5.誤魔化し
赤羽先輩の低い声と雰囲気に私は怯えながらも、頷けばきっと何もされないはずなのに、どうしてか言葉に迷って口をもごもごさせる。
そんな私を見て、しびれを切らした様に更に強く胸ぐらを掴み赤羽先輩は私の瞳を覗いてくる。
不機嫌で、でも真っ直ぐで、私は怯えて泣きそうになり、口を動かそうと息を吸い、はいと返事をしながら頷こうとする。
その瞬間、階段を誰かが上って来る足音が聞こえて、赤羽先輩の手が私を突き離しまるで何事も無かったかのように距離が空き、赤羽先輩は階段に視線を向ける。
「あら、丁度良かったわ。今日もありがとう。赤羽ちゃん、石松さん」
階段から現れたのは桜井先生で、相変わらずの笑顔で私達に言葉をかけてくる。
「鍵」
それを赤羽先輩は平然と無視して鍵を押し付け、足早に階段を降りて消えてしまう。
赤羽先輩の気配が消えて、私は緊張が解けると同時に思い出したように荒い息を繰り返し体が震える。
先程、赤羽先輩にされた事を桜井先生に言った方が良いのだろうか。それとも黙っておくべきだろうか。
私はどうするか頭の中でぐるぐると迷っていると、先生が一歩私に近付く。
「石松さん?」
私を見て何かを感じたのだろうか、一言名前を呼ばれて私はまた緊張する。
言うべきか否か私は迷った末、言ったら赤羽先輩に怒られそうなので隠そうと出来るだけ何事もなかったように桜井先生に視線を向けて言う。
「さようなら、桜井先生」
「待って、石松さん。赤羽ちゃんに何かされた?」
ドキッとする言葉を聞いて、私は思わず体が固まり動きを止める。でもすぐにどうにか誤魔化せないかと必死に考えて言葉を返す。
「いえ。ただ、ずっと機嫌が悪そうで、ちょっと怖いなって。いつもなんですか?」
「教室ではあんまりそう言う事ないんだけど、図書室だといつもね。図書委員の仕事が気に食わないのかしら?」
「そ、そうかも知れませんね」
多分いや絶対にそうだと思うけど、桜井先生は冗談なのかマジなのか不思議そうに首を傾げていて軽く言葉を返して笑い、ふと疑問に思う。
どうして赤羽先輩は図書委員長なのだろうかと。それを桜井先生に聞いてみると、
「私が推薦してお願いしたの。ふふっ」
なんとなく想像が出来る答えが返ってきて、不機嫌な理由を確信する。きっとやりたくもない事をやらされているんだと。
それなら不機嫌でも仕方ない気がするなと、少し赤羽先輩に同情して心が軽くなる。
「赤羽先輩、大変ですね」
「あら、そんな事言ってくれるなんて、石松さんは優しいわね。それじゃ、これ以上ここにいたら長話しちゃいそうだから、行きましょう。もう帰るのよね?」
「はい」
歩き始めた先生に付いて行きどうにか誤魔化せたかなと思っていると、桜井先生と別れる直前、笑顔で言われる。
「本当はあまり良くないけど、今回は目を瞑るわ。でも、次また何かあったら必ず言って頂戴ね。石松さん」
「えっ、あっ、はい」
「ふふっ、さようなら」
手を振ってくる桜井先生に、私は心臓をバクバクさせながらも手を振り返した。
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