブーは驚いて大声を出した。
「えーえっと魔力っていうのはですね、魔法が扱える力の量です。」
「そんなものが…」セレーネは感心した様子だった。
「と、取り敢えず測って見ましょう。」
そして、住民登録と魔力測量のために街へ行った。
此処の街はこの辺りでは最も栄えている所だが、昔の建物も建ち並ぶ、文化的な街でもある。
「こんなに発展しているなんて、私が居た首都よりも発展しているわ。」
「700年も経っているので街も発展しますよ。」二人は石畳の上を並んで歩く、物珍しそうに街を見ているセレーネはまるで田舎から来た少女のようだとナブーは思った。
「ここですよ。」とナブーが立ち止まった先は一際目立つ施設だった。
「住民登録ですね、承りました。」そう言って施設の職員は魔法で情報を測った。
「魔法!貴方も魔法使いなの。」
「いえ、違いますよ。この魔法は代々伝わる家系魔法ですから、これしきの魔法は普通ですよ。」その言葉にセレーネは目をぱちくりさせた。
「変わった方ですねーこの年齢で登録をしていないなんて。」
「そ、そうですよねー」まさか、700年前の人物とは言えるわけがなくナブーは乾いた笑いをした。
暫くして、
「登録が完了しました。ですが、少し気になったことがありまして。」と職員は不思議そうな顔で話し始めた。
「なんでしょうか?」
「セレーネさんの魔力量ですが、」魔力の測量結果を二人に見せる。
「魔力量10これは子供が持つ魔力の10分の1です。」
「え!!」二人は驚いた。普通の大人が持つ魔力は最低限でも1000ある、子供でさえ100という数値が出るのにセレーネはそれを下回る10をたたき出した。
「驚きです、こんな数値が出るなんて魔法に不具合でも起きたのかと。」
「少ないとは思っていたけど、まさかこんな少ないなんて…」
「もしかして私最弱ってこと。」とセレーネはまたもや絶望していた。
「そうみたいですね…」二人は驚いたまま施設を出た。
二人はナブーの家へ帰る為、石畳を歩いていた。
「これからどうします?」
「そうね…国も滅び、私を知る者はとうの昔に居なくなってしまった…」
「私って存在していたのかしら…」彼女は小さく呟いた。そして拳を握った。
「でも、もしかしたら、私がこの世に居た手がかりがあるのかもしれない。」彼女はナブーの方へ振り向いた。
「ねえ、ナブー私を捜してくれない?この世界のどこかに居た私を。」セレーネはナブーの目をしっかりと捉えた。
「いいですよ、貴方を捜してみましょう。」
これからセレーネの自分探しが始まった。
ナブーは一つ気になる点があった。それは先程見た文献だった。
『セレーネ』アレース王国の聖職魔導士
彼女は最強の魔法使いと謳われていた
彼女には国を亡ぼす力があったと
それは__死者を蘇らせる魔法だと
死者を蘇らせる魔法、そんなものは今まで存在しない空想の魔法だとナブーは思っていた。もしも、そんな力が存在したら…彼女は本当に最強だったのかもしれない。
ナブーはそう思ったが、考えることをやめた。